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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第12章「初めての県大会」
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第75話「曲の仕上げ」

 2022年10月14日、この日はチーム奏発表会以降最初の練習日だった。今までチーム奏の練習に割り振られていた分の練習時間が合奏時間に追加され、本番までの1ヶ月間で一気に畳みかけるのだ。

 練習が終わった帰り道、奏太と糸成はお互いに話をしながら帰った。

「イトナリ、ギターパートはどう?」

「ああ、こないだのチーム奏で人によってリズム感にばらつきがあるからなるべく整えていこうって話になったよ。俺はわりかし整ってるってみんなコメントに書いてくれていたからこの調子でって感じだけどな。」

 糸成の言う“コメント”とは、コメントペーパーのことである。チーム奏発表会の時に全員に6枚ずつ配られ、他のチームの演奏を聴く時にその演奏に対して思ったことを匿名で書き、それぞれの実力の向上を目指すというわけだ。

「そっか、確かにリズム感大事だもんな。俺も周りとの合わせは結構評価してもらえたよ。」

「チーム内で合わせることメインで練習した甲斐があったな。」

 奏太と糸成のチームではチーム内で特にぴったり合わせることを徹底して練習していた。コメントペーパーの内容を見るに、それはかなり多くの聴き手に伝わっていたようで、良い評価をもらうことができた。

「ああ、ただ、もうちょっと踏み込んだ表現をしてもいいって書かれたけどな。」

「ははは、まあでもチーム内でやろうとしたことがきちんと伝わっただけ良かったよな。表現面はこれから全体で擦り合わせていくわけだし。」

「...いずれにせよ、」

 糸成はそう言って天を見上げると続けた。

「1人だけで演奏するって体験がこれからに結構生きてきそうでよかったよ。すげえ度胸ついた気がする。」

「そうだな。めちゃくちゃ緊張したもんな。」

 糸成の言葉を聞いて奏太も苦笑いして答えた。


「...でも、県大会はもっと緊張するかもしれない...」

「そうだな。緊張してもしっかりといい演奏できるようにチーム奏発表会の時の感覚を大切にこれから頑張っていこうぜ!」

「おう!」

 こうして二人はやる気を胸に家へと向かうのであった。





 西田高校マンドリン部の時間が過ぎ、11月10日。県大会を2日後に控えたこの日は県大会前最後の都川先生の講師レッスン日だった。

 練習最初の通し演奏の後、都川先生が自分のメモを見ながら感想を話し始めた。

「曲のモチーフを提示する冒頭について、今日1日でかなり良くなりましたがまだもう一声行ける筈です。本番前ですがギリギリまで粘ってください。元気よく演奏して“群れ”の躍動感を表現するのです。」

「はい!」

 最初の都川先生のアドバイスをきいて該当箇所を演奏する1stのメンバーたちは大きく返事をした。

「続いてそれ以外の皆さん。この冒頭部は緊張感のある和音がずっと保たれているため、もっと迫力をもたせて表現してください。」

「はい!」

 このアドバイスについても主に伴奏を担当するパートのメンバーたちが一斉に返事をした。

「また、25小節目から35小節目にかけての展開をもう少し練ってください。ここでは和音の解決にかなり時間がかかる分解決された出口部分で大きな感動があります。その雰囲気を表現するのです。あと...」

 このように最後の講師レッスンといえど改善する点はいっぱいあり、この後も熱心な指導が続いた。

 



 最後まで指導が終わったところで部長の水島が全体に号令をかけた。

「きりーつ!都川先生!今までありがとうございました!」

 水島の号令を合図に全員で声を合わせて指導のお礼を言った。

「いろいろいいましたが、いい仕上がりだと思います。本番まであと2日。今日言ったことのうち、今できることを中心に直していただき本番直前の練習でまた聴けることを楽しみにしていますよ。」

 都川先生はニッコリと笑ってそう言った。こうして県大会前最後の講師レッスンが終了した。

 


 ーそして、翌日の11日の練習のあとの恒例の“出発式”を経て11月12日、ついに県大会当日がやってくるのだ。

今回触れた“出発式”とは、第46話で描かれたものと同じになります。全国大会同様県大会でも前日に気合いを入れるのです。


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