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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第2章「波乱のパート決め」
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第7話「Bassパートの高橋先輩」

 こうして3人は入部届の提出を済ませたがその後も2週間は本入部でなく楽器体験の期間が続いた。この期間はそれぞれ自分の本当にやりたい楽器を決めるべく色々な楽器に挑戦して過ごした。月曜日、奏太はコントラバスに挑戦した。この日は部長の高橋和樹が教えてくれた。

「いやーBassの体験をしたいって言ってもらえて嬉しいよ!金曜日は誰も来てくれなかったからさ。なんかさーBassって伴奏ばかりでつまんなそうみたいなイメージ持ってる人多いけど実はめちゃくちゃパワフルな楽器なんだ。こいつがいるのといないので合奏のイメージって全然変わっちゃうからすごいやりがいあるんだぜ!」

 全体の前で部長として代表で話していた真面目な様子とは打って変わってすごく親しみやすい話し方ですぐに打ち解けることができた。


「確かにこの間の演奏でも聴こえてくるというより体に直接響いてくるって感じですごく存在感があるって感じました」

 奏太は楽器を見ながら答えた。

「だろだろ!欠点と言ったら演奏中ずっと立ってないといけないことくらいで後はいいことばかりの素晴らしいパートなんだよ!」

 高橋は嬉しそうに答えると楽器を持ち上げた。コントラバスは実に10キロ、最初は持ち上げるだけでも苦労する。しかしその巨体から出る音は奏太の感想の通りすごく重厚で魅力的だ。高橋はデモンストレーションとして弾きながら教えてくれた。

「まず他の楽器と比べて決定的に違うのはフレットがないことだね」

 フレットとはマンドリン系の楽器やギターのネックについている突起のことでこれを頼りに指で押さえて演奏することで音程を正確に演奏することができる。しかしヴァイオリンを含む擦弦楽器にはフレットがないので自身の音感を頼りにしないと正しい音程が出せない。コントラバスもその系統の楽器なのでフレットがないのである。


「あとね」

 高橋は譜面台に掛けてあった大きな弓を手に取ると説明を始めた。

「弾き方が二通りあるんだ。一つ目はこうやって弓で弦を擦って音を出す弾き方」

 高橋が弦に弓を当てると真っすぐな線のような綺麗な音が鳴った。この音はやはり体に響いてくる様な感覚で大変心地よかった。

「そしてもう一個は」

 高橋は元どおり弓を譜面台にかけると指で弦をつまむようにして弾いた。楽器からは「ポン」というやや軽い調子の音が飛び出してきた。

「こうやって直接指ではじく弾き方!この弾き方を「ピッチカート」、弓を使う方を「アルコ」っていうんだ。やってみる?」

 そういうと高橋は楽器を奏太に渡してくれた。

「ええ!是非!」

 奏太は慎重に楽器を受け取った。楽器は重い巨体を細い棒1本で支えているので少しぐらついた。

「うわっ予想以上に重いですね!安定させて持たないと危なそう」

 高橋は楽器から完全には手を離さずに奏太をサポートすると笑った。

「あははそうだね!俺も最初はそうだったよ。エンドピン1本で楽器を支えてるからコケるとエラいことになる。でもこの棒がついてるおかげで楽器の振動が床に伝わってよく響くんだ。だいぶ安定してきたみたいだから放すよ」

 そう言って高橋は手を離した。

「ありがとうございます!」

 奏太はお礼を言うと高橋が差し出した弓を受けとった。

「じゃまずは1弦をアルコで弾いてみよっか!」

 奏太は高橋の言う通り見よう見真似で弦に弓を当てて少し弾いてみた。するとぶおんと低い音が鳴ったがキリキリと言う雑音が多く混じっており、高橋の出していた音とは随分違った。

「うわっ思ったより難しい!綺麗な音を出すのって難しいですね、」

 それを聞いて高橋は笑って言った。

「あはは最初はアルコで綺麗な音出すの結構難しいんだよ!ピッチカートやってみよっか アルコより簡単だよ」

「ようし…」

 奏太は気合を入れ直すと弓を元の場所に戻し、弦に指を乗せて軽く弾いてみた。弦は先ほどと比べると随分いい音を出してくれた。もちろん音の深さなど、高橋の洗練された音とは違うがアルコの時よりは高橋の音に近いと思った。

「上手だよ!じゃあ今から音階をやってみよっか!楽器もう1回貸して!」

「はい!」

 高橋がピッチカートの音を聞いて褒めてくれたので奏太は嬉しくなって元気に返事をした。



「ただね、さっきも言ったけどフレットがないコントラバスは音を正確に出すのが難しいんだ。君はコントラバスはあくまで体験だから意味さえわかってくれれば十分だ。」

 そう言うと高橋は弓でハ長調の音階 (=つまり「ドレミファソラシド」のこと)をさらりと弾いてくれた。奏太はそれをみて不思議に思った。

「フレットがないのにどうやって正確な音を出せるんですか?」

 高橋はニヤリと笑って答えた。

「押さえる場所を覚えてるのさ。押さえたときの体勢を記憶しているって感覚に近いかな、あとは耳でそれぞれの音の高さを覚えてるのと合奏では周りの音を頼りにして微調整することで正確な音程を出してるんだ。だから慣れるまで結構時間がかかるかな。その代わり習得するとかっこいい低音を奏でられるし、フレットに依存しないから音感を鍛えればチューニングがずれてきても押弦場所の微調整で修正できる!俺はこの楽器が一番奥が深いと思ってるよ。」

「まじですか」

 今の時点でマンドリンの体験では完全にフレットを頼っていた奏太は先輩の言ったことにさすがに驚いたが改めてコントラバスのカッコよさを実感した。

「音階やってみます!」

「おっやる気満々だな!むずかしいぞ〜!」

「ちゃんと全部見た上で楽器を決めたいんです!」

 こうして奏太は音階練習を始めた。

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