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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第10章「新たなスタート」
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第59話「ひとりで悩む者」

 大阪から帰った翌日は部活は休みで、1日挟んだ7月30日から部活が再開した。奏太と糸成はいつも通り二人で登校し、音楽室に着くと、もうすでに来て練習している誰かのマンドリンの音が聴こえてきた。

「おっ、この音!もしかして小野先輩…!」

「えっおい奏太…」

 奏太が音に誘われて走って建物の中に入ると、そこにはマンドリンを弾いている和田の姿があった。

「あ!奏太くん!おはよー!」

 和田がこちらに気づき、弾くのをやめたのを見て、奏太は冷静な表情に戻って呟いた。


「…あ、そっか、小野先輩はもう引退したんだったな…」



 奏太のように、マンドリン部では引退した3年生たちを惜しむ感覚があり、朝の会からどこか身が入っていない様子があった。そんな様子を見て、新部長になった水島は朝の会で元気に今後の予定を話した。

「ほらほらみんな〜!いつまでも3年生のこと考えてられないでしょ!私たちにできることは次の演奏に向けてどんどん練習していくこと!次の本番は三送会です!3年生の先輩と話し合った結果、日程は8月5日に決まりました!」

 水島の説明を聞いて一同はざわついた。

「えっ、5日って…」

「1週間しかないじゃないか…!」

 そう、三送会までの期間は1週間しかないのだ。以前中川が説明した時、「1週間ちょっとはもらえるだろう」と言っていたことを覚えていた糸成は、本当に1週間「しか」ないとはと苦笑いを浮かべた。

「仕方ないでしょ!先輩たちは受験勉強があるし、私たちだって県大会のことを考えるとあんまりゆっくりもしてられない!お互いに早く済ませなきゃいけない理由があるからこれ以上後ろにはできないってことになったのよ!とにかく短期集中でしっかり練習して1週間で3年生のことは気持ちに整理をつけるのよ!」

 水島はそう言って全体を鼓舞し、最後にこの日の練習予定を話し始めた。

「一応楽譜は大会前に配っていて時間を見てうまく自主練をしていてくれたと思うので、今日から合奏を始めます!今日の午後3時から1時間、1、2年生の合同曲2曲を合わせるからパート練習よろしくね!1、2年生の合奏曲は今日はやらないけどそれぞれ明日から始めるのでこっちも準備よろしく!」

「ええ〜!?」

 いきなりのハイペースな練習予定に一同は思わず驚いたが、三送会の日程を考えると無理とは言えず、すぐさまパート練習に向かった。

 こうして3年生を送り出した西田高校マンドリン部は1、2年生で慌ただしくスタートを切った。





 大会が終わり1、2年生だけの新体制になって初の練習日、1週間後に迫る三送会に向けての練習が急ぎ足でおこなわれた。

 この日の合奏で奏太はこれまでの個人練でやっていたことをかなり出せ、文化祭の初練習の時よりも手応えを感じていた。

 そして練習が終わったあと、奏太は敦と共に自主練習をする場所を探していた。

「ソウタB前のところ弾けてたなあ!どう弾いてるか教えてくれよ」

「おう!いいぞ!どこ行こうか!」

 敦に褒められて奏太は上機嫌で答えた。

「どうするか、暑いし外行くか。」

「そうだな、音楽室や部室はすでにいっぱいいるしな〜」

 こう話しながら廊下を歩いていると、部室の中から声が聞こえた。

「ほら、気にしなくて大丈夫だから!」

「…でも、やっぱり私にはできないよ…」

 その声に気づいて、敦が不思議に思って部室の中を覗き込むと、そこには二人の女子生徒が話をしていた。

「紺野さん!」

 奏太の気づいたように一人は美沙でチェロを抱えていた。

「それに平山さん!」

 もう一人の女子生徒は平山遥花(ひらやまはるか)だった。彼女はマンドリン部の1年生で、パートはコントラバスだ。表情を窺うにあまり元気がない。

「ふたりともどうしたの。」

 敦が彼女らの顔色を窺うと、美沙が説明した。

「それがね、ハルカちゃん、今日の合奏で上手く弾けなかったみたいなの。それでちょっと自信無くしちゃったみたいで落ち込んでたのよ。」

「そっか、でもまだ最初だし、本番まで1週間あるから、みんなで力を合わせて練習していけば大丈夫だよ。」

 敦がそう言って慰めると、遥花は一層下を向いてしまった。

「ありがとう、でもこれまでも時間かけて個人練してきてこうだからきっと1週間練習してもあまり変わらないと思うの、やっぱり私にはコントラバスむいてなかったんだよ…文化祭の時もそうだったけど弾くタイミングとか全然つかめないし、どんな風に弾いたらいいのかイメージが湧かなくて…私学年で1人しかいないのに、このままじゃみんなに迷惑かけちゃう…」

「はるかちゃん…」

 それを聞いて、美沙は深刻な表情で遥花を見つめた。

 奏太たちも彼女を見つめ、黙り込んでしまった。




 しばらくすると、遥花を呼ぶ声が聞こえてきた。

「おーいハルカちゃん!」

「あっ山口先輩!」

 奏太たちが振り返ると、やってきたのは2年コントラバスパートの山口杏実だった。

「あれ?割といっぱいいるね、お取り込み中?」

 山口が奏太たちに気づくと、美沙が慌てて否定した。

「あ、いえいえ!大丈夫ですよ!先輩の方こそ何かあるんですか?」

「そうね、さっきの合奏で気になったことを確認しようかと思って。ハルカちゃん今からできる?」

 山口はそう答えると遥花の方を見た。

「え、はい…」

 遥花は相変わらず元気のない声で答えると、ゆっくりと立ち上がった。その様子を見て、敦はホッとした様子で言った。

「よかったじゃん平山さん!先輩に相談してみるといいよ。」

「...うん」

 敦にそう言われても遥花は元気のない様子で山口について行った。


 その後ろ姿を見ていて美沙はため息をついた。

「はあ…相変わらずだなあハルカちゃん。どうすれば練習を楽しめるようになるのかな…」

 奏太たちも遥花のことを少し心配して黙り込んだ。

「今のアミンとハルハルだよな?」

 また誰かの声がしたので驚いて振り返ると、そこにいたのは高橋だった。

「えっえええ!?高橋先輩!?」

 引退した3年生の高橋を見て、奏太たちは驚いた。

「よっ!そんな久しぶりでもないけど久しぶり!コントラバス戦士を卒業して受験戦士になっているよ!今はパリピの血はお休みだ!部室に置きっぱになってた辞書を取りに来たんだ。」

 高橋は相変わらず砕けた話ぶりで謎の口上を述べると、コントラバスパートの棚のところに行って英語の辞典を手に取った。部室に私物を置いている部員はいっぱいおり、中には高橋のように引退した3年生がとりに来ずに置きっぱなしにしていたものもある。中には数年前の先輩が置き去りにして卒業したものもあると言われており、こんなんだから部室は汚いのである。


「そんなことより、ハルハル苦戦しているみたいだな。」

 高橋はそう言って美沙の方を見た。

「そうなんですよ。先輩たちが引退されて1年生が本格的に参加するようになった途端自信をなくしてしまったみたいで…何かいい方法はないでしょうか…」

「今向こうで山口先輩が教えてるみたいなので何か変わるといいと思うんですが…」

 敦もそう付け加えた。そんな二人の言葉を見て高橋は真剣な顔で答えた。

「いや、今のままじゃ無理だな。」

「えっ!?」

マンドリン部の次なる目標は「三送会」ですが、練習期間が短いということが明らかになりました。

水島が言っていた「大会前に楽譜を配っていた」というのは第32話で配っていた楽譜のことですね。この周辺の回で三送会に関する説明をしています。これが2022年7月4日の出来事なので、個人練の期間は1ヶ月近くあることになります(笑)3年生の先輩たちの目のないところに限られるのでなかなか時間に困ってそうですけどね。

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