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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第9章「先輩たちの全国大会」
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第53話「大会2日目」

 大会2日目、この日は楽器の積み込みが必要なかったので朝からスムーズに準備をし、会場に向かった。

 9時半から開演と朝早かったが、奏太たちが着く頃にはすでに多くの学校が到着していた。奏太たちも空いている席を探して演奏を聴いた。しかし、1年生男子を含め、昨夜は演奏が終わったという解放感からかなり遅くまで夜更かしをした生徒が多かったようで演奏を聴いている間はほとんどグッタリしていた。


 そして昼食、屋外の公園で配布された弁当をみんなで食べた。

「イトナリどうだった?今の演奏?」

奏太が眠そうな声で尋ねると糸成もやはりあくび混じりに答えた。

「え?いや、どこも心地いい演奏だったよ、さすが全国大会だよなあ…」

それをみていた高橋がゲラゲラと笑った。

「はは!なんだお前ら何時まで起きてたんだ?」

大喜が答える。

「えっと、2時だと思います…」

「えっ?違うだろ3時だよ!」

「ええ〜2時半じゃね?」

他の2人が口々に訂正した。その様子を見て、高橋は

「なんだ2人もガリみたいに時間に疎くなっちゃってるじゃないか!もうすぐ龍門の演奏だってのに!」

「龍門…」

龍門と聞いて奏太が反応した。龍門中学高校、近年毎年3位以内という好成績を修め、去年・一昨年と大会史上初の連続優勝を果たしている強豪校だ。そんな優勝大本命の演奏がもうじきに迫っているのだ。

「正直今日の午前の演奏はこれまで聴いてきた篠ノ咲や郷園に比べたら劣って聞こえたかもしれないが龍門はもっとヤバい。聴かなきゃ損だぜ?来年以降演奏メンバーになるお前らが1位を目指すなら相手のことを知っとかないとな。」

篠ノ咲や郷園よりもすごい…正直そんなレベルは奏太たちには想像すらできなかったが、どんな演奏なのか気になる…。高橋の話を聞いて奏太たちは少し目が覚めた。

 そんな龍門中学高校も演奏する午後の最初の部、大会2日目第2部がいよいよ始まるのだ。奏太は弁当のカラを片付けると、文化会館の建物を見て、静かに凝視した。




 奏太たちがホールに戻る途中、向こうから歩いてくる集団を見て、小野が何かに気づいた。

「あ、奏太くん見て!」

「え?どうしました?」

奏太が不思議そうに尋ねると、小野は真剣な表情で続けた。

「あれ、郷園の人たちだよ。」

“郷園”と聞いて、奏太がそちらを向くと、向こうもこちらに気づいたようでこちらの知っている先輩たちに手を振る様子が見られた。そしてその中にはもちろん剛田旋もいた。奏太は旋をじっと見つめると、近づいた。向こうも奏太に気づいたようで、微笑んで寄ってきた。

「やあ、久しぶりだね。奏太。」

「…ああ、こちらこそ…旋!」

奏太は相変わらず、少し緊張した様子で挨拶をした。

「昨日の演奏、聴いたよ。」

奏太が昨日の演奏に触れると、旋は

「ありがとう、君たちの先輩の演奏もすごく良かったよ。」

と、お礼とともに逆に西田高校の演奏を褒めた。そして、続けて別のことを奏太に尋ねた。

「全国大会はどうだい?初めて来たと思うけどなかなか見応えあるだろ?」

「ああ、少なくとも今の俺にはまだできないレベルの演奏がいっぱいだ。」

旋の質問に対して、奏太はそう大まかな感想を述べた。そして、

「でも、いまのところお前らの演奏が一番凄かった。」

と、付け加えた。

「そっか、そう言ってもらえるとすごく光栄だよ。でも、この後演奏される龍門はそんなレベルじゃない。まさに絶対王者だ。きっとびっくりすると思うよ。」

旋は自分の学校の演奏を奏太に褒められ、もう一度お礼を述べたが、すぐに龍門の話に話題を移した。奏太は、圧倒的実力をもち、将来有望の旋でさえ、龍門の演奏には敵わないと言っていることに衝撃を受けたが、返事をした。

「そっか、龍門の演奏楽しみにしてるよ。でも、俺はそこの演奏も超えてみせる。郷園にも龍門にも勝って全国1位になってやる!」

奏太の優勝宣言を聞いて、旋は俯きながらニヤリと笑うと、

「きみらしいな。来年、そして再来年楽しみにしてるよ!だったら俺らも1位を目指して練習させてもらう!」

奏太と同じように優勝宣言した。

「そうこなくっちゃ!どっちが先に1位になるか勝負だ!」

旋の申し出に奏太は笑顔で答え、話を終えると、他のメンバーに合図をしてその場を後にした。

 歩きながら、周りで見ていた小野がささやいた。

「ソウタくん、今年はもう無理だと考えてるの?」

「いっ、いや!そんなことないですよ!先輩たちが今年優勝して、来年も再来年も俺らが優勝する!1位を取り続けるってことです!!」

先輩に指摘されて、奏太は慌てて答えた。

「あはは!頼もしいね!」

その様子を見て、小野はニッコリと笑った。

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