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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第7章「西田花火大会」
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第41話「ふたつのカミングアウト」

 大きな花火が空中に開く中、奏太は美沙の横顔に注目し、話の意味を考えていた。

「こ、紺野さん、それってもしかして…」


 美沙は空を見ていて、花火の光が消えた頃に奏太の方を向くと、言った。

「ごめん、これ内緒なんだけど私ったらついばらしちゃった…今言ったことは忘れて!ナオに謝らなくちゃいけないなあ」

 美沙は頭に手を当てて申し訳なさそうな顔をした。

「え、あ、うん分かった、誰にもばらさないようにするよ!…それにしても驚いたよ、()()さんがイトナリのこと好きなんて。少なくとも本人は絶対気付いてないな。」

「“高木”よ大橋くん。それじゃ先輩の名前になっちゃうわ。」

 美沙は呆れた顔で奏太の間違いを指摘した。



 その後で美沙は改めて空を見上げると呟いた。

「…ねえ!今日の花火は二人で見ない?」


「えっ?」


 美沙の意外に大胆な言葉に奏太は思わず驚いた。


「あっ、もちろん変な意味じゃないよ!私の個人的な思いだから本人たちや大橋くんがどう思うか分からないけど私、ナオに春日くんと二人で花火を見させてあげたいの!ナオ、ああ見えて不器用だからこういうきっかけがあった方がいいと私は思うの!」

 美沙はそう言って奏太の顔を見た。

「あ、でもナオに連絡する手段がないし、ナオの気持ちを知らない春日くんに連絡するのは不審がられるかしら…」

 美沙はそう言って考えこんだ。その様子を見ていた奏太は、理由はどうであれ好きな人からの突然の誘いに慌てながら答えた。

「う、うん。あいつ分析屋だからやたら色々推理しそうだし、下手するとばれるかもしれないなあ。」



 しかし何かに気付いて、ちょっと考えてから切り出した。

「…いや。俺に、怪しまれないで済む考えがある!」

「本当!?」

 美沙は目を輝かせて奏太の顔を見た。

「ああ、ちょっとイトナリに電話してくるから待っててくれないか?」

 奏太はそう言うと糸成に電話するため、少しその場を離れた。

「分かった!こちらこそごめんね付き合わせちゃって!」

 美沙も奏太にお礼を言った。




 少し時を遡り、奈緒と一緒に居る糸成は奏太に連絡をした後、奏太たちの居る場所に向かって歩いていた。

「ねえ糸成くん。」

 奈緒が歩きながら尋ねた。

「えっ?」

 糸成も歩きながら返事をした。

「糸成くんは花火大会にはいつも奏太くんと来てるの?」

「えっ?そうだよ。高木さんは?そっちもいつも紺野さんと一緒?」

 糸成はそう答えると逆に同じ質問を返した。これはもちろん奈緒の質問に対する受け答えという意味もあるが奏太のために美沙のことを少しさぐっているという点もある。(最初の奈緒の質問も無論糸成に対する探りである)

「そうだよ。私達も幼なじみだからずっと一緒に来てるかな。ミサとはとっても長い付き合いだから。」

「そっか、良かった。」

 糸成はそう答えた。

「えっ?“よかった”?」

 奈緒は糸成の反応を少し不審がった。

「ああ、紺野さんモテそうだからさ。彼氏の影とかありそうだなって思って念のため確認をしたんだ。」

 糸成の返事を聞いて奈緒は立ち止まった。同時に一発目の花火が鳴ったが、奈緒は気付いていない様子だった。

「ん?どうした?」

 糸成は奈緒がついて来ないことを疑問に思って振り返った。そして自分の話を思い出して慌てた。

「あ、しまった!いくら本人じゃないとはいえ、これは失礼だったな。ごめん撤回する!」

 糸成は慌てて発言を訂正したが、奈緒の表情は元には戻らなかった。

「…いやそうじゃなくて!好きなの?」

 奈緒はそう言って慌てて糸成に食いついた。

「あ、いやそうじゃなくて…」

 糸成は弁解しようとしたが、奈緒は止まらなかった。

ーしまった、高木さんいかにも恋バナ好きって顔してるしこういうのすごい食いついてくるな。これはさすがにバラさないと収集つかないか…?いやでも勝手に言うのはソウタに悪いし。それかいっそ俺が紺野さんのこと好きってことにするか…いやでもそっちの方がむしろ後々厄介だ…どうすれば…!

 奈緒に追求されながら糸成は必死に策を考えていた。(奈緒が糸成のことを好きな以上一番地雷な選択肢もあるが、本人はそんなことは夢にも思っていない)




 糸成が失言を奈緒から追及されていると、電話が鳴った。

「あ、ごめん奏太から電話だ!ちょっと待ってて」

 糸成はそう言うと携帯をつけて電話に出た。

「あ、ちょ」

 話が終わっていない奈緒は止めようとしたが、間に合わなかったので頬を膨らませて不満そうな顔で電話が終わるのを待つことにした。

「どうした?ソウタ」

 糸成はナイスなタイミングでの電話に少しほっとして用件を尋ねた。そして奏太からの用件を黙って聞き、驚いた顔で何やらやりとりをした後、電話を切ると、奈緒の方を見て言った。

「悪い、高木さん。紺野さんには黙ってて欲しいんだけど、ソウタは紺野さんのことが好きなんだ。」


「へ?」



 急すぎる、しかも奏太本人ではなく糸成からのカミングアウトに奈緒は驚きが隠せなかった。

「イトナリくん、突然どうしてそんなことを私に?今の電話で何を言われたの?」

 混乱する奈緒の様子を見て、糸成も少し困惑した様子で電話のことを話した。

「今ソウタから電話があって、高木さんに自分が紺野さんのこと好きだってばらしていいから、もうしばらくは別で行動したいって言われたんだ。俺はいいけど二人がどう思うか分からないと思ったんだが、なぜかそれは大丈夫だって言い張るもんで。高木さんには悪いが、俺もあいつのことは応援しているもんでもう少しこのまま行動してもいいかな?」

 もうしばらく一緒に行動できる、自分にとっても夢のような話に奈緒は思わず顔が綻びそうになったが、堪えて尋ねた。

「え、じゃあさっき私にミサの探りを入れてきたのはソウタくんのため?」

「そうなんだ。あいつ不器用だからさ、今回の件はだいぶ大胆だが悪いけど高木さんも応援してやってくれないかな…」

 糸成はそう言って奈緒の方を見た。奈緒は静かに微笑んで答えた。

「うん!分かった!じゃあせっかく会えたんだし、もうしばらく一緒に行動しよ!」

 こうして奏太達はそれぞれ2人ずつ別々に行動することになった。何気にこの状況を一番喜んでいたのは奏太ではなく奈緒で、ここは奏太と美沙の思惑通りになった。



 電話を終えた奏太は美沙のところに戻ると、糸成からOKをもらえたことを説明した。

「えーすごい!なんて説明したの?」

 美沙は奏太が糸成に奈緒が糸成のことが好きであるということを説明せずに別行動をとれたことに少し驚きを感じていたが、奏太は自分が美沙のことが好きだと説明した、などと言えるはずもなく、なんとか適当に誤魔化した。

ーおかげで高木さんに俺が紺野さんを好きだってばらすことになっちゃったが、まあ仕方ない!それよりこっちもこっちでこの状況を楽しむんだ!またとないチャンスだ。

 奏太はこうして美沙との花火鑑賞を楽しむ決心をしたが、さっきあれほど二人での会話に苦労していたことを忘れていた。

 空ではすでにアナウンスと共にたくさんの花火が咲き誇り、花火大会も盛り上がりを見せていた。



 ・

 ・

 ・



 その頃、学と敦は相変わらず奏太達を待っていた。

「あいつらマジで何やってんだろうな」

「大喜くんも来ないしねー」

「あ、いたなそんなやつ…」

 大喜は当たり前のようにまだ到着していなかった。

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