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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第7章「西田花火大会」
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第37話「3年生と2年生」

 学生正指揮者が中川に決まった次の日の17時30分の全体連絡時に早速中川の件について説明があった。

 説明は山崎先生と2年生次期部長の水島、そして中川本人の3人で行った。


 山崎先生が2年生の学生正指揮者が中川になったというこを発表し、水島が話し合いの経緯を説明し、中川が主に自分を知らない1年生に向けた自己紹介と挨拶を行うという流れだった。特に中川が以前部活に所属しており、今回の加入は復帰という形であるということ、中川は手の怪我をしており楽器の演奏は困難であるということ、それゆえに全国大会までは指揮の練習や準備に専念すること。大会後も指揮を専門として楽器を演奏するパートには所属しない措置を取る点については事情を知らない1年生のために細かく説明された。中川の復帰をこの時初めて知った1年生と3年生は今回の決定に対して概ね賛成で特に3年生は心配していた2年生たちの今回のまとまりを喜んでいた。


 中でも最も今回の決定を喜んだのは小野だった。彼女は以前中川に演奏の指導をする際に姿勢や基礎をうまく教えることができず、彼の手の怪我の原因を自分が作ってしまったと悔やんでいる節があったため、退部を含め、彼のことはとても心配していた。その様子を知っていた高橋も同じような反応で、奏太のことを褒めてくれた。

 いずれにせよ、こうしてマンドリン部は一人の頼もしい仲間を取り戻し、次なる全国大会に向けての舵を切ることになったのだ。




 中川が部活に復帰したことを発表した日の帰りも奏太と糸成は一緒に歩いて帰った。

「ありがとなイトナリ、俺お前に言われなきゃ中川先輩を呼び戻して指揮者にするなんて思いつかなかったよ。もともとはお前がくれたアイデアだったのになんか俺の手柄みたいになっててちょっと複雑だけど…」

 奏太の言うように中川を呼び戻して学生正指揮者を頼むというアイデアはもともと糸成が冗談半分で言ったことだった。完全に自分のアイデアではないのに自分が褒められているという現状に対し、奏太は若干の疑問があった。

「いやいや全然気にしてないよ!俺は中川先輩のこと直接知らないし、話をつけたのはお前なんだからお前がなし遂げたことだと思うよ。」

 糸成は全然気にしていない様子でクスリと笑うと、今度は前を向いて続けた。

「そうだな、それより俺はあの剛田旋に認められた中川先輩の合奏指導がどんな感じになるのか今からちょっと楽しみだよ。今日見た印象では山下先輩ともまた違ったタイプだろうしね。」

「あーそうだね!個人指導はこないだちょっとしてもらったけどすごい知識とセンスで着いていくのに精一杯って感じで、今まで考えたこともなかったことをいろいろ考えさせられたよ。中川先輩はセンのことをライバル視して、“お前を超える”って宣言してからは会うたびに話したりして仲も良かったみたいだぜ。センも自分に初めてのライバルができたって言ってくれて知識量では勝ってたって言ってた。それだけに自分が腕を壊して楽器をやめてからは気まずかったらしいけど。」

 奏太は指揮者選出の後に中川と話し、そのときに上記のことを聞いていた。

「そっか、あの剛田旋の元ライバルか。それなら、お前は中川先輩の分も頑張んないとな、今はお前がライバルなんだろ?」

 奏太の話を聞いて糸成は微笑んだ。このとき糸成には、以前より旋がよく奏太と関わってくる理由が少し分かった気がした。

「ああ!センの上をいくんだ!まずはあいつにライバルって認めてもらうぜ!」

 奏太もそう言って気合いを入れ直した。




 次の日からの1、2年のパート練では相変わらず1人で1stと2ndの2パートを教えることに手こずっている和田を気遣って中川が2ndのパート練習を見ることになった。

「ごめんね中川くん、指揮の練習もあるのに…」

「いいって、元はといえば俺が部活やめたせいだし。指揮の練習の合間に2ndの練習を見ることくらいはできるよ。お前にも迷惑かけたしな…」

 中川の謝罪を聞いて和田は思わず涙ぐんで肩を叩いた。

「うえーんほんとだよ〜!あんたのせいで私がコンミスになって不安で死ぬほど練習してるんだから〜!!」

「うおっ!お前やめろって手怪我するだろうが!」

 和田に叩かれたところを押さえて中川は痛がって怒鳴った。 (和田は部内一の馬鹿力と有名で叩かれるとマジでタダでは済まない)

「どうせあんたが弱いんでしょ!壊し過ぎよ!」

ー中川先輩の手ってホントはこの人が壊したんじゃ…?

 喧嘩を始めた中川と和田を見てマンドリンパートの1年生たちは呆れた目で見つめるのだった。

「…とにかく今後は俺が2ndの面倒を見るからお前は安心して1stと全国に集中しろ!2ndのみんなも初対面で不安とかあると思うけど俺が来たからには大丈夫だ!知っての通り手がこんなんだから実際に弾いて見せたりとかはできなくて迷惑かけるかもしれないが工夫してやることにするんで安心してくれ!2年生抜きでもみんながちゃんと演奏できるようにしっかりサポートするよ。」

 中川はそう言って和田と2ndの1年生を安心させた。

「本人の言う通り任せて大丈夫なやつだから安心して着いていってね!」

 和田もそう言ってフォローしたので2ndの1年生たちはホッとして返事をした。




 こうして改めて中川の挨拶が終わったところで和田が色紙と布や紐などの小物を持ってきた。

「一気に話題変わるけど、大事なものを配ります!これは引退する3年生に送るプレゼントです!全国前に渡す“優勝祈願のお守り”と、三送会の時に渡す“色紙”です!1stと2nd合わせて6人分あります。こういうのは先輩がいると配れないから今渡しちゃいます!お守りは布と紐で作るから女の子の方が得意かな!でも去年私がやった時には破れちゃって全然先に進まなかったから苦手な人は遠慮せず言うこと!」

ーそんなことだろうと思った。

「そして色紙は各パートの1、2年生の人数分の枠を含めてそれぞれデザインしてもらって先輩がいないところでみんなで寄せ書きをします!寄せ書きは全国後でもいいからとにかくデザインが全国までに終わると助かるね!これをそれぞれ手分けしてやるので今から分担を決めます!」

「…それって俺も入る?」

 中川が質問をすると和田は少し怒って言った。

「そりゃそうよ!あんたも先輩にお世話んなったでしょ!」

「はい、冗談です。」

 和田の言葉を聞いて奏太は3年生の先輩たちの引退に改めて思いを馳せた。

ーそっか、3年生もうすぐ引退か…短い間だったけどすごくお世話になったな。

 奏太にとって全国大会は尊敬する先輩たちの活躍を見ることのできる非常に楽しみな行事だが、同時に3年生の先輩たちが引退を迎える場でもある。前々からわかっていたことではあったが、贈り物の話が出てきたことで奏太には改めて先輩の引退が現実味を帯びて感じられるのだった。

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