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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第6章「次の学生指揮者」
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第30話「2年生の問題」

 奏太と大喜が中に入って椅子に座ると水島は苦笑いして話し始めた。

「2年生の話し合いなんてちょっとかっこ悪いとこ聞かれちゃったな」

「ごめんなさい」

「あはは謝らなくて良いのよ!ここの壁薄いから私もよく先輩の話し合いとか盗み聞きしてたし!」

 話を聞いて益田が突っ込む。

「お前が盗み聞きできたのは主にカズキ先輩の声が大きいからだろ」

「あはっ分かった?」

 益田の指摘を受けて水島は苦笑いをした。

「そ、そうなんですか?」

 水島の言葉を聞いて奏太がキョトンとして尋ねると水島はニヤリと笑って答えた。

「うん!私はバレなかったけどね!!」

「うっ…」

 ここで大喜が口を開いた。

「あの、何の話をしてたのか俺にはさっぱり…」

 それを聞いて奏太は必死に言った。

「お前のせいだぞ!お前がいつもみたいに遅刻してこなければ!」

「???なぜか怒られた。」

「…まあ別に良いけど…怒られずに済んだから許す。」

「あそう?よくわかんないけどありがと!」

 奏太に許された意味がわからない大喜だったが、とりあえず話を合わせた。

「あはは!なるほどそういうことだったの!」

 永野は二人のやり取りを聞きながらようやく流れを理解すると大喜のために改めて状況を説明した。

「今2年生で次の学生正指揮者を決めてるのよ!それがちょっと揉めててね、それをトレくんに聞かれちゃったのよ。」

「あっそうでしたか、ソウタごめん!」

「いいって」

 大喜はようやく状況を理解すると奏太に謝った。

「…さて、」

 状況確認が済んだところで水島が仕切り直した。

「聞かれちゃったからにはしょうがない!その代わり君たちにも意見してもらおうかな!どう?ぶっちゃけなんかいい方法ない?」

「えっ僕らに…?」

 突然意見を求められ、二人は思わず聞き返した。



 突然指揮者に関する意見を求められ、驚いて立ち尽くしていた奏太たちを見て水島は思わず笑い出した。

「あはは本気にしちゃった?冗談だよ〜!これは2年生の問題だからさ!1年生に迷惑はかけないよ!心配させてごめんね!」

 そんな水島の様子を見て山口は胸をなで下ろした。

「びっくりした、サキコのことだから本当に彼らに意見言わせるつもりだったのかと思ったよ」

「えーそんなことしないよ〜!ちょっとからかっちゃった!ごめんね!」

 水島はニヤニヤ笑いながらそう言った。それを受けて奏太はホッとして答えた。

「いえいえ、俺たちも覗き見してすみませんでした。」

「って俺は見てないけどな」

 大喜は奏太の言葉を訂正した。

「それよりあなたたち音楽室で勉強会でしょ?そろそろ戻った方がいいんじゃない?」

 奏太たちの様子を見ていて山口が静かに言った。

「あっ、そうでした!」

 もはや勉強会のことなど忘れていた二人はそれを聞いてそのことを思い出すと、2年生にもう一度謝ると、慌てて音楽室に向かった。



 奏太と大喜が音楽室に戻ると遅すぎると糸成や奈緒に怒られたが、ふたりは部室で見たことは黙っておくことにし、再び勉強を再開した。それ以降奏太は勉強に集中しようと考えを改めて望んだが、先ほど見た部室の2年生の様子が時々頭にちらつくのだった。

ー山下先輩の後任か…

改めて今の3年の学年正指揮者の山下のことを思い出し、それで残りの2年生ひとりひとりのことを思い浮かべていた。

ー1stの和田先輩は…コンミスがあるから無理だって言ってたし、Dolaの水島先輩も部長だから無理だって、Celloのなが…先輩とBassのや…先輩はそもそもパートの人数が少ないって言っててGuitarのます…先輩が有力候補、誰がやるにしてもポピュラーソングや小曲でのパートのメンバーは1年生だけになる…簡単に選べる問題じゃないんだな。1年生は誰が指揮者になっても大丈夫なように全パート先輩たちを支えられるような力をつけておかないといけないな…

奏太は学の説明を聞きながらそんなことを考えていた。こうして糸成の企画した勉強会は奏太にとって少しもやもやした時間として終わった。



 17時30分、夕方で日も沈みかけた頃奏太たちは勉強会を終えて、それぞれ荷物をまとめていた。ここで美沙が口を開いた。

「ところでちょっと先の話だけどみんなは今年花火大会行く?」

 美沙の意外な質問を受けて奏太は思わず繰り返した。

「え?花火?」

 敦も意外そうな表情で聞き返した。

「西田花火大会か〜全国大会と被らないっけ?」

「うん。全国大会は25日移動だから大丈夫だと思うよ。移動前日もなんかあるかもしれないけど23日はいけるはず!」

「あーそっか!まいったな…」

 美沙の説明を受けて敦はなぜか頭を抱えた。

「え?」

「いや、前に誘われた時大会だから無理って言っちゃったもんで…」

 美沙が不思議がって聞くと敦はそう答えた。

「もしかして彼女ですか?」

 糸成が面白がって尋ねると敦は慌てて否定した。

「いや前も言っただろ違うって!向こうが勝手に近づいてくるだけで!」

「はいはい」

 敦の否定を見て糸成はニヤニヤしながらなだめると花火の話題に戻った。

「紺野さんは花火行くの?」

「うん!ナオと約束してるよ」

「えっ?約束?したっけ?今初めて聞いた気がするよ?い、いいけど!」

「今したの!」

 美沙はそう言って奈緒にウインクした。その様子を見て糸成はニヤニヤしながら奏太に耳打ちした。

「喜べ!どうやらまだ男はいないみたいだぜ。この際誘っちゃえよ」

「うるさい!」

 奏太は糸成に言われて顔を赤くして怒った。


「じゃあ俺らは男子チームでいこっか!」

 糸成はそう言って周りを見渡した。

「そうだな!先輩たちの大会前に景気づけになりそうだ!きれいな花火見とけばいいこと起こりそうだしな!」

「お前ははやく朝起きれるようになれよ。」

 乗り気な大喜を見て敦はツッコミを入れると糸成を見て話を続けた。

「今回は俺も参加していいか?文化祭の時は混ざれなかったから!」

「もちろん!」

 そんな敦の言葉を聞いて糸成は今度は特にいじったりせずにっこり笑って快諾した。

「よかった!大会前でデリケートになるかもしれない時期だから他に花火大会行く人いないか不安だったんだ!」

 糸成が男子をまとめ始めたのを見て美沙はホッとした。

「ははは。心配しなくてもきっと大丈夫だよ!年に1回のことだし先輩たちも行くんじゃないかな?」

 学が笑いながらフォローした。続けて糸成がニヤニヤしながら呟いた。

「そうそう!何組か突き止められるかもしれないチャンスだしな!今から楽しみだ…」

「突き止める?」

「あっ、いやなんでもない!」

 糸成の言葉に疑問を持った奈緒に対し糸成は慌ててゲス顔をやめて誤魔化した。

 このようにこの日の勉強会は最後に各々が花火大会の約束をして終わった。

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