第56話「特別賞の緊張感」
特別賞の発表ではまず最初に同率5位にあたる「大使館・総領事賞」3校の発表が行われる。大使館と総領事館三ヶ国の名前とともに演奏番号と学校名が発表される。先輩たちはそれぞれ願いを込めながら手を合わせて発表を待っていた。狙うは優勝、文部科学大臣賞だが昨年のように特別賞に入らないことだけは避けたい。この際どれであっても特別賞が欲しいというのが正直なところだった。
アナウンスが演奏番号と学校名を読み上げ、該当する3校の発表が済んだ。発表されるごとにその学校の歓声が会場に響き渡る。それを聞くたびに他の学校の緊張は余計強まる。少しずつ減っていく特別賞という椅子に座れるかという緊張感は何事にも例えられない。
続いて「開催都市市長賞」の発表に移る。これは同率4位となり、2校発表される。手を合わせながら発表を待っていると、アナウンスが番号を読み上げた。1校目は西田高校ではなかった。番号が読み上げられるたびにあがる歓声にそれ以外の学校は余計にピリピリする。
1校目が賞状とトロフィーを受け取ると、アナウンスは続けて2校目の発表に移り、番号を読み上げた。
「…16番!」
「えっ」
読み上げられた番号を聞いて奏太たちは一瞬反応が遅れた。16番?16番ってどこだっけ、どんな演奏してたっけ、あれ?覚えてないや、…ってもしかして…?そんな風に混乱し、思考が追いつかなかった。
「うおおおおおおおおおおお!!!!」
「西田高校!」
しかし、誰よりも先に歓声をあげた壇上の高橋と、アナウンスの読み上げた学校名を聞いてやっと気づいた。受賞したのは自分たちの学校なのだ。名前を聞いた途端奏太たちは高橋より少し遅れて喜びの声をあげた。小野と石原は思わず立ち上がって飛び上がりながらハイタッチし、親友同士喜びをわかち合った。石原は泣いていた。その後で小野はふっと会場を見て高橋がトロフィーを掲げこちらを見ているのを見て自分も少し涙を浮かべ、空気に向かってハイタッチをした。高橋も同じ様子で会場から手をかざすと、ニッコリと笑って会場の元の位置に戻った。
奏太たちもこの結果には心の底から喜び、大きな声をあげた。自分が演奏していない大会で自分たちの先輩が特別賞を受賞したということがこんなに嬉しいことなのだと初めて知った。
こうして西田高校は2022年度の全国大会において同率4位にあたる「開催都市市長賞」を受賞した。
奏太たちはもう呼ばれることはないが、他校の成績がどのようになるのか当然気になるため、結果発表の様子に食らいついた。
「それでは続いて“全国知事会賞”の発表に移ります。2校ございます。」
ここからは自分たちより優秀な演奏をしたということになるわけで心当たりのあるいくつかの学校がどのような順番で並んでいるのか先輩たちも気になり、発表の様子を固唾を飲んで見守った。
「20番、郷園中学高等学校!」
発表と共に歓声が上がる。
「…!郷園…!」
奏太は発表された名前を聞いて思わずそっちを向いた。横で小野が呟く。
「う〜、やっぱりさすがね郷園!最後まで勝てなかった…!」
そして、郷園の部長が賞状とトロフィーを受け取り、元の位置に戻るとアナウンスが再び次の高校を発表し、同じように賞状を渡していた。
奏太たちが演奏を聴いた時の印象を強く持っていた「篠ノ咲中学高校」と「龍門中学高校」はこの時点では発表されなかった。
続いて、同2位にあたる“新聞社賞”2校の発表に移る。小野たちの予想ではここで篠ノ咲中学高校が呼ばれ、最後の“文部科学大臣賞”で龍門高校が呼ばれると思っていた。しかしここで篠ノ咲中学高校の名前は呼ばれなかった。
そして、驚くことに2校のうち、片方で龍門中学高校の名前が呼ばれたのである。龍門の生徒からは歓声が上がったが、他の学校の声に比べて小さい印象だった。やはり2年連続優勝を経験し、今年も優勝という気概が強かったのか、2位という結果には拍子抜けしてしまったのだろうか。また、そこにいたほとんどの者が彼らが優勝すると思っていたため、意外な結果に驚き、会場の拍手も少しバラバラしていた。
「…意外だな。あの龍門が2位なんて…」
この結果には小野や中川も驚きを隠せずにいた。あれよりすごい演奏をした学校があったのかと感じた。
「先輩!ということはもしかして1位は篠ノ咲なんでしょうか?」
「…いや、わからない…が、俺の目からはさすがに龍門以外ないと思ってた。レベルが違いすぎた。」
そして、会場全体がその驚きを持ったまま次の“文部科学大臣賞”の発表に移る。そこで発表されたのは…。




