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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第11章「県大会に向けて」
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第67話「初めての後輩」

 部活パフォーマンスの演奏が終わった後は楽器体験があった。外で呼び込みをしながら和田が水島に尋ねる。

「楽器体験1年生に任せちゃってるけど大丈夫かな?あの子たちまだ楽器始めて4ヶ月だけど…」

「あはは、先生の作戦なんだけど、ちょっと意地悪なところが出てるね…。なかっちが一応ついてるから大丈夫だと思うけど…」

 水島は苦笑いをして答えると、山崎先生との話を振り返った。




 ・

 ・


__(回想)______________


「え、楽器体験を完全に1年生に任せるんですか…!?」

 この日の活動が始まる前、国語科資料室で山崎先生と話していた水島はその日の活動の詳細を書いた紙を見て驚いて尋ねた。山崎先生は少しニヤリと笑って答えた。

「はい。今年は2年生が少なく、1年生の技術の底上げが演奏の鍵を握っています。このタイミングで体験にきた中学生に楽器を教えることは1年生自身が基礎を見直すことにもつながります。心配なら2年生を何人か置いてもいいですが、楽器を教えるのは1年生にやらせてください。」


__(回想終わり)________



 ・

 ・



「…だって」

「うわ、山崎先生らしい…」

 水島の説明を聞きながら和田は苦笑いをした。


「山崎先生は言ってなかったのかもしれないけど、それって1年生に今の時点で後輩を意識させるという意図もあるのかもしれないわね」

 話を近くで聞いていた山口がマンドリン部を紹介する看板を持ちながら話に入ってきた。

「あ、アミちゃん!って、看板に身長負けてない…?」

「そんなことないわよ」

 山口は身長が小さかった。いつもはコントラバスを演奏しているので余計にその小ささが際立っているが、この時持っていた看板の大きさにすら負けていた。水島にそれを指摘され、バッサリ否定した。

「なるほど、でも山崎先生のことだからきっとそういう意図あるよね。先生は今年の部活に関しては1年生を育てることの重要性を繰り返し言ってるから…」

 先ほどの山口の指摘に感心した和田がそう呟くと山口はそれに続けた。

「そうね。私たちの代みたいなことにならないように次の新歓も気合い入れてやらないといけないわ。リカと益田は今もどこかでそれぞれ呼び込みしてくれてる。私たちも休んでないで1人でも多くの中学生に部活に興味を持ってもらうためにも呼び込み頑張りましょ!」

 こうして3人は改めて中学生への呼びかけを始めた。





 音楽室ではマンドリン部の楽器体験を行なっていた。先程の演奏を聴いて興味を持った中学生が何人か訪れ、かなり賑わっていた。中学生の対応は1年生が行い、それそれ自分のパートの楽器を緊張しながら一生懸命教えている様子が見られた。

 マンドリンパートでは3人の中学生が体験に来ていた。中学生を前に、奈緒は楽器を教えることよりも雑談をすることを中心に行っていた。時には笑い声を伴いながら盛り上がる様子を見て中川と奏太がやってきた。

「どうした高木ちゃん随分盛り上がってるね。教えることは大体おわったのかい?」

 中川に訊かれ、奈緒は苦笑いして答えた。

「あーボチボチです、ソウタくん何してたの?手伝ってよ〜!あんた私より上手じゃない!」

「え、ああすまん高松さん。」

「た・か・ぎだって言ってんじゃん!!!」

 いつも通り名前を間違える奏太に激しくツッコミを入れる奈緒を見ながら中川が補足した。

「あー、コイツには今軽く注意をしてたもんで!なっ奏太!」

「う...」

「え?ソウタくんなんかしたんですか?」

「ああいや、説教とかではなくて単に話を聞いてただけ。コイツさっきの合奏で一瞬上の空だったからな。前に文化祭の時には指揮をよく見たいとか言ってたのに今日の合奏では客席に気を取られて演奏に身が入ってなかったからな!師匠として見過ごすわけにはいかねえよ!」

 中川は奏太を見てニヤニヤしながら言った。

「あ、そういえば先輩ソウタくんに個人的にマンドリン教えてるんでしたもんね」

 中川の説明を聞いて奈緒は呆れて言った。

「だからそれはすみませんでした!これからは気をつけます!でも、あの時確かに客席から何か強い視線を感じたんですよ!」

 奏太は謝った後で改めて主張した。奏太によると先程の演奏で客席に気を取られて演奏に出遅れたのは客席から強い視線を感じたからなのだと言うのである。そのことについて半信半疑気味な中川と演奏が終わってからずっと議論しているのである。

「強い視線ねえ…さてはお前、」


 中川は少し考えてからズバリと言った。

「客席の誰かに恋しちまったとか?」


 中川にからかわれて奏太は思わず赤くなった。

「そ、そんなわけないじゃないですか!」

 必死な奏太の様子を見て中川はゲラゲラ笑った。


「あはは!冗談だよ!さっきからずっと言ってるくらいだし感じたんだろ“誰かの強い視線”。それはそうなんだろうけど、演奏者としてステージに立つ時は客席なんて必要以上に気にしちゃダメだ。練習したモンが出せなくなったら無駄になっちゃうからな。お前はいつもメチャクチャ練習頑張ってるんだ。その努力を大切にしろよ。」

 中川はそう言って奏太の肩を叩くと喝を入れて部屋を出て行った。

「分かってますよ…」

 中川が出て行ったところを見ながら奏太は複雑な表情でぼそりと呟いた。




「あ、あの〜私…」

 しばらくして声を上げた奈緒の向かいに座っていた中学生の声で2人は思わず我にかえった。

「あ、あ〜ごめん!なんか変な現場見せちゃったね!なんでもないよ!申し訳ない!」

 一連のやりとりを中学生に見られていたことに気づいて奏太は顔を赤くした。

「いえ!皆さんの演奏に対する姿勢を見せていただいて感激してます!」

 その中学生はニッコリと笑って答えた。ここで先程まで中川たちのやりとりに圧倒されて黙っていた奈緒も空気を和ませようとようやく口を開いた。

「ソウタくんには紹介がまだだったね!この子中学3年生の…」

遠藤彩乃(えんどうあやの)です!」

 奈緒の紹介に続いて自己紹介した彩乃を見て奏太も自己紹介した。彩乃は丸メガネとショートカットがトレードマークで身長はあまり高くなく全体的にいわゆる真面目そうな見た目だったが奈緒と打ち解けたおかげか緊張している感じではなかった。

「この子私と同じ中学なの!それで今話盛り上がっちゃってて!」

「へぇ」

 それを聞いて奏太は相槌を打ったが「ということは紺野さんとも同じか」と考えていたため生返事になっていた。





 学校見学に訪れた中学生を対象に音楽室でマンドリンの楽器体験を担当する奏太と奈緒は遠藤彩乃という中学生の女の子と話をしていた。

「遠藤さんは中学ではどんな部活に入っていたの?」

 奏太が尋ねると彩乃はハキハキと答えた。

「美術部です!でも高校では別のことを始めたくて今日体験に来ました!」


 横で奈緒が付け加える。

「アヤノちゃんまだ体験ちょっとやっただけだけどすごく興味持ってくれてもう 高校受かったら入部する って言ってくれてるんだよ!」

「へえそれはありがたいね!うちの部活タダでさえ新歓は苦労するらしいから助かるよ」

 入部と聞いて喜ぶ奏太たちに対し、彩乃は笑顔で返した。

「予定あって今体験には来て無いんですけどわたし今日実は友達と来てて演奏も一緒に聴いてたので入学したら必ず仮入部に連れてきますね!演奏もその友達が見つけて一緒に見ることになったので興味ある筈です!」

「え、そうなの!?ほんとありがとう!楽しみにしてるね!」

 友達を連れてくると聞いて奈緒は目を輝かせた。


 この後も奏太たちはいろいろなことを話し、部活体験が終わった。音楽室の外で彩乃を見送った。

「今日は本当に来てくれてありがとう!来年の新歓で会えること楽しみにしてるね!」

「はい!受験頑張ります!友達にも今日のこと伝えておきますね!」


 受験に向けて決意を新たにする彩乃を見送った後奈緒が奏太に尋ねた。

「結局あんたがさっき言ってた視線ってなんだったの?ミサのこともあるしまさか先輩の言う通り誰かに一目惚れしたって事はないでしょうからなにかあるんでしょ?」

 奈緒に言われて奏太は真剣な表情で答えた。

「ああ、確かに何か強い視線は感じた。中学生はみんな俺たちにとって後輩に当たる人たちだけど俺らが想像してる以上にすごい奴もいるかもしれないって改めて思ったよ。だからこそ来年に向けて俺はもっと上手くなる!立派な先輩になれるように!」

 熱く語る奏太の様子を見て奈緒も微笑んだ。

「ほんとアンタらしいわね。でも私も今日の体験会やってよかった。私ももっと上手になりたい、もっとしっかり教えられるようになりたいって思ったもん。」

「ああ、そのためにもまずは県大会、頑張ろうぜ!」

 こうしてふたりは部活公開・楽器体験会を通して県大会に向けて決意を新たにするのだった。

 マンドリン部は再び県大会の練習の日常に戻るのである。

今回の話には出てきませんでしたが杏実が言っているようにこの時、梨香と智も別の場所でそれぞれ呼び込みを行っています。


そして今回登場した新キャラ、中学生 遠藤彩乃はしばらくは出てきませんが、いずれ奏太たちが2年生になった頃に友達と共に登場してくれる筈です。お楽しみに!

次回からは再び練習の模様に戻ります。ボランティア演奏や部活紹介を挟んで結構色々話飛んでる感じありますが今の練習のメインは次の県大会です。

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