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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第5章「西田高校文化祭2022」
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第22話「初めての本番」

 文化祭の演奏用ステージは体育館の中に特設で作られている。前の部活のパフォーマンスが終わり部長が文化祭実行委員からインタビューを受けている間に次の団体の部員が道具を素早く持って入り準備する。マンドリン部の準備が終わったところで一旦はけ、裏で楽器を持って準備して出番を待つ。

 少し時間があるのでここで小野がパートのメンバーを集めて話を始めた。

「みんな!いよいよ本番だよ!2、3年生は今まで通り!1年生は初めてのステージで緊張すると思うけど最初の演奏だし自分の練習した曲を楽しんで弾いてね!」

 小野はここで奏太の方を向いて付け加えた。

「奏太くんも吹っ切れたみたいだね!いい顔してるよ!」

「…気付いてましたか。」

 奏太はさっきまで自信を失っていたことを見抜かれて少し赤くなった。

「俺は今できることをやるだけです!」

「うんうん!」

 小野はニッコリと笑って頷いた。



 ここで高橋が全体に声をかけた。

「さて、もう出番が目前だ。ここでみんなでちょっと円陣を組んどこうぜ!」

「あ!いーね!やる気出るし!」

 小野や石原も同調した。


「ここだとお客さんに聞こえますけどいいんでしょうか?」

 糸成が周りを気にして尋ねるとギター3年の浦田紗耶がニッコリ笑って手を差し出しながら答えた。

「大丈夫だよ!みんな気にしないから!どの部活もやってるしうちも演奏の前はほぼ必ずやるよ!」

「そっか…!それじゃ!」

 糸成は安心して答えると差し出された浦田の手をとった。


 周りが手を組んでるのを見て奈緒は

「ひあ…!そっか円陣…じゃこっちも手取らないとね!」

 と少し慌てると隣にいた奏太と和田の手をとった。奏太も答えた。

「おう。じゃ失礼 ()()!」

「円陣組む仲間の名前くらいええ加減覚えろ!!」

 そんな二人の様子を見て和田はクスクスと笑い、高木の手を握った。

「い、痛い痛い痛い!!せ、先輩力強すぎ…!!!」

「あー!!ごめん!」

 和田は慌てて手を離すと謝りながら繋ぎ直した。その様子を見て三河は和田をからかった。

「こらこら演奏前の演奏者の手を壊さないのゴリラちゃん。」

「ちょ先輩…大丈夫ですからこっちも繋ぎましょうよ。」

 三河は奈緒の反対側の和田の隣だったが手を繋いでなかった。

「加減してよ。私去年の円陣の後全く演奏できなかったんだから」

「さすがにそれは言い過ぎじゃないすか…」

「ははは」

 全員の準備が整うと高橋が音頭をとった。

「さて!じゃいよいよ午前の本番!これまでの練習の成果を出して頑張りましょう。」

「演奏絶対成功させるぞ!!!」

「おー!!」

 高橋の声と全員の叫びがその場にはっきりと轟いた。そしてその後すぐに実行委員のアナウンスが入った。

「さあ今聞こえた円陣は全国大会出場も決まっているあの部活!果たしてどんな演奏をしてくれるのでしょうか?呼んでみましょう全国大会の常連、西田高校の強豪部、マンドリン部です!!」

 会場からお客さんたちの拍手が鳴り響いた。いよいよ入場だ。



 「ふうっ着いた!」

 ちょうどマンドリン部のステージが始まる頃、体育館の入り口に郷園高校の旋がついた。

「えっとステージは…あっちだな!」

 旋は人だかりができているのを確認し、そちらに向かった。すると椅子が用意された状態で入場を待っている段階だった。

「…よかった間に合った!」

 旋はホッとすると周りを見回して空いている席を探して歩き回った。

「おい、ここ空いてるよ!」

 思ったより席が空いておらず、歩き回る旋を見て一人の男子生徒が自分の横の席を指差して言った。

「あっありがとうございます!…ってあなたは!」





 文化祭実行委員のアナウンスが終わり、拍手が鳴り響いた。係員の合図を受けてギターパートリーダーの出水は静かにうなずくと部員全員に合図し、入場を始めた。奏太たち1年生も深呼吸をし入場した。会場に入ると照明の明かりが眩しく、一瞬目がくらんだがそのおかげでか、お客さんがハッキリと見えなくなっていたので少し緊張がほぐれた。

 全員が入場を済ませると、小野がチューニングを始めたのをきっかけに全員がチューナーの電源を入れ、各自調弦を始めた。

 客席で見ていた旋は時間をかけてチューニングしている奏太を見て呟いた。

「そういや俺あいつの演奏聞くの始めてだ。」

 それを見て隣に座っている男子生徒は少し驚いて尋ねた。

「…珍しいな。お前が他の同年代奏者を気に掛けるなんて」

 それを聞いて旋はニヤリと笑って返した。

「そうですね…あなた以来です。」

「おいやめろ俺はもう…」

 旋の返しを受けてその男子生徒は少し鬱陶しそうに返した。


「あなたも見たらきっと興味持つと思いますよ。あいつは面白い奴ですから」

「…どうだか」

 旋の言葉を聞いて男子生徒は鼻を鳴らした。



 全員のチューニングが終わったことを確認すると小野は全体をもう一度見て合図を出した。そしてクラブソングの演奏が始まった。クラブソングは1年生にとって必修で、今後も長く弾いていく曲となるのでしっかりと練習しており、うまく演奏することができた。

 クラブソングが終わるとお客さんの拍手が起こった。その間に高橋と山下が出てきてお辞儀をしてから司会を始めた。司会の内容は真面目なトークとは程遠く、もはや漫才となっており、高橋のテンションがリハーサルの時と全く異なりすごくテンション高めで話が進んだので練習の時から見ていた部員や相方の山下ですら笑いをこらえることができず、会場全体が大爆笑した。




 その後も曲の演奏と司会が交互に折り込まれてステージが進行し、1年生もそれぞれ自分の練習した曲を精一杯演奏した。

「…なんとか弾き切った…」

 全曲練習した奏太も健闘し、リハーサルの時よりもリラックスして全体に食らいつくことができた。

 全ての演奏を終えた部員たちは大きな拍手に包まれながら楽器を持って舞台裏に退場した。客席で見ていた旋も満足げな表情を浮かべた。

「うん。頑張ってたね!あいつまさか全曲練習してたなんて!やっぱり見所のある奴だ!」

「…トレモロは荒いしまだアーティキュレーションもめちゃくちゃだけど、根性はあるみたいだな」

 隣の男子生徒もボソッと呟いた。

「そうでしょう!俺今から挨拶行ってくるんで一緒に来てください!」

「え、あ、いや俺は!」

 気の乗らなそうなその男子生徒の手を引っぱって旋は走り出した。

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