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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第1章「西田高校マンドリン部」
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第3話「コンマスとコンミス」

 しばらく経つと水島が二人を呼びに来た。

「お待たせ!二人とも!新歓の会場ができたよ!こっちに来て!」

ふたりは言われた通り廊下に出て右側の部屋に向かった。扉を開けると机が全て脇に追いやられ、椅子が向合わせに並べられていた。奥には演奏の準備だろうか、椅子が半円状に並べて置かれていた。

まず大きな黒板が目に入り、華やかな桜の絵と共に書かれていた文字を見て奏太は思わず呟いた。

「全国大会まであと110日…」

それを聞いて益田は

「…ああそれ、昨日のままだから今日は109日だね。100日が見えてきたな〜」

と言って黒板消しで直していた。

その様子を見て糸成はにやりとした。

「やっぱり一番のイベントなんですね全国大会」

「もっちろん!3年生はここで引退になるから一世一代の大勝負!みんなこの舞台で全力を出しきるの!」

水島の説明を聞いて奏太は首をかしげた。

「100日後に引退?3年生、受験もあるのにずいぶん長く活動する方なんですね」

「そうよ!全国大会が7月末だからこの学校でも一番長いの!一番長く青春するって考えたら魅力的でしょ?それに引退が遅いって言っても歴代の先輩たちには割といい大学に進学した人も多くいるみたいだから結局その人次第って感じ!私はこの前のテスト爆死したけど…益田なんか現代文4位だし!」

「おいおい勝手に言うなよ」

益田は照れくさそうに止めた。

「なるほど、結局自頭か…」

その話を聞いて奏太は引退の時期に納得した様子だった。


「さて!楽器体験と言いたいところなんだけど、まだ全パートのメンバーが来てないから先にもうちょっと話しよっか!ふたりは友達?」

水島は仕切り直すとふたりに質問した。

それを聞いて糸成が答えた。

「はい。僕たち小学校の頃からずっと一緒なんです。中学の時も卓球部で一緒でここでもクラス一緒だったんで割とよく行動してます」

糸成が話し終わらないうちに奏太が割り込む。

「俺 大橋奏太って言います!さっきも言ったようにこの春日糸成はギターやってたみたいなんですが俺は音楽は一度もやったことないんですよ。初心者でもできますかね?」

それを聞いて水島はウインクした。

「全然大丈夫だよ!マンドリン部はほぼ全員初心者で始めるの!音楽もピアノや吹奏楽をやってた人が一定数いるけどそれ以外はソウタくんと同じように初めてって感じ!私はピアノやってたけどマンドラは初めてだったよ!」

益田先輩もうなずいた。

「俺はバンドやってたからエレキギターを弾いてたけどクラシックギターは初めてだったな」

「うんうん!始めて1年で全国入賞レベルまで持っていけるところがこの部活のすごいところなんだよ!」

水島が笑顔で部の魅力を説明していると部屋の入り口に何人か現れた。

「おっ新入生早いね!体験始める?」

振り返るとそれぞれが大小様々楽器を手に持った先輩たちが立っていた。

「あーみんな!」

水島が目を輝かせた。

「他のみんなが呼び込みに行ってるからボチボチくる頃だよ!楽器体験はじめよ!」

マンドリンを持った先輩が言った。

水島はうんとうなずくとふたりを見てあらたまって言った。

「大橋くん!春日くん!説明することはまだまだいっぱいあるけど、楽器を弾いてみないと分からないこともいっぱいあるの!とにかくマンドリン部にようこそ!」

こうしてマンドリン部の新歓が始まった。




 しばらくするとマンドリン部に体験に来る1年生が増えてきた。周りを見渡してみても15人近くいるのではないだろうか。男女比は1対4と言ったところで圧倒的に女子が多かった。

奏太と糸成はマンドリンの体験をしていた。内容としては主にピックの持ち方、弦の弾き方、ドレミの位置などで体験ということもあって比較的早めに内容が進んだ。教えるのはマンドリン部3年の小野真琴(おのまこと)だ。

「わあ春日くん上達早いねえ!」

「そうですか?ありがとうございます!」

糸成は照れくさそうに笑った。

横で見ていた先輩、ポニーテールがトレードマークの3年、石原由衣(いしはらゆい)が呟いた。

「やっぱりギターの経験あるって大きいわね〜、でも大橋くんも音楽初心者としてはすごく上達早い方だよ!私はこんな早くなかったなあ〜!うちのコンミスが教えるの上手いのもあるかもね〜」

この人もマンドリンの先輩らしい。

「ギターとはやっぱりフレットの幅が全然違うので慣れるのに時間がかかりそうですがピックの使い方は割とうまくいきそうです!ところでコンミスって何ですか?」

糸成が確認すると小野が説明してくれた。

「マンドリンパートは同じ楽器を使ってるんだけど1stパートと2ndパートに分かれるの!1stは高い音域でメロディを弾くことが多くて2ndはハモリとか低い音域でのメロディが得意なの!コンミスっていうのは1stのパートリーダーのことよ!指揮者に次いで合奏の責任者みたいな役割があってみんなをまとめていくの!」

奏太が呟いた。

「そんなすごい方だったなんて!俺はまだ全然弾けてないけど…教えていただけて光栄です!」

「ええっ!そんな!高校の部活のコンミスなんてそんなすごいことじゃないよ〜!でもメンバー全員と合奏を作っていく感覚が人一倍味わえる役だからすごくやりがいあるかな!とっても楽しいよ!」

最初はマンドリンについて何も知らず、今回の体験もどっちかというと友達付き合いで来ていた奏太だったが演奏の柱となって合奏を作っていくという“コンミス”という存在はすごくかっこよく聞こえてこの時にはマンドリン合奏に対する興味が湧いてきていた。

「かっこいいですね…俺もいつかコンミスになってみてぇ…!」

ボソッと呟いた奏太に対して石原は思わず笑って返した。

「あはは男の子だったら『()()サート()()ター』だから“()()()()”だよ!()()()()っていうのは『()()サート()()トレス』の略なの!でも1年生の時からコンマス狙いなんてやる気があって期待しちゃうな!この様子じゃ小野もすぐ追い越されちゃうね」

「えっそうなんですか!じゃコンマスで!」

それを聞いて奏太は思わず照れ気味に流した。


 周りの新入生たちもそれぞれ自分の興味のある楽器をやって先輩たちからおおよそマンツーマンで教わっていた。

ここで小野先輩が糸成に聞いた。

「春日くんはギターパートになる気はないの?」

糸成は笑顔で答えた。

「せっかく始めるのでどうせなら新しい楽器に挑戦してみたいと思いまして!それにギターも趣味でやってる程度なので」

「そうなんだ!でも1stに来てくれたら嬉しいな」

ここで石原が割り込む。

「2ndパートも美味しいよ〜!1stをどうやって引き立てるか工夫しながら演奏して自分たちが目立つところではめちゃくちゃ主張する!そんなメリハリのある演奏ができるの!ぜひおいでよ!」

「石原先輩は2ndパートなんですか」

小野が説明する。

「そうよ!由衣は2ndのパートリーダーなの!私の演奏をよく理解してうまい感じでハモってくれるの!私たちのチームワークは最高よ!」

それを聞いて奏太は糸成に言った。

「俺がコンマスやってイトナリが2ndのパートリーダーってのよくね?小学校から一緒の俺らならきっと最高のコンビネーションにできるぜ」

「それいいな!これからいっぱい練習しなきゃな!お前は楽譜も読めるようにならんといかんもんな、上達遅かったらコンマスは僕がもらうよ」

糸成も乗り気でニヤニヤと笑いながら言った。

「う…」

奏太はそれを聞いて笑いながら頭を抱えた。彼は音楽未経験なので当然楽譜は読めない。

「二人とも本当に仲良しだね」

先輩たちも微笑んだ。

 ここで扉が開いて外で呼び込みをしていた先輩が新入生を連れて入ってきた。

「おーい!どっか空いてるパート!このコ体験させてあげてくれ!」

思わず振り返った奏太と糸成は驚いて思わず叫んだ。

「紺野さん!?」

そう、先輩に連れられて入ってきたのは二人と同じく1年3組の紺野美沙だった。

「おーお手柄だね〜!じゃコンミス一人で2人見れてて私今あいてるから私やるよ〜おいで〜!」

石原が手をあげて合図をすると美沙はうなずいて石原の方に向かった。

 まじか!奏太は急に緊張してきた。まさか気になっている相手が同じマンドリン部に体験に来るなんて。そして自分の横で楽器体験を行うなんて。近くの糸成も最初はびっくりしていたが今はただ笑いを堪えるのに必死だった。

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