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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第10章「新たなスタート」
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第61話「小さな合奏」

 奏太たちとの話を終えたあと美沙は杏実のもとでコントラバスの練習をしている遥花のもとに向かった。

「ハルカちゃん!」

 美沙が呼ぶと遥花は手を止めてこちらをみた。横で教えていた杏実も美沙たちの方を見て尋ねた。

「あらミサちゃん、どうしたの?」

 美沙は手に持っているチェロを見せながら言った。

「先輩!少し時間をください!ハルカちゃんと1年生合奏の曲を合わせてみたいんです!」

「えっ?合わせる?でもハルカちゃんさっき弾けなかったみたいだし…」

 杏実は不思議に思って尋ねた。横で遥花も不安そうに目線を落とした。

「いえ、私に考えがあります!ハルカちゃんが演奏しやすくなるためにもお願いします!」

 美沙は依然真剣な表情で言うと、座り込んで楽器の準備を始めた。

「紺野さーん!呼んできたよ〜!」

 後ろから声がして奏太が自分の楽器とともに戻ってきた。

「あ!ありがとう!」

 美沙が尋ねると、奏太の後ろに着いて糸成が来た。

「ドラとか2ndも呼んできた方が良かった?」

 奏太が尋ねると美沙は首を振った。

「ううん。メロディと伴奏だけあれば十分だから!4人で大丈夫!」

 それを聞いて奏太は微笑んで楽器の準備をした。

 「ほら!ハルカちゃんも!一緒に弾こう!」

 美沙に言われて遥花は慌てて準備をした。そして、美沙の合図で早速合奏を始めた。演奏を始めて最初のうちは遥花は全体の合奏の時と同じようにどう弾いていいかわからず立ち尽くしていたが、次第にあることに気づき、だんだん音を出すようになった。その様子を横目に見てしめたと思ったのか、美沙は自分の音を少しずつ大きくしてみせ、それを聞いて遥花もだんだん分かってきたようにすすんで音を出すようになっていった。そんな二人の様子を見て、何も聞かされずに奏太に呼ばれて来た糸成もこの合奏の真意に気づいたのか特定の音を強調して弾くようになっていった。

 いつの間にか遥花は今まで以上にきちんと音が出せるようになり、気づくと最後まで辿り付いていた。





 合奏を終えると、美沙は目を輝かせて遥花の方を向いた。

「ハルカちゃん!」

 遥花も自分の演奏が信じられない様子で美沙の方を見て呟いた。


「今…弾いてたの私…?」


 奏太たちも喜んで遥花を激励した。

「すごいよ!今完全に弾けてたよ!」

「驚いたなあ!見違えたよ!」

 みんなから褒められて遥花は照れくさくなったのかまた下を向いてしまった、とは言ってもいつもの自信なさげな様子ではなく、確かな手応えと満足感を感じている表情であった。

 遥花がしっかりと演奏できていた様子を見ていた杏実は驚いて美沙に尋ねた。

「す、すごいわ…!ミサちゃん、一体これはどういうことなの?」

 美沙はニッコリと笑って答えた。

「はい!同じ動きをしているパートに気付いてもらおうと思ったんです!」

「同じ動きをしているパートに…?」

 美沙の説明を聞いて、杏実はゆっくりと繰り返した。美沙は説明を始めた。

「はい!ハルカちゃんがさっきの練習で弾けなかったのは、同じパートの人が周りに全くいなかったからだと思うんです。Bassパートの動きはベースラインで、メロディを弾いているパートと比べてもわかりにくい…それなのにBassパートが一人だと余計不安になっちゃうんだと思います!」

「なるほど、それでCelloを…」

 美沙の説明を聞いて杏実は納得したようにうなずいた。

「はい。Celloの動きはBassの動きとオクターブユニゾンになっているところが多いです。合奏中に中川先輩が言ってたチェロの動きはベースラインに似ているって一言で気付いてスコアを確認して確信しました。似た動きをしているパートと練習したら自分のパートの音が掴めるんじゃないかって…」

 美沙は杏実に納得してもらえてニッコリと笑い、説明を続けた。

「Guitarに来てもらったのもそうです。アルペジオの中にある低音はベースラインをなぞってます、一緒に演奏することでBassに似た動きが分かりやすくなると思ったんです。」

 美沙はそう言って糸成の方を見た。糸成はニッコリと笑ってグーサインをした。美沙の言うとおり、Bassの動きはGuitarの低音弦の動きやCelloの動きによく似ており、今回の練習ではその3パートに分かりやすさのためにメロディを弾いている1stを入れて合わせた。それによって複雑な2ndのハモリやマンドラの内声の動きが削ぎ落とされ、よりシンプルに低音に集中して周りの音を聴くことができる。それによって遥花がBassの動きをよりはっきりと感じ取ると言うことが狙いであった。そして美沙の思惑通り、遥花は自分の動きを掴むことができ、なんとか最後まで合わせることができたのだ。

「そこで、先輩!お願いがあります!ハルカちゃんが自分の動きを掴めるまでは低音パートで一緒に練習したいんです!そうすることで必ずハルカちゃんも演奏の仕方が分かってきて自分からでも弾けるようになると思うんです!お願いします!」

 美沙はそう言って杏実の顔をじっと見た。杏実はそれを聞いて、ニッコリと笑うと答えた。

「そうね。ミサちゃんありがとう。ハルカちゃんのためにも合同パート練、検討してみるね!あとでリカや益田に掛け合ってみる。」

 杏実の快諾を受けて美沙と奏太は顔を見合わせて喜んだ。糸成もニッコリと笑ってウインクした。遥花もみんなが自分の話をしているのに少し照れ、頬を赤らめながらも目を細めた。

「それにしても、本当は私が気づかなくちゃいけないことなのにごめんね。私コントラバスずっとやってきて初心を忘れてたというか、ハルカちゃんの感じてきたやりにくさに気づくことができなかった。この反省を生かしてこれからは自分なりに頑張って教えるからよろしくね!」

 杏実は遥花に優しく言った。遥花は相変わらず顔を真っ赤にして首を振った。

「と、とんでもないです!先輩が謝ることないんですよ!」

「いえいえ、私中学の吹奏楽部の時に似たような境遇の人を見たことがあったので分かっただけですよ。私たちも協力するのでみんなで上手くなっていきましょ!」

 美沙はそう言ってニッコリと笑った。


 こうして遥花の練習の問題は解決し、これ以降は練習の仕方を工夫して今まで以上に合奏の中で音を出せるようになったのだった。1年生にとっての最初の本格的な1年生合奏の本番、三送会はもうすぐだ。

美沙が言っているようにBassパートはCelloパートやGuitarパートの低音弦の音とオクターブで同じ動きをしていることが多い印象を受けます。低音系として一緒にパート練習をすることも多いような気がします。

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