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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第12章「初めての県大会」
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第83話「顔合わせ」

 中川と小野に連れられて奏太が控室に着くと、複数の学校が集まって談笑していた。

「あ、ソウタ!こっちこっち!」

糸成に呼ばれ、奏太が駆けていくと彼はきまり悪そうに謝った。

「置いていって悪かったな。俺トイレ行きたかったもんで中川先輩に任せて先に来てたんだ。お前演奏の衝撃で全然声かけても反応しなかったもんでな。」

「いや、別に大丈夫だけど...」

奏太はそう言って周りを見渡した。


「それより、これはなんの集まりなんだ?大会の結果はどうなった?」

奏太が首を傾げると、糸成は笑って答えた。

「ああ、お前のことだから昨日の先生の説明はあまりしっかり聞いてなかったんだろ。これは合同コンサートの顔合わせだよ。郷園の演奏が終わった後から結果発表の表彰式まではかなり時間がかかるからな。その間の時間を使って少しでも親睦を深めておこうっていうことらしいよ。」

「...さっきから合同合同って、なんだ?合同コンサートなんていつあるんだ?」

“合同コンサート”について全く心当たりのなかった奏太はますます困惑して、尋ねた。

「...なんだお前それも知らないのか。合同コンサートってのは、年明けの演奏会のことで、市内のマンドリン部が合同で開催するんだ。これは結構前から言われてただろ。」

「え、あ、そうなのか?全く知らなかった。」

 糸成にそう言われて、奏太は頭をさすりながらもう一度周りを見渡した。糸成のいう通り、奏太たちの暮らす市では毎年1月に“ニューイヤーコンサート”と題し、市内マンドリン部の合同コンサートが行われている。コンサートでは各学校の単独ステージはもちろん、合同で一つの合奏を作る合同演奏もあるため、全部の学校が集まる県大会でそれに向けての顔合わせが毎年行われているというわけである。


「...ん?市内合同ってことは、ひょっとして...」

「そ〜うだよっ!!」

「うわっ!!」

奏太が何かに気づいて言いかけたところで、後ろから誰かが飛びかかってきた。

「ちょ、誰だ...何すんだいきなり!!」

「...フフフ、いくら俺らの“交響的序曲”がかっこよかったからって、指名されると嬉しいなあ。よろしくよ大橋奏太くん。」

「あ!お前は、確か...()()()()()()!」

()()()()!それに名前も()()だっつうの!!共学なんてぬるい環境にいると人の名前も覚えらんねえのか!!」

見るとそこには開演前にも話した雄ヶ座(ゆうがざ)高校の生徒、相田快人(あいだかいと)がいた。

「え、誰?ソウタこの人と知り合いなのか?」

「ああ、ちょっとな。雄ヶ座の生徒らしい。それより、()()って何の話だ?」

快人に対し、奏太が先程のセリフの意味を確認すると、快人はノリノリで答えた。

「何ってそりゃあ、もちろん大橋奏太クンがうちとの合同演奏を楽しみにしてるんじゃないかなって思ってのことさ!さっき“()()()()()()”って何かを言いかけただろう?正直共学なんて生ぬるい連中と合同で演奏するのはどうかと思っていたけど〜?そんなにうちと合同で演奏するのが楽しみならこっちも仕方ないって思ってね〜!」

「え?いや、別に違うぞ俺は。」

快人に変に期待され、奏太はバッサリと否定して首を横に振った。

「えっ!?ええ!!?なんだと!?共学のくせに生意気な...!!」

奏太の否定に完全に呆気に取られた快人はショックのあまり後ろに後退りしてから顔を真っ赤にして怒った。


 「どうしたの?なんか騒がしいけど...」

奏太たちがこうして話していると、その騒々しいやりとりを不思議に思って美沙と奈緒がやってきた。

「あーミサさん今は来ない方が...」

奏太が美沙に気づいて止めたのも束の間、快人は怒っていた顔を一転し、ヘラヘラとした顔で美沙に迫った。

「うわお女子!しかもさっきのミサさんじゃん!!是非とも一緒に演奏させてくださ〜い!!俺この演奏会のために今まで頑張ってきたんだよ!!」

「うわっ」

突然のことに驚き、美沙は苦笑いで後ろに後退りした。先程とはまるで態度の違う様子に奏太は思わずツッコミを入れた。

「さっきと言ってることちげえじゃねえか!!!」

「なんだこいつは、情緒不安定か。」

快人の行動を見ながら糸成は呆れてつぶやいた。

「というよりただの馬鹿ね。」

横で奈緒もボソリと厳しい一言を言った。


 「あー皆さんほんとすみません〜」

しばらくして、今度は別の男子生徒がやってきて快人の足を引っ掛けて転ばせた。

「どわああ!」

「あ、神谷くん。」

美沙の気づいた通り、それは先程 快人と話した時に一緒にいた神谷計(かみやけい)であった。転んだ快人は怒って拳を振り上げながら怒鳴った。

「おいケイ!何すんだ!怪我したらどうすんだよ!」

「大丈夫。今の転ばせ方は僕の計算により、物理的に考えて最も怪我のしにくい転び方なんだ。かすり傷にもならないはず。ほら、彼女ら迷惑してるでしょ。それにもうすぐ全体の話があるんだ。一旦戻るよ。」

計はそう言って快人の手を持つと、彼が床にもたれかかった状態のまま、腕を引っ張って引きずり始めた。

「え、あ、おい!何すんだ!俺はまだミサちゃんと話したいんだ!せっかく女子と演奏できるチャンス...!夢を見させてくれええ!!!」

「あ、あいつ!もう“ミサ()()()”呼びしてやがる!まだ2回しか会ってないのに!俺もしたことないのに!!」

悲しげな叫び声を上げながら引きずられる快人を見ながら、奏太たちは棒立ちになった。

「あっちは何なんだ?やけに理論派みたいだが」

「いいのよどっち道ただの馬鹿なんだから。」

計の口調を聞いて考え込む糸成の横で奈緒はバッサリと答えた。


 しばらくすると、一人の男子生徒が全体に声をかけた。

「はーい!みなさん注目!」

「ん?」

見ると、異なる制服を着た4人の生徒が一箇所におり、全体の注目を集めていた。その中には水島もいた。先程号令を出した生徒が全員が静かになったのを確認してから話し始めた。

「みなさん、今日は演奏お疲れ様でした!色んな学校の本気の演奏を聴けてライバルながらすごく感動しました!今から、ささやかですが、1月に予定されている合同コンサートの顔合わせを行います!2年生はそれぞれ知っていると思いますが、1年生は初対面のはずです。もうすぐ始まる合同練習に備えて今日のうちに簡単な自己紹介をしましょう!それでは、まずは前にいる各学校の部長から、全体に向けて簡単な挨拶と自己紹介を行いたいと思います!」

こうして、県大会の結果発表を前に、合同コンサートに向けた顔合わせが始まった。

お読みいただきありがとうございます。

今回、雄ヶ座高校との絡みについてはほぼほぼ第77話の再放送みたいな内容でしたが、いわばお約束ということで笑

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