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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第7章「西田花火大会」
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第38話「地域の夏一番のイベント」

 その後のマンドリン部の活動は目まぐるしく感じられた。


 1年生は3年生にバレないよう三送会の練習と準備、2年生は全国大会の曲を練習しながら三送会の準備と1年生の指導、3年生は補講や受験勉強と並行しながら全国大会の練習といった形でそれぞれとても忙しい状況だった。



 そして7月22日金曜日。この日は終業式だった。翌日から始まる夏休みに各自期待を膨らませていた。以前の勉強会が幸いしたのか、奏太は無事に赤点を回避することができた。この日は3年生の補講もなく午前で放課となったため、練習は昼から行われた。そのため、1年生はこの日はずっと自主練とパート練がメインだった。全国大会まで1週間を切り、大会の準備が優先されるのは当たり前なので特に気にする者はいなかった。



 翌日7月23日以降は3年生の補講が再開し、午前中が三送会の準備及び練習、午後が全国に向けた練習という形ではっきり分けて部活が実施された。

 そして部活終わり、全国大会が近づくにつれて部活後も自主練をしてから帰る生徒が増えていたが、この日はほとんどの生徒が部活終わりと同時に楽器を片付けた。そう、7月23日は地域の夏の大きなイベントである西田花火大会が開催される日なのだ。




 2022年7月23日土曜日、地域の夏最大の花火大会ということもあり、この日はマンドリン部の生徒のほとんどが部活終わりと同時に帰宅した。この日は天候も良好でいい花火日和であった。

 夏休みに入って以降は部活の終わり時間が16時になり、19時から開始する花火大会まで準備時間は十分にある。これなら準備に時間をかけても花火に遅れないというわけだ。 (誰かさんは遅れそう)先生もそのことはよく理解しているのでこの日の合奏は気を利かせて延長せず定時で部活を終わらせてくれた。普段は全国大会の練習に真面目に取り組んでいた3年生や2年生もこの日ばかりは羽を伸ばすのだろう。

 奏太たちはマンドリン部1年男子で約束をしており、会場周辺のコンビニで待ち合わせた。幼なじみである奏太と糸成は家の方向も同じなのであらかじめ合流し、一緒に集合場所へと向かった。

「なんだよ〜勉強会から結構時間あったのにお前結局紺野さん誘わなかったのかよ〜!上手くいけば好かれたかもしれないのに〜!」

 奏太が密かに紺野に好意を抱いていることを知っている糸成は早速奏太をいじった。


「馬鹿向こうも()()さんと一緒に行くって言ってたろ!」

「…“高木”さんな。」

 いつまで経っても名前を間違える奏太に対し糸成は呆れて指摘した。

「それにしてもダイキ集合時間にちゃんと来るかなあ?あいつの遅刻癖半端ないし。」

 大喜のことを心配する奏太に対し、糸成は笑って答えた。

「大丈夫。そうなると思ってあいつだけ集合時間30分前にしておいたから。」

「そっか、それなら安心だ!」

 糸成の用意周到な準備に奏太はクスリと笑った。




 待ち合わせの18時に奏太と糸成が待ち合わせ場所のコンビニに着くと、既に敦と学が来ていた。

「あれ?ダイキはまだ?」

「ああ。俺らが来たときにはまだ来てなかったぜ。」

(時間ズラしてもダメなのか…)

 完璧な遅刻対策をしたつもりだった糸成は大喜の遅刻癖の筋金入りように呆れるばかりだった。

「まあ仕方ないよ。いつものことだしね。それより花火開始まで1時間あるし、先に会場で場所取りと売店巡りしない?ダイキくんにはそこに来て貰えばいいし。」

「そうだな。時間ももったいないし。先に川原に向かうか!」

 学の提案によって一同は先に花火大会の会場に向かうことになった。



「うわー予想はしてたけどすごい人!こりゃ気合い入れて場所取りしないといい場所見つからないぞ!」

 花火大会会場に着くと既に多くの人で賑わっていた。場所の大半が既に取られてしまっており、奏太たちは慌てて空いている場所を探し回った。

「あれ?1年男子ズじゃないか!」

 場所を探してウロウロしていると後ろから誰かが話しかけてきた。振り返るとそこにいたのはマンドリン部の2年生だった。




 「あー!益田先輩!先輩たちも今日はいらっしゃってたんですね!」

 話しかけてきた益田に対し、ギターパートの後輩にあたる糸成が挨拶をした。他のメンバーも会釈した。

「2年生の皆さんは全員できたんですね!」

「そうよ!私たちの代は人数も少ないからね〜!その分仲がいいのよ!」

「こんにちは中川先輩!復帰したてでどうかと心配してましたがもう馴染めてるようで安心しました。」

 奏太の言う通り、2年生は最近復帰を果たした中川を含め6人全員が来ていた。

「なっ、お前に心配されると悔しいな、来いと言うから来てやっただけだ!ほら、サトシとか男子一人でかわいそうだろ!それでだ!」

「その割に今日は一番に来て場所取りしてくれてたけどね。別に頼んでたわけでもないのに気が効くよね〜。」

 慌てて誤魔化した中川を見て山口はニヤリと笑って言った。

「馬鹿!それを言うなって!」

 一番楽しみにしていたことを山口にバラされて中川は顔を赤くした。


「“全員”と言えばそっちは男子全員じゃないんだね。ほら、ダイキくんがいないじゃん!…あ、そっか!」


「…は、花火の打ち上げ開始までには間に合うといいね…」

 和田が大喜の不在に気づいて指摘したが、すぐに理由を察し、苦笑いして黙ってしまった。

「はい、むしろ終了に間に合うか不安です…」

 糸成も呆れた表情で答えた。




「それにしても先輩方がいらしててちょっと安心しました。先輩方最近すごく大会の練習で根を詰められていたのでこうした息抜きもちゃんとされてるって知ってホッとしたと言うか…」

 敦がニッコリ笑って言うと水島が答えた。

「そりゃあね〜練習も全力でやってるけどやっぱり年に一回のお祭りだもん!私たちはもちろん受験生の3年生も今日だけは羽を伸ばしてるのよ!」

「あ!3年生も来てるんですね!」

 3年生と聞いて奏太は笑って反応した。

「それで、僕たち場所を探してるんですがどこかいい場所知りませんか?」

 続けて学が2年生に場所について尋ねた。

「そうね、このあたりはまだそんな人も多くないし場所は結構空いてるはずよ。それにどうしても見つからなかったらここで私たちと見ればいいわ。」

 山口が静かに答えた。

「わかりました!ありがとうございます!」

 奏太たちは威勢よくお礼を言うと、場所を探して周囲を歩くことにした。




 しばらく歩き、奏太たちは無事花火を見る場所を取ることができた。奏太と糸成はシートを敷くなどして花火を見る環境を整えると座り込んで空を見上げた。

「あーもうすぐ打ち上げだな」

「ああ。あいつら早く戻ってこないかな〜俺早くフランクフルト買いに行きたいぜ!」

 奏太は屋台の方を見つめて物欲しそうな顔で呟いた。

「はははお前昔っから祭りに来ると必ずフランクフルト食べてたもんな。」

 学と敦は奏太たちがシートを敷いて準備をしている間に先に屋台に向かい、買い物を進めている。混雑で必要以上に並ぶことを避ける意図から場所を準備し、荷物を見る役と買い出しに行く役の二手に分けたのだ。奏太と糸成はこの時間は留守番の担当だったので準備を終えると暇になってしまったのだ。

「それにしてもダイキ来ねぇなあ。このままだと花火始まっちゃうぜ。」

 奏太は大喜のことを思い浮かべてため息をついた。

「そうだな。場所とか連絡したけど返信がないよ。いつものこととはいえここまでくると流石に心配するよ。」

 糸成も不安そうに携帯を見つめた。

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