第43話「祭りのあと」
美沙と二人で花火を見るという体験は奏太にとって夢のようで完全に時間が止まったような感覚になった。しかし、実際には当然時間は経過するもので、いつの間にか最後の花火の打ち上げが終わった。結局二人はこの時間まで語り合った。他愛のない話だが、奏太にとってはかけがえのない時間だった。
「花火、終わっちゃったね…」
美沙は少し寂しそうな表情で空を見上げた。
「ああ。綺麗だったなー。また来年も見れたらいいな。」
奏太も口元に静かな笑みを浮かべた。
「そうだねー!来年はもうナオとはぐれないようにするから安心して!今日は本当にありがとうね!」
美沙はそう言ってニッコリ笑った。
「おーいソウタ〜!紺野さ〜ん!」
向こうから二人を呼ぶ声がした。
「ん?あ、おーイトナリ!高林さん!」
「た・か・ぎ!!」
見ると糸成と奈緒が向こうから戻ってきた。相変わらず奏太に名前を間違えられた奈緒は鋭く訂正をすると美沙の方を見て駆け寄ってきた。
「あーミサ〜!聞いたよ!足怪我しちゃったんだって〜?」
奈緒に心配されて美沙は苦笑いして足をさすると、立ち上がった。
「エヘヘ、お恥ずかしい…」
「紺野さん、足は大丈夫なの?」
立ち上がった美沙を奏太が心配すると、美沙は苦笑いをして答えた。
「うん、もうだいぶよくなったから多分歩けるよ。心配かけてごめんね!」
「そっか、よかった。」
奏太はそう言って微笑んだ。
「本当に大丈夫かい?奏太におぶって貰って帰ったらいいんじゃないか?」
糸成がそう言うと奏太は顔を真っ赤にして慌てた。
「えーっ!?そんなことできるわけないだろ!!紺野さんに悪いし!」
「そうよ!大橋くんに悪いし、わ、私一人で歩けるから!!」
これには美沙も流石に頬を赤らめて否定した。糸成の横にいた奈緒も思わず口に手を当てた。
ーえっ、これは流石に冗談…よね?
「あはは!二人とも反応そっくりだね!」
慌てる二人を見て、糸成はゲラゲラと笑った。その様子を見て奈緒は
ーこれは冗談これは冗談…!
と自分に言い聞かせ、糸成の様子を見て静かに微笑んだ。
「とっ、とにかく今日は色々と迷惑かけてごめんね!ほんとに助かったわ。」
話がひと段落してから美沙が奏太たちにお礼を言った。
「私も長い時間付き合わせちゃって本当に申し訳なかったと思ってるわ。」
奈緒もそう付け加えた。
「いやいや、いいよ!二人がこうして無事に会えたんだし。」
糸成はそう言って微笑んだ。その様子を見て美沙たちもニッコリ笑うと、最後にこう続けた。
「みんなにもお礼言っておいて!」
「え?“みんな”?“みんな”って?」
奏太は美沙のみんなという言葉に引っ掛かって思わず聞き返した。
「え?二人とも今日は男子みんなで来たんでしょ?だから二人をずっと借りちゃって申し訳ないっていう意味で…」
美沙がそう答えると奏太と糸成は思わず固まった。
「わ、忘れてた…!」
二人は美沙たちの手伝いに夢中で自分たちが男子メンバーで来ていた事をすっかり忘れてしまっていたのだった。
学と敦を待たせていたということを思い出した奏太と糸成は美沙たちと別れると慌てて先ほど場所取りをしたところに戻った。シートを片付けている最中だった。
「みんなごめん!」
二人が駆け寄って謝ると学が答えた。
「あっ!ふたりとも!よかった!戻ってこないから心配したよ!」
敦も苦笑いをして続けた。
「お前らずっと待ってたのに何してたんだ?もう花火終わっちゃっただろ!」
「ほんとごめん…ちょっと色々あってすっかりこっちのこと忘れてたんだ…」
糸成がそう言って謝ると横から大喜がニヤニヤしながら話しかけてきた。
「どうしたんだ二人とも〜!遅れるなんてらしくないじゃないか〜!」
「だっ大喜!お前いつ来たんだ?」
奏太が大喜を見て尋ねると学が答えた。
「ああ。さっき来たんだ。花火には間に合わなかったけどね…」
ー間に合わなかったのかよ…
「待ちくたびれたよ俺は〜!」
ーこいつにこれを言われる日が来るとは...
大喜に待ちくたびれたと言われて奏太と糸成はとてつもなくヘコんだ。
「まあでも何事もなくてよかったよ。もう遅いし片付けして帰ろう!」
敦はそう言うとゴミをまとめ始めた。
「そうだな!花火大会も終わっていよいよ明後日には全国に向けて移動だ!別々だったことはともかく、花火を見れたのはいい景気づけになったしこれから楽しみだな!」
こうして奏太たちは今後に向けて期待を高めると片付けを始めた。
その日の帰り道、みんなと別れた奏太と糸成は家に向かって歩いていた。
「結局お前はどうだったんだ?紺野さんとふたりで花火見て、なんか進展あったか?」
糸成が奏太に尋ねると奏太はため息をして答えた。
「そうだなあ最初は緊張で全然話せなかったけど紺野さんが出してくれた話題がすごく良くてそっからは盛り上がったな。今度は向こうに頼らず自分からちゃんと楽しい話題を提供できるようになりたいよ…」
奏太の後悔する様子を見て、糸成はニッコリと笑って答えた。
「まあでも長い時間話せただけ進歩じゃん。よかったな!これからゆっくり頑張っていけばいいよ、まだ部活は2年あるし」
「それで、そっちはどうだったんだ?」
糸成に慰められた奏太は静かにうなづいてから今度は糸成の方を尋ねた。
「えっ?こっち?俺のことは別にいいだろ。なんで?」
糸成が不思議そうに答えたのを見て奏太は慌てて付け加えた。
「あ、いやどんな話したのかなあって、ほら、結構長い時間一緒にいたんだろ?」
ー危ない、うっかり高城さんが糸成のこと好きだって本人にバラしちまうところだった
糸成は奏太の補足を聞いて意味を理解し、答えた。
「ああ、なんだそういうことか!それがさ、俺がお前と違って全然恋愛感情を抱いたことないからお前のことを無意識にひどいいじりかたしてないかって悩みを話したら俺に好きな人ができる手助けをするとかって言い出してよ!どう思う?そういうことって他人が手助けできるもんか?」
「えっ?あ、ああ、まあな、そうだな」
「あとはいきなりかき氷くれとか言ってくるし、男子の食べかけでも貰うとことかほんとかき氷好きなんだなとも思った。結構破天荒な奴かもしれないな」
糸成の話を聞いて驚いた奏太は思わず内容のない返事をした。
ーあいつもあいつで随分攻めたな…てかそれ全部ほぼ告白じゃ…?
「まああいつ恋バナ好きそうな顔してるからそういうの食いつくんだろうな」
そう言って呑気な顔をしている糸成を見て奏太は心の中で呆れた。
ーお前のことが好きなんだよ…
ーイトナリって俺が紺野さんのこと好きなの瞬時に見抜く洞察力と分析力を持ってる割に自分のことになると案外鈍感なのか?
奏太は糸成の意外な鈍さに呆れながら足を進めるのだった。




