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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第11章「県大会に向けて」
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第74話「精鋭たちのアンサンブル」

 チーム奏発表会が行われている西田高校マンドリン部。4チームの演奏が終わり、チーム5の発表が行われていた。

ー...先輩、流石の音だなあ。2年生ってだけでこうも違うなんて...

 演奏を聴きながら奏太はそうしみじみと感心した。チーム5は1stにコンミスの和田が参加している。ここまでの演奏でもそれぞれ一生懸命演奏していたが、やはり2年生の和田の演奏は別格に思えた。


 演奏が終わって拍手をすると、戻ってきた和田は奏太に囁いた。

「いや〜、緊張しちゃった。ソウタくん次だよね。リラックスして頑張ってね!」

「あ、ありがとうございます!先輩の演奏めちゃくちゃ良かったですよ!」

「え〜そんな。私なんてまだまだだよ〜。コンミスとは言っても小野先輩のレベルにはまだ全く及ばないし!」

 奏太に褒められ、和田は照れながら自身を3年生の前コンミスと比較して謙遜した。そして、最後に一言付け加え、ニッコリと笑った。

「今からの演奏、楽しみにしてるよ。」

 和田に送り出され、奏太はやる気を燃やして席まで行くと、同じように座席に着いて準備を始めていたチーム6のメンバーの表情を見回し、最後に親友 糸成と顔を見合わせ覚悟を決めたように頷いた。その後、チューニングをしながら客席を見た。

ー今まで頑張って練習してきた、和田先輩の直後だけど、みんなの印象に残る演奏をしたい...

 奏太はそう思い浮かべ、緊張する心を落ち着かせようと深呼吸をし、メンバーと息を合わせ、演奏を開始した。



 演奏を開始してすぐ、以前美沙と一緒に練習したパッセージに差し掛かる、何度も練習して整えたトレモロを回数分しっかりと入れ、ぴったりと合わせることができた。

ーやった!

 音がうまく合ったのを実感した時、美沙も弾きながら微笑んでくれたような気がした。

ーみんなで練習した、時間をかけた分、やったことを全部出す!

 冒頭で縁起を担いだのか、弾きながら俄然演奏に力が入った。

 



 そして、最後、演奏が終わると仲間達から大きな拍手が巻き起こった。

ーやった...!出し切った!

 惜しみない拍手に包まれ、奏太は演奏をやり切った達成感を実感した。自分たちなりに信じて決めた表現は概ね実行できた気がした。

ーなるほど、このチームは特にぴったりと合わせることを意識して練習したか。何度も練習したことを感じさせる内容だったな。

 演奏を聴き終えて山崎先生はそう分析し、

ー...「ぴったり合っている」、それも確かに群れっぽさの要素の一つと言えるな。

 などと考えながら楽譜に書き込みを行なった。

 演奏を終えた奏太の元に1stの人たちが寄ってきた。

「奏太くんお疲れ!良かったよ!」

「めっちゃ気合入ってたな!」

「合わせ練たくさんしてたもんね〜」

 1stの同期からそう言われ、奏太は照れながら答えた。

「あ、ありがとう!結構緊張したけど出し切れて良かったよ。悪いとこあったら言ってくれよ!大会までに直すからさ!」

「あはは!奏太くんは相変わらずやる気満々で有望ね!」

 奏太の様子を見て声をかけてきたのは和田だった。

「和田先輩!」

「県大会に目を向ける前に、最後、チーム7の演奏がまだ残ってるわよ。」

 和田にそう言われて奏太は慌てて答えた。

「あっ、す、すみません。1stは全員出たからつい...。7番目はまた和田先輩でしたっけ」

 そう言われて和田はニヤリと笑って答えた。

「そうよ。チーム7は大トリということで全員がパートリーダーの特別編成。一生懸命演奏するからしっかりと聴いててよ!」

「え?全員が、パートリーダー?」

 和田に言われて奏太たちは思わず聞き返した。






 “全員がパートリーダー”、これから始まるチーム7の演奏のそんな説明に奏太たちは思わず目を丸くした。そんな奏太たち1年生の様子を見て、和田はクスクスと笑うと補足した。

「そうなのよ。2ndは2年生がいなくて名目上のパートリーダーは決めていないから厳密に言うと違うんだけどね。でも今回の発表会の醍醐味ということで是非やるべきだって先生のプッシュがあって実現したの。」

 その後和田は実際に楽器を持って準備していたチームのメンバーたちを見ながら説明した。

「2ndは1年生だけど音楽の経験がある赤石学くん。Dolaが咲子、Celloが梨香、Guitarは益田、そしてBassが杏実。2nd以外は全員2年生でパートリーダーなの。」

「うわ...すごそう...」

 和田の説明を聞きながら奈緒がため息をもらした。

「プレッシャーもあっただろうけど学くんも頑張ってくれてかなりいい仕上がりになっているからぜひ楽しんで聴いてほしいわ!」

 和田はそう言ってウインクするとマンドリンを持って自分も席に着いた。

 演奏の準備をしている演奏者たちを奏太は真剣な目つきで見つめた。

ーメンバー全員が精鋭のアンサンブル...一体どれだけすごいんだろう...




 しばらくして演奏が始まるとこれまでの演奏とはまるで違う一体感に奏太は呆気にとられた。まさに寸分違わぬ息の合った演奏。2年生全員の音が大河のように聴き手の耳に流れ込んでくる。学もその流れの中で流されまいと食らいついている、そんな印象だった。

ーうちのチームもピッタリ合わせることを結構重点的にやったはずだったのに...

 その演奏のあまりの完成度に奏太は空いた口が塞がらなかった。

ーこの演奏は全くレベルが違う...、段違いだ...学年でこうも差が出るなんて...

 その演奏は1年間一緒に部活を続けてきた2年生だからこそのチームワークが結集しており、全くの破綻なく最後まで辿り着いた。演奏を聴いていた1年生たちはそのあまりの凄さに息を呑んだ。こうして衝撃的な最後のチームと共にチーム奏発表会の全ての演奏が終わった。





 チーム奏発表会の最後、先生が総括を行なった。

「みなさん、本日は長い間お疲れ様でした。何回も演奏する方もいてとても大変だったと思います。」

 先生の話を聞きながら、3回演奏したコントラバスの遥花はがっくりと椅子にもたれかかった。

「みなさんの表情を見ていると最後のパートリーダーが集結した演奏のインパクトが抜けていないように見えますが、私にはそれ以外のチームの演奏もとても面白いと思いましたよ。」

 ここまで話してから先生は少し間を置いて改めて話を続けた。

「さて、今日の発表会。どうでしたか。合奏というのは各パート複数で演奏し、全体としては20人を超える大人数で演奏します。それだけの人数が集まれば当然それぞれ個性豊かなメンバーがいるはずです。...しかし、合奏では個性というのは本来出してはいけません。全体の表現に合わせて協力する姿勢が大切なのです。ただ、私は指揮者の持っているアイデアをただ演奏者が再現する、それだけが演奏の作り方ではないと思っています。演奏者一人一人が漠然と持っているイメージやアイデアなどもいっぱいあるでしょうし、その中にも効果的なものがある可能性はあります。今回の発表会でそれを発見することが目的でした。実際、同じ曲の演奏でもチームによって、人によって全く異なる演奏の仕方があるのをみなさんも実感することができたでしょうし、いいアイデアはたくさん隠れていました。」

 いいアイデアがたくさんあった、そう言われて生徒たちはそれぞれ少し照れくさそうにお互いの顔を見合った。

 最後に、先生は再び口を開いた。

「今日はいい演奏を本当にありがとう。今日見つけたみなさんのアイデアや良さを選んだり引き出したりし、適切な形で曲を組み立てるのが指揮者である私のこれからの仕事です。残り1ヶ月の合奏、よろしくお願いします。」

「よろしくお願いします!!」

 生徒たちは咲子の号令を合図に先生に大きな挨拶を行なった。



 そんな挨拶を微笑ましそうに見つめながら先生は最後に一言付け加えた。

「そういえば、県大会の演奏順が決定しました。6番目です。これから1ヶ月、頑張っていきましょう!」


 こうして部内でのチーム奏発表会が終わった。県大会は1ヶ月後の11月12日だ。

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