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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第12章「初めての県大会」
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第86話「順位」

 「ー続いて、フェスティバル賞の発表に移ります。」

西田高校の優秀賞が発表された後は残る高校の結果が発表され、優秀賞を獲得した学校が出揃った。この時点で優秀賞を獲得した6校の地方予選進出は確定しているが、まだ“フェスティバル賞”の発表が控えている。フェスティバル賞は1位の学校のことで、つまり優勝校である。これ以下の順位については審査表を見るまでわからない。江沢(えざわ)西田(にしだ)に加え、雄ヶ座(ゆうがざ)郷園(ごうえん)も優秀賞を獲得した。優秀賞の学校は地方予選へ駒を進めるという最低限の目標は達成しているとはいえ、やはり1番の目標は優勝。フェスティバル賞の発表も心待ちにしているのだ。



ー他の共学なんかに負けるもんか..!勝つのは俺らだ!

ーフン、全国のようにはいきませんわ。一番優れているのは私たちです。

ーさて、審査員の先生たちはあの演奏をどう見たのか。



各学校の生徒はそれぞれの感情を胸に結果発表を待ち構える。



ー呼ばれてくれ...

奏太も緊張した様子で手を合わせながら結果を待つ。



 そして、結果が呼ばれた。

「プログラム4番。江沢高校!」


 再び会場に歓声が上がる。江沢高校の生徒たちの喜びである。先程の優秀賞が発表された時の歓声とはやはり比べ物にならない喜びようだった。

「...くそっ!負けちまったか!」

奏太は振り返って様子を見ながら、顔合わせの時の来海(くるみ)河本(こうもと)の態度を思い出し、悔しがった。

「あー今年は江沢かー!悔しい〜!一体どんな演奏だったんだろう!」

和田も悔しそうな表情をしながら江沢の演奏を気にした。プログラム4番である江沢が演奏をしていた時、西田高校はリハーサルを行っていたため、演奏を聴けていないのである。

「...あの郷園や雄ヶ座よりいい演奏をしたってことか、どこも強敵だな...俺たちは結局何位だったんだろう。」

拍手をしながら糸成は冷静につぶやいた。


 ステージでは江沢高校の代表生徒が審査委員長から賞状とトロフィーを受け取り、客席に向けて誇らしげに掲げた。彼女に対して会場全体からあつい拍手が贈られた。

 

 こうして2022年度の県大会は江沢高校の優勝という形で幕を下ろしたのだった。




 表彰式が終わった後は控室へ向けて廊下を歩きながら奏太たちは話をしていた。

「次に進めて安心したけど、優勝逃したの悔しかったね」

「はい!次の大会では見返してやりましょうよ!」

奏太が和田に対して気合を入れると、別の通路からちょうど水島がやってきた。

「あ!サキコ!」

和田が水島に気づいて声をかけると、水島は持っていた紙を握りしめて返事をした。

「あ、うん。みんな!」

「優勝はできなかったけどとりあえず次に進めて安心したね!」

和田がそう言うと水島は複雑そうな表情で和田の顔を見た。

「...そ、そうだね」

水島の顔は若干引き攣っており、いつも通りではなかった。水島の性格を考えるに先程まで舞台上、人前にいた緊張感でないことは明白だったため、不思議に思った山口が尋ねた。

「どうしたの咲子。次に進めたのに浮かない顔ね。」

「...そ、それがね...」

山口から指摘されて、水島はおそるおそる理由を話し始めた。






「えっ!?結構危なかった!?」

水島の説明を聞いて、一同は驚愕した。

「...うん、そうなの。表彰式のあとね、山崎先生が審査表を持ってきてくれたんだけどね。見てよこれ。」

山口は水島から審査表を受け取ると、中身を確認した。

「...!こ、これって...!」

「...せ、先輩。何があったんですか。」

審査表を見て、山口は顔色を変えた。そんな二人のやりとりを見ていて、奏太は恐る恐る何があったかを確認した。

「それがね...私たち、6位なの。」




「...6位!?」

その数字が意味することを奏太たちはよく理解した。

「...つ、つまり県大会を突破できた学校の中で俺たちが一番順位が低かったってことですか...」

今回、優秀賞になるのは上位6校。つまり、奏太たちはギリギリで県大会を突破できた学校だということである。


それに加え、今回はもう一つ...

「...それとね、私たち、6位をもらえてるんだけどね、7位の学校と得点が同じなの...」

「えっ!?どういうことですか!?」

同じ得点なのに賞が違う、不思議な仕組みに疑問を感じ、奏太たちは思わず聞き返した。これには山口が説明した。

「たぶんね、得点が同じになっても審査員の話し合いで優劣をつけて順位づけをしないといけないルールなの、審査員の先生方が私たちの方を選んでくれたみたいだから6位になれたけど、改めて考えるとかなり危ない状況だったと言えるわね。」

山口の言う通りで、マンドリンの大会では同じ得点になっても審査員の話し合いで優劣をつける。これは優勝をかけた1位2位でも、今回のような次の大会へのボーダーライン上でも例外ではない。今回の場合、7位の学校と西田高校の得点が同じで、審査員の話し合いの末、西田高校の方が優秀と判断されたため、奏太たちは優秀賞を獲得することができたのだ。


「何よそれ...。」

ギリギリの突破と知り、和田は思わず身震いをした。

「大会突破できて安心、なんて言ってる場合じゃないじゃない...」

「和田ちゃん...」

あと1点でも足りなかったら、...いや、それどころか審査員がもう一方の学校の方が西田高校より優秀と判断したなら今頃大会の突破はできていなかったという事実は西田高校の生徒にはとても大きな衝撃であった。




 突破することこそできたものの、このように西田高校の生徒たちにとって、県大会は複雑な結果で幕を下ろしたのだった。

お読みいただきありがとうございます。


県大会の優勝校が江沢高校になりました。

また、作中で説明があった通り、マンドリンの大会では得点が同じ場合は審査員の話し合いで順位を決めるというルールになっています。実際に同じ得点でも優劣がつけられ、優勝が決まった例や次の大会に進出できる学校が選ばれた事例はあります。

前回の喜びから一転、奏太たちは一歩間違えば危なかったという結果を重く受け止めます。

これは次回以降の練習にどう影響していくのでしょうか。

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