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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第11章「県大会に向けて」
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第68話「群れっぽく」

 部活公開が終わり、マンドリン部は再び県大会を見据えた練習の日々に戻っていた。


 そして9月6日火曜日、パート練習のあと山崎先生による“マンドリンの群れ”の合奏練習があった。まずはこないだの復習として最初の場面を少し遅めに合わせた後、場面が切り替わるところで合奏を止め、話を始めた。

「夏休み最終日の合奏以降初めての合奏ですが、ここまでのパート練習の仕方には変化がありましたか?」

 先生はそう言って全体を見回した。全体に強い緊張感が立ちこめており、表情が固かった。そのあと先生は静かに微笑むと一言呟いた。

「以前より良くなりました。」

 先生の言葉を聞いて全員肩の力が抜けたようにホッとした。

「以前に比べて音も厚くなりましたし全体が演奏に参加している感じが出てきました。」

 各パートの2年生はそれぞれ自分のパートの1年生の方を見てガッツポーズをした。


「しかし」

「まだ及第点とは言えません、良くなったとはいえ、あくまでも以前に比べてです。1年生は引き続き主張していかなければなりませんし2年生ももっとパート全体に気を配っていかなければいけません。」


「…」


 先程喜んでいた2年生たちは続けて言われた指摘を聞いて苦笑いした。

「それと、音量が出てきた分一人一人の音質の違いや汚さが気になります。ここもしっかりと吟味していかなくてはいけません。なんていうか、“群れ”っぽくない。もっと群れっぽく弾いてください。」

「む、群れっぽくですか…?」

 いまいちピンとこない注文に和田は思わず聞き返した。

「そうです。群れっぽくです。」

 群れ…っぽく?“群れっぽく”ってなんだ…?

 先生の漠然とした注文に、全体は頭の上でハテナマークを浮かべた。そんな様子を見ていて先生は話を続けた。

「皆さんは群れというとどんな事を思い浮かべますか?色々なイメージがある筈です。それをもっと演奏に反映させてください。みんなで話し合う場を設けてもいいかもしれないですね。」

 群れっぽくなんて言われてもなあ…。奏太もこれには困ってしまい、楽譜を見つめて考え込んでしまった。

「とりあえずしばらくの課題はこの“群れっぽく”弾くことについて考えるということです。今週末は初めての都川先生のレッスンがあります。それまでには楽曲全体をさらっておく必要があるためこれからは最初の場面だけでなく全体をどんどん見ていきます。群れっぽくについて考えながら続きの音取りについてもどんどんお願いします。そのためこの場面の表現は宿題とし、今日やると言っていた続きの場面から行きます。準備してください。」

 先生はそう言って続きから合奏を始めたが、奏太は先程の“群れっぽく”に気を取られ、あまり集中することができなかった。こうしてこの日の合奏は終わった。





 練習後、奏太たちはいつも通り残って自主練をしていた。

「さっきの合奏だけどさ、“群れっぽく”弾くってどういうことなんだろうな。」

 奏太が呟くと糸成も演奏を止めて考え込んだ。

「うーん、曲のイメージを膨らませるってことなんだろうけど“群れっぽく”ってちょっと漠然としてる感じあるよな…」

 ふたりのやりとりを聞きながら奈緒も口を開いた。

「音楽の指示って言葉にするの難しいっていうかハッキリしないのよねえ…吹奏楽の時はどうだったのミサ?」

 奈緒に話を振られて美沙はチェロのチューニングをやめて答えた。

「さっき春日くんも言ってたけど私は結構曲のイメージから考えるよ。今回の場合は群れってタイトルに入っているからそれを噛み砕いていく感じかなあ。」

「噛み砕いていく…」

 美沙の説明を聞いてあまりピンとこない様子の奈緒を見て美沙は改めて言い直した。

「つまり、“群れってぶっちゃけこうだよね”ってところを考えていくの!」

「なるほど、連想とかでもいいの?」

 奏太が尋ねると美沙は頷いた。

「うん、連想とかより詳しくしていくとか、なんでもいいの!」


 そこまでの話を聞きながら今まで黙っていた遥花がおそるおそる口を開いた。

「あの、群れのイメージなんだけど私一つあってね、言ってもいいかな?」

「うん!ぜひ聞きたいな」

 美沙が微笑むと遥花は少し安心したような顔でつぶやいた。

「私群れって同じ生き物がいっぱいいる感じするの。」

「!」

 遥花の意見を聞いて、それぞれが少し考え込む束の間の沈黙が少し怖かったのか遥花は申し訳なさそうに付け加えた。

「ごめん、変な意見だったら無視してくれていいよ…!」


「いや、」

 謙遜する遥花を見て糸成は興奮して答えた。

「確かにその通りだよ!俺今まで逆に考えてたけど確かに平山さんのいう通りだ!」

「どういうこと?」

 一人で先に進んでいる糸成を見て奈緒が尋ねると糸成は笑顔で答えた。

「ああ、俺は今まで“群れ”って聞いて沢山のものが入り混じった荒々しいイメージをもっていたんだ。でもそれだとガサツな演奏になってしまい、コンクールで求められる表現にはならない。でも、実際は逆だったんだ。群れってことは同じ種類、今回の場合は“マンドリン”の群れだ。つまりマンドリンオーケストラのマンドリン系の楽器で構成されているって統一感を活かして弾くことが大事ってことだよ!」

 糸成の分析を聞きながら奏太も意味を理解した。

「そういうことか。」

「まあ厳密に言うとギターやコントラバスはマンドリン系じゃないけど…」

「…」

 コントラバスがマンドリン系じゃないという事を指摘されて遥花は少ししょんぼりした。


「で、でもとにかく同じ目的で群れを成して行動する様を表現するって事だから俺たちがやるべき事ってピッタリ合わせて弾くって事だよな!」

 遥花の様子を気にして奏太はフォローしつつ糸成の意見を言い換えた。

「ああ、要は群れってイメージで全体を意識し、その中で音質や音を出すタイミングをしっかりと合わせて演奏するって事だ!」

「合わせるって意味では音程もしっかりと合わせないとだね。」

 糸成のまとめを聞いて美沙はそう付け加えると再び楽器のチューニングを始めた。

「今まであまり言わなかったけど合奏の中でチューニングが完璧じゃない人がいることが結構あるから、そこをしっかりと合わせるようにしていかないと!だって“同じ生き物”を表現するんだもん!」

「あ、それ多分私かも…」

 チューニングのズレと聞いて奈緒はぎくりとした。

「マンドリン系の楽器は複弦だからズレた状態でトレモロすると余計目立つしな。」


 ここまでは話したところで奏太は気合を入れた。

「よっしゃ!俺らなりに“群れっぽく”を考えたところで練習するぞ!合奏もっといいものにしないとな!」

「今の話せっかくだし先輩にしてみないとね!」

 奈緒もニッコリと笑った。

 美沙は遥花の方を向いて微笑んだ。

「はるかちゃんのおかげで話が進んだよ!もっと緊張せず話してくれて大丈夫だからね!」

「う、うん…!ミサちゃんもありがとね…!」

 こうして自分達なりに“群れっぽく”に対して答えを出したところで再び練習に戻るのだった。

山崎先生からの問題提起とその後の1年生の自主練時の一コマといった感じでした。

他の男性陣(学、敦、大喜)と花奈を除いて既出の1年生は全員でてきたかな。キャラが増えて発言するキャラが減るよりはいいかと思って今回はたまたまこのメンバーにしただけで今回出なかったキャラとは別に仲が悪いわけではないです笑

9月のこの時点で曲想についてここまで話し合う1年生ってなかなかレベル高い気もしますが、やはり演奏について話し合う時間を描きたかったので入れました。私自身は実は「マンドリンの群れ」をちゃんと演奏したことがないのでここでの解釈は私の拙いものですがご了承ください。

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