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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第1章「西田高校マンドリン部」
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第2話「マンドリン部の先輩たち」

 県立西田高校には主に校舎が2つある。南校舎と北校舎だ。その北校舎のさらに北側にもう一つこじんまりとした建物があり、そこは音楽室になっている。音楽室の扉の前に二人の少年がやってきた。

「ここか音楽室」

糸成は期待を高めて呟いた。奏太は不審に思って確認した。

「本当にここか?なんか汚いし楽器の音なんてしないぜ、全国出てるような部活なら空き時間なんて狂ったように練習してるに違いないと思ったんだけど」

確かに楽器の音などしない。建物も黒っぽい汚れがついておりお世辞にもいい練習場所とは言えない。全国大会御用達の部活動がこんなところでこんなところで活動してるとは奏太には思えなかった。

「ここだとしたら何か問題ある?」

後ろから知らない声がして二人は思わず振り返った。そこにはショートヘアの活発そうな女の人が立っていた。

「強くても弱くても部室はみんな汚いって相場で決まってるのよ!きみたち新入生?もしかして見学に来てくれたの?」

「は、はい!汚いなんて言ってすみませんでした!俺たち見学に来て…」

上級生と気づいて慌てて謝まった奏太を見てその先輩は目を輝かせて自己紹介をした。

「本当に!?こんなに早く見学に来てくれるなんて嬉しい!私はマンドリン部2年ドラパートの水島咲子(みずしまさきこ)!よろしくね!」

「どら?」

ふたりは「ドラ」という初めて聞く単語に首を傾げた。

「あ…そっか!今から説明するからほら入って入って!」

初対面の水島に背中を押されてふたりは建物の中に入った。中に入ると左手に小さい部屋が二つあり、一番奥が広い部屋になっていた。

「んーほんとは奥の部屋なんだけどまだ部屋の準備整ってないから先に部室で説明するね!もともとは入部しないと入れない部屋だけど特別!2つ目の部屋!」

先輩に押されて部室に入ると足元にケースに包まれた大きなコントラバスが現れた。周りをぐるっと見渡すと楽器ケースがたくさん置かれていた。

「すごいですねこの楽器の数!」

糸成は思わず息をのんだ。

「それに…」

「ああ 思ってた以上に散らかってるでしょ?」

部屋の中を見ながら呟いた糸成を見て察したのか水島は先に説明を始めた。

「楽譜や弦、使い終わったピックにお面にアクセサリー、あとは飲みかけのペットボトル、教科書や上履きを置いてる人もいるの なんていうか生活感出ちゃってるよねー」

「それで入部しないと入れないんですね」

糸成は少し呆れた様子だった。まあでも高校の部室なんてみんなこんな感じなのかもしれない。

奏太が

「お面やアクセサリーって何に使うんですか」

と尋ねると水島はクスッと笑うと答えた。

「もちろん演奏で使うの!ポップスを演奏するときにはパフォーマンスとして魅せるからなんとなく楽しい雰囲気になりそうなやつを選んで身につけてるよ!」

それを聞いてふたりは納得した。教科書やペットボトルがある理由については聞かないことにした。


 「さて」

話がひと段落すると水島はケースの中から一つを取り出すと開けながら説明を始めた。

「ほんとは体験しながらするんだけどまだ会場ができてないから先に話からしちゃうね。まずは楽器の種類の話をするね!まずこれがマンドリン!」

先輩がケースから取り出した楽器は赤ん坊のように優しく抱えることができる大きさでイチジクのような形をしていた。

「弦が8本あって2本ずつ組み合わせになってるの!それでこのピックで弾いて音を出すんだよ!」

先輩は実際にピックで弾いて見せた。キラキラとした可愛らしい音色が響いた。

「これがマンドリン…」

奏太は初めて見るマンドリンを物珍しそうに見た。想像以上に優しい音色に少し時間を忘れた。

水島はぽかんと楽器を見つめる二人を見て微笑むとマンドリンを丁寧にケースにしまってから少し大きいケースを取り出した。ケースの中からは一見先ほどのマンドリンと同じ姿の楽器が現れた。ただ、大きさが一回り大きい。

「詳しい弾き方は後で教えるから先に楽器だけ全部紹介しちゃうね!このちょっとマンドリンより大きいのがマンドラ!さっき言った「ドラ」ってこれのこと!マンドリンより1オクターブ低い音が出るの!」

水島がマンドラを弾くと確かに先ほどより低い音が鳴った。初めて聞く音だが親近感が湧く懐かしい音色だと思った。

「私の楽器だからこの子私に一番あってるの!」

水島はドラをしまうと次のケースを下ろした。ケースの中からはドラよりさらに大きい楽器が出てきた。

「でこの大きいのがマンドチェロ!ドラよりさらに低い音が出るの!この3種類の楽器で音域が違うから合奏の音にも幅が出るんだよ!チェロはドラと音が違うから私はうまく弾けないけど…」

それでも水島はチェロも弾いてくれた。楽器の違いを感じるには十分だった。

「いろんな楽器があって面白いですね!合奏してるところも聞いてみたいです!」

糸成は楽器に興味津々だった。奏太もよく話を聞いていた。


 「おっサッキーもう新入生きてるのか」

初めて聞く声がした。振り返ると一見体育会系に見える男の先輩が立っていた。

「あー!益田!いいとこにきた!ちょうどギターの説明をするところだったの!二人とも!この人がギターパート2年の益田智(ますださとし)!」

そのやりとりを聞いて奏太が食いついた。

「ギター?マンドリン部ってギターもあるんですか?こいつ昔ギターやってたんですけど」

糸成は親の影響もあって趣味でギターをかじったことがあった。

「そうなの!?じゃあ経験者だ!すごーい!期待大だね〜!そうそう!ギターパートは合奏を支えてくれる重要なパートだよ!弾き方もマンドリン系と違うから音楽に彩りを加えてくれるの!」

「経験者と言ってもちょっとやったことある程度なので」

糸成は照れていたのか少し謙遜した。

「それよりマンドリン系の楽器以外ってギターの他に何があるんですか?」

水島は入るときにみたコントラバスの方を見た。

「あとはベース!コントラバスが入って低音を奏でてくれるよ!勝手にケース開けると怒られちゃうから後で担当の人が来てから弾いてもらおうね!」

ここで益田が口を挟んだ。

「サッキー、会場の設営ってまだやってないの?」

「あ、ごめーん!他の部員が来たらみんなで準備しようと思ってた!ふたりが割と早く来ちゃってたから先に説明してたの!二人とも掃除終わるの早いね〜すごいよ!」

「新学期始まったばっかでまだそんな汚れてなかったので」

奏太と糸成は掃除は割と適当にやってほぼ雑談していただけだったが余計なことは言わず話を合わせておくことにした。

「ごめんね私たち今から会場の準備をするから少し待っててもらえる?メンバーが揃ったら楽器体験とミニコンサートもやるから!いくよ益田!」

水島はそういうと益田と部屋を出て会場の準備に向かった。

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