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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第5章「西田高校文化祭2022」
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第21話「模擬店巡り」

 6月12日、文化祭2日目は一般公開日だ。学校を開放し、模擬店や文化部の作品展示などをしており、ステージで時間を区切って文化部の演奏・パフォーマンスがある。マンドリン部の演奏は午前と午後の2回、11時30分からと15時00分からそれぞれ30分ずつとなっている。奏太たちはマンドリン部男子で模擬店巡りをしていた。

「リハーサル何時からだっけ?」

 奏太が尋ねると大喜が答えた。

「確か11時だったよ」

「違う!10時45分だよ!そんなこと言ってると遅刻するよ!」

「あっそうか!てへへ、すまん!」

 学は相変わらず集合時間を間違えている大喜に慌てて指摘した。


「そういえばダンは?」

 糸成が周りを見渡して尋ねた。その場には男子5人のうち4人で敦だけ姿が見えなかった。

「あー、敦ならさっき女子に連れられて模擬店巡りしてたぜ」

 奏太が答えた。

「なんだリア充か。さすがイケメン。彼女かな?」

「わかんないけど女子からは名前覚えられてなかったみたいだぜ、“アツシ”って呼ばれてた。」

「…お前がいうなよ」

 学は時計を確認した。

「今10時20分だけどどうする?もうちょい模擬店回る?」

「俺アイス食べたい!」

 奏太がまだ完食していないフランクフルトを片手に手をあげた。

「じゃ並んでると時間かかるし早いとこ行ってこようぜ」

 糸成はそう言うと自分の食べた物を袋に詰めて歩き始めた。その様子を見ていた大喜は糸成の方を見て言った。

「じゃあ俺唐揚げ食べたいから唐揚げ屋行くよ。後で合流しよう」

「アイスのあと唐揚げ屋寄ってやるからついてこい!!」

「…はい」

 大喜の遅刻癖を心配し糸成が慌てて突っ込むと大喜は恥ずかしそうに苦笑いした。




 奏太たちがアイス屋に着くと少し並んでいた。

「おーやっぱ少し混んでるな。5分くらいは待つかも」

 糸成が見て呟いた。そこで奏太たちは列の最後尾に着いて自分の順番を待つことにした。

「あれ?みんなもアイス買いに来たの?」

 聞き覚えのある声がしてそちらを見ると列の前方に小野と高橋がいた。

「先輩!」

「おっ1年男子ズだな!やっぱ同期男子が多いっていいな〜!っと思ったら一人足りないな!“イケメン”がいないのか。」

 高橋が奏太たちの様子を見ながら言った。

「はい!あいつは今のろけてます!」

「あはは!いいな!さすがにモテそうだもんなあいつは!」

 奏太がニヤニヤ笑いながら敦がいないことを簡単に説明すると高橋は笑いながら言った。


「カズキ!私たちの番きたよ!」

 奏太たちと話している高橋を見て小野が列の最前列で呼びかけてきた。

「それより、お二人の方こそ、もしかして…」

 奏太が二人を見てニヤけながら聞くと高橋はやすやすと答えた。

「ああ、違う違う!部長とコンミスで文化祭の実行委員さんと今日の演奏について打ち合わせした帰りだから一緒にいるだけで別に深い意味はないよ。」

「ええ。仕事の帰りだからこのチャラ男と一緒にいるの!」

 小野もさっぱりと即答した。

「なっ、俺はチャラ男じゃなくてパリピだって!」

(どっちでもいい)

 小野と高橋はアイスを買うと、列に並んでいる奏太たちを見てこう言った。

「じゃあ俺らはさっきの打ち合わせをふまえて最終確認をするから先戻るわ、“ガリ”遅刻すんなよ!」

「お、俺だけ!?ちょっと勘弁してくださいよ!」

「ははは!」

 こうして大喜をいじり、二人は一足先に部室に向かった。



 結局アイスを買うのに時間がかかったので唐揚げ屋には寄る時間がなかった。奏太たちは大喜を説得し、音楽室に向かうことにした。音楽室に戻ると既に何人か戻ってきており、それぞれ買ったものを食べながら話をするなどをしていた。

「あ!みんなお帰り!」

 美沙と奈緒も既に戻っており、奏太たちに挨拶をしてくれた。奏太も赤面するのを我慢しながら手を振ると美沙の手を見て尋ねた。

「あれ?紺野さんそれもしかして唐揚げ?」

 美沙はニッコリと笑って答えた。

「うんそうだよ!今買ってきたの。美味しいよ!」

ー唐揚げにしとけばよかった!!!

 それを聞いて奏太は悔しがった。



 しばらくすると外から高橋と小野が帰ってきて全体に指示を出した。

「みんなお待たせ。いよいよ午前の演奏直前!今からリハーサル始めるぞ!」

 進行表を確認しながら説明をしている高橋を見て糸成は少し疑問を持った。

ーん?今、外から?

 小野もマンドリンを持ってチューニングを始めた。奏太たちも言われた通り座席に座り楽器の準備を始めた。リハーサルでは入退場や司会進行を含め、本番の通りに練習する。司会は部長の高橋と正指揮者の山下が担当する。リハーサルの時点で緊張していたため、奏太は思ったように指が回らなかった。


 リハーサルが終わるとすぐにステージへの移動が始まり、もう最後の練習や確認はできない。最後の最後に思ったように弾くことができなかった奏太は移動中に少し落ち込んでしまった。

「駄目だ、思ったように弾けねえ…もう本番なのに!」

 その様子を見て高橋が声をかけた。

「今から本番なのに、なんて顔してんだ!」

「高橋先輩…」

 奏太は高橋の顔を見るとため息をついて話を続けた。

「俺、さっきのリハーサルで全く弾けなかったんです。今まで練習では危なっかしくはあったけど着いて行くことはできてもう少しマシだったのに…自分のワガママで大きな口叩いて全曲練習したくせにこれじゃ逆に迷惑かけちゃいます…」

 その様子を見て高橋はクスッと笑った。

「なんだ、お前らしくないな!最初の本番なんて上手くいかなくて普通くらいに思ってていいさ。誰も迷惑なんて思っちゃいないよ!今日までお前はよく頑張った!」

「それに…」


「俺はお前と一緒に演奏できて良かったと思ってるよ」

 高橋はそう言って奏太の方を見た。

「先輩…」


「まあとにかくあんまり気にすることはないさ!何せまだ本番終わってないんだからな。とにかく俺らと演奏できる最後の舞台なんだ。残念だったなんて言わせないぜ!」

 高橋はそういうと奏太の方を叩いて微笑むと舞台の方に向かって歩いて行った。

ー“俺らしくない”か…

 奏太は自分の楽器を静かな目で見つめると気合いを入れ直し、ステージの方に向かって力強く歩き出した。

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