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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第9章「先輩たちの全国大会」
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第52話「自販機にて」

 全国大会1日目は郷園高校の演奏以降は10の高校が演奏し、全国の様々な学校の演奏を聴き比べるのはとても興味深かった。

 こうして大会1日目は全部で30の学校の演奏で幕を閉じた。残りの30校は翌日2日目の審査となる。楽器の積み込みに時間がかかったこともあり、バスに乗り込んだ時にはもう18時を過ぎていた。バスの中で先生がその日の演奏の録音をかけてくれて、宿に着くまで演奏を聴きながら戻った。(録音は会場のロビーでCD売り場があり、各団体演奏終了からしばらく経つと販売が始まる。)2、3年生たちはここで初めて客観的に演奏を聴くことになったので少し緊張しながら聴いていたが、録音を聴き終わって先生が一言、

「我ながらよくまとまってますね。皆さんよく頑張りましたよ。」

 と演奏を褒めてくれたので安心していた。




 そしてその日の夜、入浴を済ませた奏太は飲み物を買いにロビーにある自動販売機に向かった。すると、

「あ」

「ん?おー()()!」

「た・か・ぎ!!」

 そこには奏太より前に奈緒が来ており、いつも通り奏太の間違いを訂正した。

「お前も飲み物買いに来てたのか。」

 奏太は奈緒が手に持っていた飲み物をチラッと見てから自分も買うものを選び始めた。

「うん。今からアヤカ先輩と女子トークするから飲む物買いに来たの。」

「へー」

 奏太は手を上げてボタンに手をかざしながら飲み物選びに集中していたので生返事をした。

「それより…」

 そんな奏太の様子を見ながら奈緒は話を切り出した。

「んー?」

 奏太は相変わらず自販機のボタンの前で指を行ったりきたりしながら相槌をした。


「この間の花火ではミサに告白したの?」

「…えっ!?」


 ガシャン…


 奏太の驚く声と共に自販機の中で缶が落ちる音が響き渡った。





 奈緒の突然の質問に動揺した奏太は出てきた飲み物を見るなり、慌てて返した。

「おいい!お前が急に変なこと訊いてくるから思わずボタン押しちゃったじゃねえか!なんだよ“青汁シェイク”って!!俺の140円返せよ〜!」

 奏太がかざしてきた缶を見て奈緒は動転しながら反撃した。

「えええ!?それ私のせい!?自分が指かざしてたからいけないんでしょ!」


 奏太は仕方なく怒りを収めると周りを見回してから話を戻した。

「…こ、告ってねえけど…そういやお前に知られちゃったんだったな…でもなんで急にそんなこと聞いてくるんだ?」

 奏太の照れくさそうな返事を聞いて奈緒は

「そ、そうなんだ。でもそりゃあ親友のことだもん。もしなんかあれば可能な範囲で知りたいし、告ってない場合大変なことになっちゃうからミサに聞くわけにも行かないでしょ?だからアンタに聞いたのよ。」

 と答えた。

「そういうことか。向こうの気持ちも分かんないし、告るとかはまだ先のことだと思うよ。」

「ふーん、“まだ先”ねえ…ミサ可愛いからウカウカしてると取られちゃうよ〜」

 奏太のぼんやりした返事を聞いて奈緒はそうからかい、自分の飲み物を開けて飲み始めた。


「…お前の方こそイトナリに告白しないのか?」

「ブーッ!!!」

 今度は奏太からの突然の切り返しに奈緒は盛大に飲み物を拭いてしまった。

「ええ!?なんであなたが私の好きなひ…、わ、私の事知ってんのよ!!あ、あああ!!ちょっとアンタが変なこと言うから吹いちゃったじゃない!私のイチゴジュース返しなさいよ〜!」

 奈緒はそう言って起こりながら質問した。奏太は奈緒の反応に少し引くと首を傾げた。

「ん?紺野さんから聞いたんだけど、もしかして聞いてない?謝るって言ってたんだけど…」

「…なるほど、ミサのばか…あの子昔から隠し事下手だからなー…」

 奈緒はそう言って頭を抱えるともう一度奏太の顔を見て、続けた。

「わかったわ。とりあえずミサから聞いたなら事故だろうから仕方ないわね。奏太くんは悪くないし許す。」

「そうか。サンキュ。」

 奏太があっさりとお礼を言ったのを聞き、奈緒は最後に一言付け加えた。

「でもジュースの件は許さない…!1本おごりね!」

「えええ!?なんだよそれ!お前も青汁の分返せよ!!」

 結局お互いもう一本飲み物を買った。




「それで、お前はなんでイトナリのこと好きになったんだ?」

 奏太は新しく買ったコーラを開けながら尋ねた。

 奈緒も新しく買い直したイチゴジュースを一口飲むと、今度は吹き出さずにボトルを置いて話し始めた。

「一目惚れに近いかなー、ミサに誘われて初めてマンドリン部の体験に来た時私はギターの体験をさせてもらったんだけどその時に糸成くんすごい上手に弾いてて、1年生なのにすごいって思ってね。私単純だからそれで気になっちゃって。」

「なるほど、あいつはギターちょっとやったことがあったからな。」

 奏太はそれを聞いて相槌を打った。

「それからはよく糸成くんのこと観察するようになって、奏太くんのことをからかったり冗談を言うこともあるけど常にしっかりと自分のすべきことを考えて行動してるのとか見て、かっこいいなあって思ったらほんとに好きになってきちゃってね。ミサにだけは打ち明けていたんだけどソウタくんにバレちゃったわけだ。」

 奈緒はそう言って苦笑いをし、ため息をついた。

「まあでも、俺は人に言ったりしないから安心してよ。そっちも俺の好きな人知ってる訳だし、それが抑止力みたいになるってのもあるけど。」

 奏太はそう言って微笑むと、話を続けた。

「なあ、この際俺らも協力しないか?お互いにお互いの好きな人と親友なんだし大丈夫な範囲で探りを入れてチャンスを探る。こうしてお互いにバレたのもなんかの縁だ。」

 奏太の提案を聞いて、奈緒も笑顔で答えた。

「うん!いいよ!私もちょうどそう思ってたところ!利害も一致してるし親友として最低限のプライバシーさえ守ればこういう協力は大事だよね!お互いがんばろうね!」

 こうして奏太と奈緒はお互いに恋愛面での協力関係 (相談相手?)となった。


 奈緒との話を終えた奏太は糸成から部屋に呼び出されたので向かった。

「ウノ!」

「ダウト!」

「革命じゃあ!」

 部屋には1年生男子が全員集まり、遊んでいる声が聞こえた。

「あ、ソウタ!いまみんなでパーティゲームしてるんだ。お前も混ざらないか?」

 奏太が扉をノックすると糸成が出てきてゲームに誘ってくれた。

「い、いいけどなんのゲームしてるんだ...?」

 中から聞こえた3人の騒ぎ声から何をしてるのか全く想像がつかなかったが、奏太も遊びに混ざることにした。


 こうして、大阪滞在2日目の夜は昨日に比べると随分遅くまで夜更かしをした。

今回、話が一気に1日目の夜に飛びましたが、少し巻きで行かないとダラダラとしてしまうので思い切って進めました。あと奏太の奈緒の名前の間違え方の候補が減ってきました(汗)

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