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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第12章「初めての県大会」
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第78話「県大会の審査」

 奏太たちは県大会の会場となるホールへと向かった。ホールに入ると、広い会場にたくさんの高校生や聴衆が溢れ、それぞれが開会式を今か今かと待ち構えていた。

「わあ...俺たち、ここで演奏するんだな...!」

奏太が会場の広さに感動して感嘆の声を出した。

「そういえば私たち、こういう本格的な舞台に立つの初めてだよね。」

奈緒は舞台の広さに圧倒され、少し緊張している様子だった。

「ああ、お客さんも多分今までで一番多い。」

奏太は客席の様子を見ながら武者振るいをした。

「あ、3人とも!こっちこっち!」

向こうで水島の呼ぶ声が聞こえた。見ると、西田高校のメンバーが全員固まって座っていた。奏太たちは慌てて駆け寄った。



 しばらくすると、アナウンスが流れ、全員の注目が舞台に集まった。今回の審査員の紹介、審査の説明などが行われた。審査員は3人。作曲家、プロギタリスト、プロマンドリニストである。審査員がそれぞれの学校の演奏を聴き、観点ごとにそれぞれ順位をつける。全員の全ての順位を足した値が最も小さい学校から順に、順位が決まるという仕組みだ。そして、今回の出場校は12校。上位6校が“優秀賞”、次いで3校が“優良賞”、残りの3校が“努力賞”となり、優秀賞を獲得した6校が地方予選に進出することができる。

特別賞は1位のみで、“フェスティバル賞”と呼ばれる。

 つまり、全国大会出場を目指す西田高校にとって、6位以内に入ることは必須なのである。


 開会式が終わると、1校目の演奏が始まった。県内のギター部による演奏で、少ない人数に苦労しながら演奏しているという印象を受けた。演奏が終わり、審査員による講評が行われている間、先輩の指示で奏太たちは直前練習のため、リハーサル室に向かった。


 この練習が奏太たちにとって大会に向けた最後の“マンドリンの群れ”の練習となるのだ。






 リハーサル室ではプログラム6番目の出演に向けて最後の追い込みと通しを行った。

「いい仕上がりだと思います。先日の練習で指摘したことも直っています。」

練習には講師の都川先生も同席し、通しを聴いて頷いた。そして都川先生はしみじみと語り出した。

「正直最初はかなり心配していました。今年は人数バランスも悪く、技術がかなりネックになると思っていましたが、3ヶ月で随分よくなりましたよ。あとは本番で皆さんの“群れ”を会場に響き渡らせるだけです。」

都川先生がそう言ってニッコリと笑うと生徒たちは少し緊張した表情を和らげた。横で話を聞きながら山崎先生も口を開いた。

「特にチーム奏発表会を経験してからの成長ぶりが顕著でした。皆さんの練習の賜物であることはもちろんですが、アドバイスをして下さった都川先生のおかげです。」

山崎先生はそう言って都川先生に深くお辞儀をした。

「特にあの発表会を経て“群れっぽさ”が掴めたようでした。」

山崎先生に言われて水島が元気よく答えた。

「はい!“群れ”全体の前にチーム奏で個を見ることで集団のイメージを掴むことができました!どんなメンバーがいて、この合奏が出来上がっているのか、それを意識することで密度のある「群れ」のイメージができた、それがこの曲の演奏につながったんだと思います!」

水島の言葉を聞いて山崎先生も頷いて言った。

「そうですね、まさにそれこそがチーム奏発表会の最大の狙いでした。このまま本番でいい演奏をしましょう!」

「はい!」

山崎先生の話が終わると、生徒たちは全員で大きな返事をした。


 「先生」

「なんですか?」

しばらくして先生を呼んだのは中川だった。彼は演奏には参加しないが応援やサポート役としてこの場にいた。

「そろそろ時間です。移動の準備をしましょう。」

「ありがとう。それでは早速参りましょうか。」

タイムキーパーとして時計を確認していた中川に言われて先生は全体に指示を出した。


「あ、少し待ってください!」

会場に向かう準備をしていた全体を呼び止めたのは水島だった。

「今回も、円陣をして縁担ぎをしましょうよ!」

「賛成!」

部長 水島の提案を受けて永野たちも乗り気になった。

「わかりました。時間はあまりないので早めに済ませましょう。」

先生は顔を緩めて言った。


 「今日はこの代になって初めての大会です!まずは県大会突破しましょう!演奏頑張るぞ〜!」

「お〜〜!!!」

円陣が終わると、水島は急に真剣な表情に戻って指示を出した。

「さあ!時間ないわよ!準備急いで!」

「変わり身!!」

水島の切り替えの速さに驚いて益田が思わずツッコミを入れた。

 「奏太」

奏太に話しかけたのは糸成だった。

「いよいよ本番だな。俺たちにとって初めての大会、頑張ろうぜ。」

糸成にそう言われて奏太は真剣な表情になった。

「ああ!1位獲ってやろう!」

こうして奏太たちは舞台裏へと向かった。






 奏太たちが舞台裏に着くと、前の学校の演奏が行われていた。

「うわっ、屋根が高いなあ...」

舞台裏に入って奏太は思わず驚いた。

「そっか、1年生はこういうホールで演奏するの初めてだもんね。」

奏太の様子を見て和田がそう言うと近くでしゃがみ込みながら奈緒が言った。

「あんた随分余裕ね。私なんて緊張でお腹痛くなってきちゃったわよ!」

「おう!俺演奏が楽しみなんだ!郷園にも雄ヶ座にも負けない演奏してやるんだ!」

「私なんて自分の演奏で精一杯よ!」

「あはは!ナオちゃんそうだよね。私も1年生の時はすごい緊張してたよ。大丈夫。本番は今まで通りやればいいんだからね!」

二人の会話を聞きながら和田はクスクスと笑うと奈緒の手を取った。

「ナオちゃん。」

「...先輩」

「チーム奏の時を思い出して!とっても緊張してたでしょ?」

和田にそう言われ、奈緒はチーム奏のことを思い出して無言で頷いた。当時の奈緒は確かに、自分のパート1人で演奏しなくてはいけない事実はもちろん、トップバッターだったことも相まってものすごい緊張をして演奏していた。その緊張感は聴き手にも伝わっており、当然和田も承知していたのだ。

「今日もあの時みたいに随分緊張していると思うけど、今日はあの時とは違う。私たちがいるでしょ!少し肩の荷を下ろしてリラックスして演奏してね!」

「...はい!先輩!ありがとうございます!」

そう言って和田に緊張を解されて奈緒は泣きそうな顔で和田の手をギュッと握りしめた。

「お前もちゃんとパートリーダーになったな」

横で見ていた中川がそう言うと和田は頬を膨らめて答えた。

「何よ!私だって緊張してるんだから!あんたが怪我してなければこんな色々抱えて緊張しなくて済んだのに!」

「ハハハまあまあ」

「まあでも、もう踏ん切りがついたけどね!」

和田は目つきを緩めてそう言うと自分のマンドリンを強く持ってニッコリと笑顔を見せた。

「ああ、実際そう見えるよ。」

随分頼もしくなった和田を見て中川は目元を緩め、最後につぶやいた。

「演奏楽しんできてな。俺の分まで」




 そうしているうちに前の学校の演奏が終わった。

ーいよいよか

奏太はそう思い、自分のマンドリンを持つ手を見つめた。少し震えがあり、汗が出ていた。そんな奏太を見て奈緒がからかう。

「なあんだ!あんたもやっぱり緊張してるじゃない!」

そう言われて奏太はフッと笑って答えた。

「そうだな、でも、これはいい緊張だよ!」


 椅子の設営を終えた係の人の合図があり、山崎先生が全体に指示を出す。

「それでは皆さん、時間です。入場しましょう。」

先生の指示を受け、奏太たちは真剣な表情で入り口へ向かった。



 ー入り口から漏れる光を浴びながら、ついに、演奏に臨むのだ。

お読みいただきありがとうございます。

奈緒のチーム奏の緊張感の該当部分は第73話です。

そして、次回演奏パートです。

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