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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第11章「県大会に向けて」
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第69話「初めての講師練習」

 2022年9月10日、この日の練習は都川先生を招いての講師レッスンの日だった。

「1年生の皆さんとは合奏のレッスンでお会いするのは初めてでしたよね。」

 都川先生はそう言ってニコッと笑うと、山崎先生に合図を出した。

「それでは始めましょうか。まずは最後まで一度演奏してみましょう。」

 山崎先生は合図を受け取ると全体に指示を出し、合奏を始めた。生徒達はこの曲で初の講師レッスンということもあり緊張していたが、自分たちなりの練習の成果を出すため演奏に向かった。テンポが変わるところで止めながらとはいえ、最後まで演奏を終えるとまず山崎先生からコメントがあった。

「お疲れ様です。少しずつ群れっぽいイメージが出てきましたが、まだいけます。いろいろな方法を考えながら引き続き練習をしていきましょう。」

 先日の1年生の話し合いで考えた通りの解釈で“群れっぽく”演奏するようになってから先生は以前より合奏に色々なことを指示するようになっていた。これはある意味合奏全体がひとつ次の段階に進むことができた事を意味するが、同時により多くの改善点が見つかっていくことでもあった。2年生も2年生で話し合って色々な指示を1年生に出しており、以前より考えることは増えてきているが山崎先生に言わせるとまだまだ先があるようである。


 山崎先生のコメントの後は都川先生からのアドバイスが始まる。

「初めてのレッスンですが、音は良く出せていると思います。あとは、場面ごとの切り替えをもっとできるといいかなと思いました。」

 都川先生はそう言って2年生の顔を見た。

「なんというかまだ堅いです。もっと柔軟にさまざまな場面を演出できるといいのですが」

 それを聞いて2年生は神妙な面持ちで都川先生を見つめた。

「以前の“メリア”は場面変化が上手でした。まずはあの合奏に参加した2年生を主体により場面変化を明確に行うことから始めましょう。」

 この講評は奏太たちにはどうしても“3年生と2年生で演奏したメリアと比べられてしまっている”ように聞こえた。都川先生はまだ最初だからこれから良くなっていくと思いますとは言ってくれたが人数バランスが去年とはまるで違う今年、あの“メリア”のメリハリを目指さなくてはいけないということは1年生達には大きなプレッシャーだった。




 合奏を終えた後、山崎先生と都川先生が先生の部屋で話をしていた。

「久しぶりに西田高の演奏を聴きましたが、やはり代替わりしてすぐは課題が目白押しですね。」

 都川先生にそう言われて山崎先生は苦笑いして答えた。

「ええ。特に今年は大変です。私も少し焦っています。他の学校はどんな様子ですか。」

「そうですね、雄ヶ座(ゆうがざ)高校なんかはいい調子ですよ。あそこは去年が大変だった分今年は心強いです。」

「そうですか、うちも来年そうなれるように1年生が育ってくれるといいなと思っていますが…」

 雄ヶ座高校というのは都川先生が西田高校の他に教えている学校である。今年引退した3年生が少なく、2年生が多い学校で、先代がまさに今の西田高校のような様子だった。


「山崎先生、1年生の育成について、私から一つ提案があるのですが。」

「はい、何でしょうか。」

 都川先生は山崎先生の反応を見るなり、話を続けた。



 ・

 ・

 ・



 2022年9月12日月曜日、日曜日の休みを挟んだこの日の部活では土曜日の講師レッスンで見つかったポイントを中心に合奏練習を行った。


 合奏の後、山崎先生からお知らせがあった。

「皆さん、今日も合奏お疲れ様でした。さて、今日は12日。11月の県大会までちょうどあと2ヶ月となりました。合奏練習は今後もしっかりとやっていかなくてはいけませんが、その前にお知らせがあります。」

ーお知らせ?

ーなんだろう...

 県大会まで2ヶ月ということに触れた上でのお知らせということで生徒達は少し不安気味な顔で先生の次の言葉を待ち構えた。


 そんな生徒の様子を眺めながら先生は話を始めた。

「突然ですが、今から1ヶ月後の10月12日に“チーム奏発表会”を行います。」

「チーム奏発表会?」

 “チーム奏”という初めて聞く言葉に奏太は首を傾げて和田に尋ねた。

「チーム奏って何ですか?」

 和田は不安げな表情のまま首を横に振った。

「少なくとも去年はやったことがないわ。でも多分…」

「ーチーム奏というのはつまり各パート1名ずつで演奏を行うということです。」

「各パート1人ずつですか!?」

 各パート1名と聞いて一同はざわついた。

「はい。今から1ヶ月間チームごとに練習をしていただき、それぞれ披露していただきます。」

ー披露…!?結構緊張するくないか…?

 先生の説明を聞きながら一同のざわつきはより強くなった。


 横で震え上がっている遥花をなだめながら山口が一つ疑問に思った事を質問をした。

「先生、パートによって人数が異なると思うのですが、どのようにチーム分けするんですか?」

 山口の言う通りパートによって人数が違う。山口の所属するBassパートは2人なのに対し、最も多い人数はGuitarパートの7人である。

「はい、人数の少ないパートの方には大変申し訳ありませんが複数回出ていただきます。今回の場合はGuitarパートの人数に合わせて7チーム作るので人数の足りないパートは複数回出る人を決めてください。」

「なるほど…うちのパートの場合は3〜4回ね、私が4回出るから遥花ちゃん3回になるわね。」

「〜〜〜〜〜!!!!」

 山口は横で恐怖で気を失いかけている遥花を見ながら人数を割り振っていた。


 「これまで何度も言ってきたように今年は1年生の技術アップが鍵になります。全員が自分一人で演奏することを経験することはとても意義があります。また自分たちの曲を6チーム分聴くことで自分たちの演奏を客観的に体験できます。この練習は都川先生の提案で行うことにしました。去年2年生の人数の少なかった雄ヶ座高校が実際に去年行った練習法だそうです。かの校ではこの言わば“試練”を乗り越えて今の2年生は今年とても優秀な技術集団になっているそうです。皆さんもそれに続くようにぜひ頑張ってください。早速今からチーム分けを行います。」


 こうしてチーム奏のためのチーム分けが始まった。

都川先生の講師レッスンの模様を初めて描きました。今後も山崎先生の指導とともに続いていきます。

また今回、新たな学校名が出てきました。「雄ヶ座高校」です。なんとなく分かっていただけると思いますが全国で登場した他の高校と同じように語感と勢いでつけており、あまり深い意味はないです。実在しないかどうかだけ気をつけてます。

今後大会等で登場する予定です。


さらに県大会の日程が2022年11月12日土曜日であることが明かされ、同時に各パート一人の“チーム奏”の提案がありました。このような練習は私も現役の頃にやったことがありますが同じ曲を練習している身内が聴いている状況で自分のパートに一人で演奏するのはなかなか緊張します。しかし聴いていた人からのコメントや演奏の達成感など、とても良い経験になります。

次回チーム分けです。

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