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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第11章「県大会に向けて」
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第66話「部活公開」

 夏休みが明け、テストも終わった9月2日、西田高校マンドリン部では夏休み明け最初の部活が始まっていた。(奏太は夏休み中の勉強会のおかげでテストはなんとかある程度できた)

 最初の練習では大会曲の“マンドリンの群れ”はもちろんだが、その他にもやらなくてはいけない曲があった。それは…


「9月4日の日曜日に学校公開があります!そしてこの日は部活公開もあり、マンドリン部も中庭で演奏があります!」

 部長水島が紹介した通り、西田高校では学校公開日といって土曜日の授業の様子を地域の中学生に公開しており、中でも毎年9月には最初の土日どちらかに部活公開を行なっており、中庭で一部文化部の演奏を行う。今年は4日の日曜日がそれに該当する。マンドリン部では三送会と文化祭で演奏した曲の中から一部を選び、事前に指示をだして練習や合奏をしてあった。


「部活公開ってそんなに大事なんですか?」

 糸成が益田に質問しているのを横で聞いていた水島は全体に対して大きな声で元気よく説明した。

「もっちろん!マンドリンって楽器を知ってもらうきっかけになるし、演奏が終わった後にはちょっとした楽器体験もやるからね!ここで来年の1年生の心を掴むことができればきっと来年の入部にもつながるよ!今の1年生の中にも去年演奏を聞いてくれた人いるんじゃない〜?」

 水島が尋ねると、1年生のうち何人かはうなずいた。

「楽器体験…!」

 奈緒がそう呟くと和田がにっこり笑って言った。

「そうよ。みんなが教えてあげるのよ!」

「ええ〜私教えられるかな…!」

「ふふ!大丈夫大丈夫!まだ本入部じゃないし、お喋りして雰囲気を伝えるのが大事なのよ!」

「あ、それなら得意です…!」

 お喋りと聞いて奈緒は少しほっとして胸を撫で下ろした。


「とにかく!来年の部員確保は県大会突破と同じくらい大切なことです!今から合奏を行うのでぜひ真剣に取り組んでね!」

 水島がそう言ってまとめると一同は元気に返事をした。



 合奏が終わった後は「マンドリンの群れ」の練習を行なった。夏休み明け最初の部活ということで合奏は行わず、パート練習になった。夏休み最後の合奏で指摘されたことについて残りの夏休みでじっくりと考えた2年生たちがそれぞれ自分の工夫を施した方法でパート練習を行なった。

「それじゃ早速練習を始めるけど、先生からみんながもっと余裕を持てるような準備をパート練の時点でするようにと言われていたのでどんどん進めていきます!少し進度が早いなって思ったら遠慮せず言ってね!これからのパート練をよろしく!」

 和田はそう言って1stのメンバーの顔を見た。奏太たちは真剣な表情で返事をした。こうして、以前の練習に比べ、よりハイスピードなパート練習が始まった。

 そして、9月4日。部活公開の日がやってきた。中庭に作られた簡易ステージの前にたくさんの中学生が集まり、色々な部活のパフォーマンスを見ていた。奏太たちの番はもうすぐだ。





 学校公開日の部活公開。前の部活の発表が終わり、マンドリン部は中庭の脇で待機していた。中庭では直前の部活の部長にインタビューしていた。

「あ、インタビューあるんだった!忘れてた!何も考えてないや!」

 舞台の様子を伺いながら水島は頭を抱えた。

「インタビューなんだから準備しとかなくても向こうに任せればいいだろ…」

 水島を見て益田は呆れて言った。


 他の2年生たちは一部の席を立つ中学生の様子を見て口々に悲鳴をあげた。

「あー!帰らないで〜!」

「そうね、やっぱり吹部の後はきついわね…」

 そう、直前に演奏した吹奏楽部は音量も大きく、マンドリン部に比べると華やかでどうしても初見の印象、インパクトで勝てない。また、中学にもある部活ということで、吹奏楽部経験者が演奏を聴いた後そこで満足して帰るタイミングにもなりやすい。そういった点でマンドリン部は若干不利なのである。とはいえ、マンドリン部にはマンドリン部なりの繊細な表現や魅力的な音色など、演奏に様々な魅力がある。残っている生徒に少しでもたくさんの魅力を伝えることが今回の目的なのだ。



 それでもマンドリン部が入場する時に残っている中学生は少なくなく、入場すると大きな拍手で迎えてくれた。中にはちょうど建物の中から出てきて今パフォーマンスを見つけて立ち止まってくれる生徒もいた。

 通りがかりの女子中学生2人組が通りかかり、そのうちの一人が舞台を見つけて立ち止まった。

「あれ?これマンドリン部?」

「知ってるの?私は初めて見たなあ」

「うんちょっとね。少し見てこっか。」

 奏太たち1年生は今までの本番に比べると少し緊張していた。というのも彼らが本格的に演奏に参加するようになってから経験した本番は三送会、老人ホームの2種類で、前者は身内のみ(もちろんそれはそれで緊張するが)、後者は比較的アットホームな雰囲気だったのに対し、今回の本番は観客の中学生にとって先輩にあたる立場として演奏する。しかも来年の部員獲得に向けた宣伝ということもあり、演奏を成功させなければという気持ちは特に強い。緊張で集中力が削がれ、チラチラと客席の方を眺めてしまう1年生も何人かいた。

 奏太もチラッと客席を見た。あまりによそ見をしていると、観客の一人と思わず目が合い、それに気を取られて中川の指揮に出遅れてしまった。これには中川も気づいたようで、奏太は「しまった」と思った。

 全体としては演奏はうまくいき、水島がインタビューで楽器体験の宣伝をすると大きな拍手が起こった。


「私マンドリンって初めて聴いた!いい音だねえ!」

「そうだね。」

「ねーねー体験行こーよ!」

 先ほどマンドリンを知らないと言っていた女子中学生は演奏にすっかり魅了され、はしゃいでもう一方を誘っていた。

 このように演奏への肯定的な感想や楽器体験を期待する声が聞こえてきて水島はホッとしていた。この後は楽器体験である。

夏休み明け、早速ではありますが、部活公開という演奏の場がやってきました。3年生が引退したばかりの部活ですが、もう奏太たちにとっての後輩を意識しなくてはいけない行事がやってきました。マンドリン部は知名度がそんなに高くないため、新歓の成功が鍵となるのです。

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