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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第12章「初めての県大会」
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第87話「結果は結果」

 2022年度の県大会が終わり、結果を聞いた奏太たちは西田高校に戻ってきていた。県大会を突破することこそできたものの、最下位での通過だったこと、あと1点でも足りなかったら突破することはできていなかったということは彼らにとってかなりショックで、帰りのバスの中は楽しそうに話す様子は見られなかった。

 楽器を片付け、バスの運転手さんに挨拶をした後は音楽室に戻り、それぞれが黙って自分の席に着いた。山崎先生も自分の片付けを済ませて音楽室に入ってきたが、なんとなく空気が重いことに気づき、真剣な面持ちで前に立つと、話を始めた。

「皆さん、本日はお疲れ様でした。」

 生徒たちは依然としてしょんぼりした表情で先生の顔を見て、会釈した。

「...納得いきませんか?県大会を突破するという最低限の目的は達成できた筈です。」

「...」

「...そうですか、しかし、結果は結果、今回の演奏に対する審査員の先生方からのフィードバックです。一度出た結果は変えることができません。皆さんにできるのは次の大会に備えることです。」

 先生はそう言って、黒板に何やら数字を書き始めた。


 11...12...1...2


 先生はチョークでこの4つの数字を書くと、話を再開した。

「次の大会は2月の地方予選。あと3ヶ月ちょっとです。そこまでに皆さんは足りないところを補わなくてはいけません。皆さんが強化しなくてはいけないことは今回の演奏でハッキリしました。」


 先生は少しためてから強調して言った。

「それは、“本番への慣れ”です。今日の演奏は今まで練習してきたものを100パーセント、出すことができたとは言えないものでした。」

「...」

 本番慣れと聞いて、心当たりのある和田は俯きながら話を聞いていた。

「皆さんにとって、このアンバランスな編成で演奏を成功させなくてはならないことへのプレッシャーは思った以上に高いということが分かりました。加えて、今年は全国大会の15年連続優秀賞をかけた大切な年。プレッシャーはあって当たり前です。皆さんは全国大会までにこの編成で自信を持って練習の全てを出すことのできるような状態になっていなければならないということです。」

 先生はそこまで話してから、特に俯いている2年生たちに向けて言った。

「合同コンサート、地方予選、文化祭に加え、ボランティア演奏会など、これからの人前で演奏する機会をより一層大切にしながら、全国大会に向けて演奏への自信をつけていけるように頑張っていきましょう。」

「はいっ!!」

 先程までは俯いていた生徒たちも先生からの前向きな言葉を聞いて、少しだけ元気を取り戻し、全員で声を合わせて返事をした。

 こうして、西田高校の生徒たちは今後の演奏に向けて改めて気合を入れ直し、一同は解散となった。





 解散したあと、中川が帰ろうと自分の支度を済ませ、廊下を歩いていると、部室から声がした。

「中川くん。」

「ん?」

 見ると、部室で和田が彼のことを呼んでいた。

「なんだ和田か、今日はお疲れ。色々とプレッシャーもあって大変だったと思うけどあまり気にすることはないぞ。とりあえず次には進めたんだから。」

「...うん、分かってる。」

 和田はそう言って作り笑顔をして見せた。そしてその後真剣な表情になって、口を開いた。

「...中川くん、ちょっと話があるの。」

「...話?」



 ・

 ・

 ・




 その頃 奏太と糸成はいつも通り帰り道にいた。

「それにしても、悔しいよな、地方予選進出とは言え、実はギリギリだったなんて知ると、なんかモヤモヤしてくるというか。」

 糸成がそう言って審査表を見つめると、奏太も悔しがって話した。

「ああ、それに合同コンサートの学校は俺たち以外みんな123に入ってるからな。それ見た時俺余計に悔しくなってきたよ!」

 奏太の言うように、


 1位 江沢高等学校

 2位 郷園中学高等学校

 3位 雄ヶ座高等学校

 4位 (他校)

 5位 (他校)

 6位 西田高等学校


 となっており、合同コンサートに出演する西田高校以外の学校が1位から3位を独占する形となっており、彼にとってはそれが何より悔しいと感じた。


「そうだね、それより俺はこの審査コメントを見たときにカチンときたね。“全体的な未熟さ・技術不足が目立った。演奏経験が足りていない。”なんて書かれて黙っていられるかよ!」

 糸成も審査員の先生からのコメントを見て、カッとした。大会では審査員の先生が各学校の演奏にコメントを寄せる。楽曲の演奏に対して専門家の視点から色々と書いてくれるのだが、糸成はその中のそんな文が気に入らなかった模様である。

「ああ、ほんとにな!次の地方予選ではもうこんなこと書かれないようにしてやろうぜ!」

「次の本番は合同コンサート、さっきの話も裏を返せば、県でトップの3校の中に混ざって弾けるんだ。この際色々吸収してやろうぜ!」


 こうして奏太たちは改めて練習に向けた気合を入れ直し、帰路を歩むのであった。

お読みいただきありがとうございます。

思いのほか長い時間をかけて描いてきた県大会編が今回で幕を閉じ、次回から第13章です。

山崎先生は指揮をしながらコンミスのプレッシャーに押しつぶされた和田を中心に演奏が傾いていたことに気づいていますから、彼らに足りないものは「このメンバーで演奏を成功させることへのプレッシャーへの慣れ」であると指摘しました。彼らは今後の練習でこの弱点を克服できるのでしょうか。

そして奏太たちの次なる本番は江沢高等学校、郷園中学高等学校、雄ヶ座高等学校との「合同コンサート」です。顔合わせで会った個性豊かなメンバーたちとの合同練習は一体どういった様子になるのでしょうか。

また、次の章のうちに冬休みを挟む予定です。クリスマス、正月など、イベントも多い時期ですが、西田高校ではどういった動きが見られるかについてもお楽しみに。

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