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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第6章「次の学生指揮者」
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第28話「思わぬ落とし穴」

 文化祭が終わり振替休日の月曜日が過ぎた6月14日火曜日、マンドリン部は文化祭での演奏や動きの反省会を行い、この日を境に期末テスト明けまでの期間部活動の休み期間となる。

 反省会が終わると奏太は部室に行き楽器を取り出した。その様子を見て高橋が言った。

「おっ明日からテスト期間なのに練習とは頑張るねえ!」

 奏太はニッコリと笑って答えた。

「はい!せっかくやる気出てきたのに休んでる暇なんてありませんよ!」


 ここで糸成が入ってきた。

「ソウター帰らんの?…あれ?練習?」

 糸成は椅子に座って楽器を構えようとしていた奏太を見て尋ねた。

「ああ!テスト期間なんて関係ねぇ!逆にこの期間全力で練習して先に進むくらいの気持ちなんだ俺!」

 楽しそうに話す奏太を見て糸成は静かに言った。

「確かに中間テストの前もお前結構自主練してたもんな。…しかしそんなんで大丈夫か?」

「大丈夫って?」

 奏太の問いかけに糸成は淡々と続けた。

「そりゃあ成績だよ。もしもこの学期末の成績表で赤点とったら全国大会の遠征着いていくことできないんだぜ?」


「えっ?」




 奏太には糸成の説明の意味が一瞬全く分からなかった。

「どういうこと?」

 糸成の説明を聞いて露骨に凍りつく奏太を見て高橋が話に入った。

「なんだお前、前に先生が言ってたの聞いてなかったのか。成績表の点数は10段階評価なんだが、“1”をとると赤点になって単位が出ないんだ。で、単位を出して貰う条件が夏休みの補講を受けて再テストで一定の点取ることなんだ。マンドリン部の全国大会遠征はちょうどこの補講期間に被るから赤点をとった生徒は全国大会にいくことができないんだ。特に演奏に参加する2、3年生は全体に影響するから絶対に赤点取るなって先生は繰り返し言ってたぞ。」

 高橋の話を聞きながら、奏太の顔色はだんだん変わってきた。

「まあでも赤点なんてそう滅多には取らないから大丈夫だろ。期間中3回の定期テストで3回とも平均点の半分以下を割った教科があると危ないって聞いたことあるが…」

 いよいよ奏太は何も話さなくなった。


 その様子を見て高橋はびっくりして聞いた。

「えまさかお前やばい?」

 横で見ていた糸成が頭を抱えながら補足した。

「あーこいつ人の名前覚えるの下手じゃないですか、だから昔から特に社会がめちゃくちゃ苦手なんですよ。俺も点数知りませんがもしかしたらヤバイかも…」

 西田高校では入学してすぐに1度目の試験があり、中学時までの学習状況と春休みの課題の理解度をチェックする。そして5月終盤に初の本格的な高校範囲でのテスト、中間試験がある。奏太もこれを受けたのだが、残念ながら社会 (1年時なので現代社会になる)は全て平均の半分を割ってしまっていたのだ。つまり、奏太は次のテストで少なくとも平均の半分以上の点を取らなくては全国大会の遠征に行くことができないのだ。

「イトナリどうしよう!俺このままだと全国着いていけない!先輩たちの最後の演奏なのに!」

「うーん...」

 奏太が慌てて糸成に言うと糸成は少し考えてから奏太の顔を見て言った。

「わかったソウタ、俺に考えがある!」

 糸成はニヤリと笑うとウインクした。




 次の日の放課後、奏太が帰ろうとしたところを糸成が呼び止めた。

「ソウタ!昨日話したことだが、今から勉強会をやろう!」

 奏太は思わず首を傾げた。

「勉強会?」

「ああ!昨日あの後マナブに聞いたらいいって言ってくれたからダイキとダンも巻き込んで1年男子で勉強会を企画したんだ。今から音楽室行くからお前もこいよ!」

「マナブに…?」

 学だけ大喜・敦と別で説明したことを不思議がる奏太を見て、糸成は説明を付け加えた。

「お前は覚えてないだろうけどマナブ入学式で新入生の代表挨拶してた受験主席合格者なんだ。これまでの2回のテストも全教科合計点余裕で全校1位。アイツめちゃくちゃ頭いいんだよ!お前に現社教えてやってくれって頼んだら快諾してくれたから音楽室で放課後勉強会することにしたんだ!」

 その説明を聞いて奏太はホッとして微笑むと返した。

「そうだったのか。さすが糸成!ありがとう!」

 糸成は少し呆れながら答えた。

「お礼なら赤点回避してから俺じゃなくてマナブにしろよ。じゃあ早速行くぞ!」

 こうして二人は音楽室に向かった。

 音楽室の前に着くとすでに電気がついていた。

「おっもう誰か来てるな!」

 二人は電気に気付いた。


 奏太は中に入るとそこにいた人を見て呟いた。

「おー!マナブ!…それと、えっ?紺野さん?」

 そこには学とそのほかに紺野美沙、さらに高木奈緒がいた。




 奏太は男子での勉強会と聞いていたのでその場に美沙と奈緒がいる状況をすぐには理解できなかった。

「ちょっと!私のことは無視!?」

 自分のことを呼ばなかった奏太に奈緒は腹を立てた。

「あーごめん()()さんちょっとタンマ。」

「“高木”!」

 奏太は相変わらず奈緒の名前を間違えると音楽室の外に出てコソコソと理由を尋ねた。

「おいイトナリどういうことだよ!さっき男子での勉強会って言ったじゃん!別に女子が来るのは悪いなんて言わないけど紺野さんはまずいって!せっかく集中する気になったのにこんなの絶対集中できないよ!」

「俺もそう思ったんだが…」

 奏太は美沙のことが好きなので確かに彼女がいると勉強に集中できなくなりうる。それを聞いた糸成は困った顔をして学に勉強会の誘いをした時のことを説明をした。




____(回想)______________________________


『マナブ!ちょっといいか?』

 糸成は部室で奏太と話した後廊下で帰る準備をしていた学を見つけて呼んだ。廊下には他にも何人かが帰る準備をしていた。

『どうしたの?』

 糸成に呼ばれた学は振り返って返事をした。糸成は学に駆け寄ると勉強会のことを話した。

『マナブ、しばらくテスト休みで部活ないと思うんだけどソウタが現社ヤバくてさ、このまま行くと赤点取りそうなんだ。それで悪いんだけどソウタに勉強教えてやってくれないかな?なんかそれも含めて勉強会をしようかと思って!ほぼ俺らが教わる感じになっちゃうかもしれないけど』

 学は話を聞いて快く承諾した。

『もちろんいいよ!いつやる?』

『早い方がいいと思うしとりあえず明日、一回やろうかと思ってる!状況によっては…』


『糸成くん!』

『え?』

 糸成が学に話をしている途中で横で帰りの支度をしていた奈緒が話に入ってきた。

『私たちも参加してもいいかなあ?“アイツ”と違ってさすがに赤点ってことはないけど成績いい方じゃないからさ!学くんには悪いけど教えてくれたら嬉しいな!ねっミサ!』

『うん!私も参加したいな!』

 横にいた美沙も微笑んでお願いした。

『うん!僕はいいよ!』

 学はニッコリ笑って答えた。

 糸成は美沙の参加と聞いて奏太のことを少し思い浮かべたがさすがにその状況でダメとは言えず、返事をした。

『う、うん!いいよ!この後ダイキとダンも誘うから増えるかもしれないけど、みんなで教え合って高得点目指そう!』



____(回想おわり)__________________________





「…って感じなんだ。」

「なるほど…」

 糸成の説明を聞いて奏太は状況を理解した。そして改めて決意を新たにすると糸成にこそこそと宣言した。

「わかった!大丈夫だ!浮わついた考えは捨てて頑張って勉強に励む!紺野さんがいるからって惑わされてるようじゃ高得点なんて取れない!」

 そしてニヤリと笑った。

「ああ、絶対成績あげよう!」

 糸成も微笑んだ。

「ねー二人とも何こそこそ話してんの〜?」

 こっそり話している二人を不思議がって後ろから奈緒が話しかけてきたが、二人はバレないように平静を装った。

「いや、なんでもない!大丈夫だよ!な、なあ!」

「う、うん!そ、それよりまだダイキとダンが来てないけど始めようぜ!」

ーなに“大丈夫”って…

 二人のよそよそしい態度に奈緒は少し疑問を抱いた。

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