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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第10章「新たなスタート」
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第62話「三送会」

 2022年8月5日、ついに三送会となった。部員たちは午前中から会場の飾り付けや合奏練習など準備をし、リハーサルを行った。リハーサルが終わった後、指揮者の中川が全体に話をした。

「みんなお疲れ様。いよいよ本番です。合奏について、3年生の皆さんに喜んでもらえるいい演奏に仕上がったと思います。特に1年生合奏、1週間という短い時間の中でよく頑張りました。中でもコントラバスの音がすごくよくなりました。本番もよろしくね。」

 中川はそう言って遥花の方をみると静かに微笑んだ。遥花は照れくさそうに頬を赤くして会釈した。杏実はそんな様子を横目に見ながら微笑んだ。

 昼休みが終わる頃には、3年生の先輩たちが部室に集まり始めた。全員が集まり、1、2年生の準備もできたところで開場となった。奏太たちが演奏席に座り、緊張しながら待っている中、3年生の先輩たちが照れながら設営された客席に座る。奏太は久しぶりの小野の姿を見て少し安心した。小野もそれに気付いて応援の意味を込めたガッツポーズをして見せた。

 3年生が全員着席したところで、演奏席に座っていた咲子が元気よく立ち上がり、前に出て行って話をした。

「3年生の皆さん!本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます!新規部長になりました水島咲子です!私たち1、2年生は皆さんが引退した後、先輩たちの意志を継ぎながら練習してきました!特に2年生は、最高学年という立場に立って改めて運営の大変さ、そして大切さ、何より先輩方の偉大さを感じました!本日は3年生の皆さんに感謝と応援の気持ちを込めてささやかではありますが三送会を開催したいと思います!楽しんでください!」

 咲子の元気いっぱいの司会を聞いて、3年生たちはニッコリ笑った。

 咲子の司会が終わると、1、2年生の部員たちから何人かが立ち上がり、ささやかな劇を始めた。これから演奏する曲の内容とリンクしつつ、3年生の先輩たちの部活生活の思い出のエッセンスが混じり合ったおもしろおかしい内容で、3年生の先輩たちはゲラゲラ笑いながら手を叩いた。

 劇が終わった後で、咲子が次の演奏を説明した。

「と、いうことで!今から1年生合奏です!1年生のメンバーたちが入部から3ヶ月の練習の成果を見せてくれます!お楽しみください!」

 咲子の司会の後、拍手をききながら中川が出てきて、お辞儀をした。指揮棒を構え、1年生の様子を見た。

ーいよいよ俺たちだけの本番だ…!

 奏太はいよいよ始まる初めての1年生合奏の本番に強い緊張感と期待を持ちながら指揮が始まるのを待ち構えた。そして、ついに演奏が始まった。





 1年生合奏は今までの練習の成果を出し切ることができた。楽器歴わずか3ヶ月の後輩たちが一生懸命演奏している姿は3年生だけでなく、2年生の先輩の心も強く打った。演奏を終えた時、1年生のメンバーたちは確かな達成感を実感することができた。演奏が終わると先輩たちから大きな拍手が湧き上がり、中には目に涙を浮かべながら1年生の成長を喜んでいる先輩もいた。

 続いて2年生合奏があった。2年生合奏は2ndなしという特殊な編成のため、専用の編曲がなされ、指揮者なしのアンサンブルで演奏された。2年生の演奏は指揮者がいない分奏者主体のアイコンタクトや表現に委ねられ、人数の少なさを気にさせない見事な演奏に感じられた。自分たちの思うがままに演奏する先輩たちを見て、奏太はいつしか

ーアンサンブル、かっこいい。

 と感じていた。


 続いて、最後に1、2年生による合同合奏に移る。中川が再び指揮台に上り、新生マンドリン部の全員での演奏で、いわばこれからの活動へ向けた決意を3年生の先輩たちに伝える曲だ。少ない人数とはいえ、2年生がついているという事実は1年生の部員にとって非常に心強く、すでに1年生合奏というこの日最大の壁を乗り越えていることもあって今までで一番ノって演奏することができた。そんな1、2年生たちの演奏する様子を見ていて3年生の先輩たちは微笑みながら見守っていた。

 演奏が終わった後で、3年生の先輩たちから一言ずつ話す時間となった。先輩たちは一人一人2年半の活動の振り返りや後輩に向けた感謝や期待の言葉などを熱く語り、一人で10分以上話し続ける者もいた。

 1stから順番に話すことになったため、トリをつとめたのは部長の高橋だった。高橋は珍しく少し恥ずかしそうに話しはじめた。

「正直こないだの全国の時に全部話しちゃったから今日話すことないなあと思ってきたんですが、今日の演奏を聴いて、話すことが見つかりました。」

 高橋はそう切り出してから話を続けた。

「全国から時間がなくて準備期間も短かったのにすごくいい演奏をしてくれてありがとうございました!特に1年生!この短い時間の中で大きく成長していて、俺の予想を遥かに超えてくれました!これならこれからも大丈夫だと思います!」

 高橋が1年生を褒める時、特に遥花の方を意識して言っているのが奏太たちには分かって嬉しくなった。遥花も今回の本番を乗り越えたことでこれまで以上に自信を持ったのか、先輩の言葉を清々しい心持ちで、でもちょっぴり恥ずかしそうな表情で聞いていた。

 その後高橋は続けた。

「2年生のみんなも少数精鋭という感じでとても頼もしかったです。これからの運営、1年生をしっかり引っ張りながら頑張ってください。」

 高橋が「1年生をしっかり引っ張りながら」という言葉を言う時少しニヤニヤしながら自分の方を見ていたのを察し、杏実は苦笑いしながら頭を縦に振った。

 高橋はその後も1、2年生の演奏を褒めまくった後、最後に一言だけ付け加えた。

「でも、劇はもっと面白いの頼むぜ!」

ー えー!?俺女装までしたのに!?

 高橋からのまさかのダメ出しに今回女装をした大喜をはじめとする劇に出たメンバーはショックを受け、一同を笑いに包んで高橋は話を終えた。




 3年生全員の話が終わった後はパートごとプレゼントや色紙の贈呈、写真撮影などの時間になった。1stと2ndについては、和田のパート異動の関係で、どちらのパートにも関わった先輩がいる関係で今年は2パート合同で行った。

 奏太たち1stパートの色紙は絵が得意な奈緒がデザインを担当し、可愛らしく書かれた枠に1、2年生全員から感謝の気持ちを書いたものを渡した。先輩たちはそれぞれ色紙を喜んだ。

「え〜!可愛い〜!これ誰が描いてくれたの?」

 色紙に描かれたイラストのうまさに驚き、三河が尋ねると横で江口が推理しはじめた。

「うーん、アヤカのが一番豪華なとこを考えるに…ナオちゃんでしょ!」

「ええ〜!?せ、先輩アタリです…!って、全員しっかり描きましたって!!」

 奈緒はあっという間に見破られて驚き、江口の決めつけにツッコミを入れた。

「あはは!さすが1stのブレーン!ナオちゃんアヤカに一番懐いてるもんね〜!コメントの分量も一番多いし!」

 その様子を見て小野が微笑んだ。

「…それは否定しません…!」

 分量に関してはやはり三河の色紙に一番多く書いていたのか奈緒はそこはあっさり認めた。

「あはは!いいよ〜!こういうのは気持ちだからね〜!あるだけで嬉しいよ!みんなありがとう!」

 小野は1stのメンバー全員の顔を見ると、お礼を言った。

「先輩、今まで本当にありがとうございました。私は4月からの短い時間でしたが、1stのメンバーとしてやっていくことに戸惑っていた時、先輩方はいつも優しくしてくださいました。割と最近まで自分にコンミスができるのかずっと不安に思っていましたが、先輩方のおかげで少し勇気が出てきた気がします。」

 1stの3年生を前に、和田はそう語った。それを聞いて小野が答える。

「こちらこそ今までありがとね!和田ちゃんは全国は2ndだったから文化祭だけだったけど、一緒に弾けてとても楽しかったし、すごい適応力あるからこれからは1stとして頑張っていってね!1年生も頼もしいし、未来の()()()()もいるからね!」

 小野が「未来のコンミス」というフレーズを言った時、奏太はまたいじられたとムズムズしたが、いい話をしているところだったので特に突っ込まず、黙っていることにした。その返事を聞いて和田は少し涙を浮かべると、小野の手を強く握って何度も頭を下げた。

 そんな様子を微笑ましそうに見ながら、中川も話しはじめた。

「小野先輩、自分は先輩にはすごく迷惑をかけてしまいました。すみませんでした。」

 中川の話を聞いて小野はニッコリと笑って答えた。

「ほんとだよ!あんなのもう二度とごめんだわ!」

 小野にバッサリと言われ、中川はフッと笑うと、話を続けた。

「でも、今ここで部員として先輩方を見送れること、本当に幸せです。こうして復帰できていなかったらきっと今頃も鬱みたいな状態だったと思います。本当にいい仲間に恵まれました。」

「だから、今度こそこの仲間たちと共に、精一杯音楽を楽しみたいと思います。」

 中川の語りを3年生の先輩たちは頷きながら聞いた。

「うんうん!中川くんには来年ちゃんと引退してもらわないとね!期待してるわ。」

 小野はそう返し、中川と握手をした。中川は少し照れくさそうな顔をしながらお辞儀をした。


 そして、今度は小野は奏太の方を見て話しはじめた。

「そして、奏太くん!君にはすごく助けられたわね。この中川くんの件もそうだけど、1年生ながら本当に真剣に部活に取り組んでくれて私はとっても期待しています!素敵な()()()()になってね!」

 小野が今度は()()()()ではなく()()()()と言ったのを聞いて奏太はハッとして大きな声で返事をした。

「…はいっ!!が、頑張ります!小野先輩みたいに上手くなって最高のコンマスになってみせます!」

「あはは!頼もしいけど私じゃなくて剛田旋くんみたいにでしょ!あなたは彼に並ぶのが目標なんでしょ?」

 奏太の決意を聞いて小野はクスリと笑ってからそう答えた。それを聞いて奏太は改めて決意を固めた。

ー小野先輩、三河先輩、江口先輩、和田先輩、中川先輩、そして旋…!上手い人たちを目標にして俺は上手くなってやる…!


 その後は1stパートのメンバーで写真撮影をし、時間の許す限り語り合った。自身の退部騒動を自虐的に語りながら小野とゲラゲラ笑っている中川のように先輩と楽しく思い出話をする者、三河の前でずっと泣いている奈緒のように先輩の引退を悲しむ者などそれぞれがそれぞれの時間を過ごした。



 こうして三送会が幕を閉じ、次なる目標は県大会。3年生15人が引退し1、2年生28人となった西田高校マンドリン部では今度こそ本格的に新体制での部活が始まるのだ。

小野以外の1stの先輩については名前は出ていたものの、あまり活躍らしい活躍がかけておりませんでしたが、今回少しだけ出番を持ってこれました。

1stパートのメンバーがこうして集まって話すシーンはキャラが増えるのでなかなか難しいです(敦とかセリフ無しだったし、1年生まだひとり登場してないし)

全員この場にはいるんですけどね笑

もう一人の1年生メンバーについてはまた後ほどといったところですね。

3年生は今度こそ基本的にはもうしばらく出番ありません笑

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