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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第5章「西田高校文化祭2022」
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第26話「演奏を楽しむ」

 音楽室の前にいた中川と旋は奏太たちの方を見た。

「あれ?センくん!それに雅典くんまで!どうして!?」

 奏太たちと共にいた山下は意味を理解しておらず少し慌てた様子だった。

「ほら中川さん!さっきああだったんですから挨拶しないと!」

 反応を見ていた旋は中川に肘を当てながら言った。

 そんな二人の様子を見ながら奏太は聞いた。

「中川先輩!今の演奏見ていただけました?もしかして僕にマンドリン教えてくれる気になりましたか?」

 中川はしばらく黙ってから静かに話した。

「…聴かせてもらったよ。1回目の本番とは随分変わったようだったが、どういう意味だったんだ?」

「さすがですね。やっぱり下手だったんでバレてたんですね。2回目の演奏では意識して先輩の指揮を見るようにしたんです。…その結果手元が甘くなってミスってしまいましたが」

 奏太は悔しげな表情を見せた。その様子を見て中川は納得のいかない顔をして聞いた。

「ミスると分かっていて指揮を…?どうしてそんなことを?」

「先輩の指揮で弾けるのが最後だったからです!」

「…奏太くん」

 奏太はハッキリと答えた。その様子を見て山下は感動した。奏太は山下にウインクして続けた。

「先輩に最後の演奏を少しでも楽しんで欲しかったし、僕自身も演奏を楽しみたかったんです!ミスっても先輩の指揮の雰囲気をしっかり見て楽しみたかったんです!」

「“楽しむ”…?」

 中川は意外そうな顔をした。ここで小野が話に入った。

「中川くん!あなたは前から完璧主義だった!ピアノでコンクールとか出てるから音楽に本気なのは分かるしいいことだけど、うちの部活は確かに全国上位目指して本気でやる時もあるけど、でも!私はもっとあなたに部活を楽しんで欲しかったの!今の山下や奏太くんみたいに、私たちみたいに部活でみんなで練習する楽しさを味わって欲しかった!お願い!もう一度部活に戻ってきて!手怪我してるから他の人みたいにとはいかないかもしれないけど奏太くんに教えてあげるでもいい!もう一度マンドリン部で“音楽”を楽しんで欲しいの!」

 横にいた和田も付け加えた。

「私からもお願い!中川くん、入部した頃と全く違う。今は抜けがらみたいで前のような熱意が全くない、どう見ても今の状況に納得していないように見える!もう一度私たちと部活やり直そうよ!」

 二人の熱心な訴えを受けて中川は静かに考え込んだ。

「小野先輩…」

 横で見ていた旋も静かに微笑むと中川にまた肘を当てた。

「ほら、先輩!」

 中川は旋に急かされ、もう一度一同の顔を見た。そして最後に改めて小野、そして奏太の顔を見ると口を開いた。

「…仕方ない、“ソウタ”だっけ?こいつを越えたいんだろ?ほんとに俺でいいなら協力してやるよ!」

 中川の承諾に奏太は笑顔で返事をした。

「えっほんとですか!?ありがとうございます!よろしくお願いします!」

 横で見ていた旋はニヤリとして呟いた。

「僕も望むところです。待ってますよ“二人とも”!」


 奏太の希望を承諾した中川の様子に一同は一気に明るくなった。しかしここで中川が言葉を付け加えた。

「でも、部活には戻りません。」

「えっ!?」

 それを聞いて小野たちは驚いた。

「俺はあくまで個人的にこいつに音楽を教えます。部員としてではなく。自分から一方的に退部した僕にはもう役割も居場所もないですから」

 中川はうつむきながらそう言った。その様子を見て小野と和田はガッカリした。

「ちぇ、みんなそんなに気にしてないのに…」

 横で見ていた旋も下をむいてぼそりと呟いた。

「…()()()厳しいですね」

 中川はその後奏太の方を見て続けた。

「…そんなことない、自分で納得してるさ。それより俺はこいつの言う“演奏を楽しむ”ってやつに少し興味があるだけさ。」

 中川は少し俯きながらそう呟いた。旋には中川がまるで自分に言い聞かせているように見えた。中川は少し黙ってから改めて顔をあげると奏太の方を見て話を始めた。

「日程については俺の都合にしたがってもらう。テスト明けの部活休みの放課後に週1でちょっとだけ行う。確か水曜が部活休みだったな、そこでやる。」

 それを聞いて奏太はニッコリと笑って返事をした。

「はい!わかりました!」



 奏太たちが話をしていると体育館から高橋が帰ってきた。

「おっみんな!おつかれさん!」

 高橋は旋や中川にも気づき、なんとなく状況を察したようだったが、特に触れずに音楽室に入ると最後に顔を出して思い出したように一言だけ言った。

「そうだ、話が終わったら中来いよ!軽く全体で連絡あるから!」

 それを聞いて小野が静かにアイコンタクトすると高橋は満足げに笑って中に入っていった。

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