第12話「最初の練習」
次の月曜日、早速1年生の練習が始まった。
「今は部長が山崎先生と話してて不在なので副部長の私が司会するわね。」
部活がはじまる時には全員が一度音楽室に集まって、練習場所やその日の連絡を確認する。この日は部長の高橋が遅れて来るという事で副部長を務めている3年生の三吉佐世が進行をした。メガネをかけており、おかっぱ頭で部内でも真面目と評判の先輩だ。Dolaのパートリーダーも兼任している。
「えーと来てないのは部長だけ?上級生はあと全員いるみたいだけど、1年生はどうかな?」
1年生はそれを聞くと周りをよく見渡して一人が答えた。
「浅田大喜くんがいません!」
(また…)
彼は土曜日の楽器決めの際も遅刻していた。この日は授業の後の部活なので寝坊ということはないが、どうやら遅刻癖があるようだ。
三吉は確認を済ませるとこの日の練習について説明した。説明は時間割とパート練習の際の各パートの練習場所の説明が主だった。練習場所はパートごと一部屋ずつ割り振られており、練習の日ごとにローテーションしている。
説明が終わって解散するとパートリーダーが自分のパートの1年生を集めて練習場所まで案内した。1年生はそれぞれ自分が使う楽器の予備楽器を取ってそれぞれ着いて行った。
「えっまたピッキングから始めるんですか!?」
1stのパート練習、奏太は小野から受けたその日の練習メニューの説明を受けて驚いた。
「そうよ。奏太くんはずっと体験に来てくれていたからすでに基礎結構進んでるんだけどまだあまりやってない子もいるし、何より体験の時にやったのはせっかくの体験で退屈しないように組んだ特別メニュー!20分で「カエルの歌」の輪唱なんて本入部後の練習じゃありえないわ!実際はじっくり時間をかけて練習していくの!今日は姿勢からピッキングまで!」
「えええ!!」
奏太は体験ですでにやった練習をもう一度やることになって少し不満そうだった。この部活では新入生入部直後の指導はパート練習の間に2、3年の中から1人が時間を決めてローテーションで行う。この日は初日ということでパートリーダーの小野が担当だ。他のメンバーは全国大会の曲を練習する。1年生と指導担当はその邪魔にならないよう教室の後ろで逆を向いて行う。
小野は正しい姿勢、ピックの持ち方を教えてくれた。楽しむことをメインに添えていた体験の時の指導よりも丁寧で、見様見真似でやっていた奏太はかなり直された。
「姿勢は大事よ。一歩間違えば手の怪我にもつながっちゃうの。弾けなくなっちゃうと嫌でしょ、面倒かもしれないけどここはしっかりやっておきたいの。」
姿勢にこだわる小野を見て何かを感じたのか、奏太は改めてちゃんとやる決意をした。
その後、チューニングの説明を受け、自分でそれぞれチューニングを行った。ここの説明は体験では省略されていたので初めて聞く内容だった。
「マンドリンは複弦って言ってね、同じ音の弦が2本ずつ張ってあるの、だからその二つの弦の音に狂いがないようにぴったり合わせないと気持ち悪い音になっちゃうの。もちろんチューナー使って合わせるけど同じ音の2本を調整するとき最後は耳でやるからみんなもある程度の音感をつけなくちゃいけないのよ。最初は耳ができてないから難しいけど何回も調弦して慣れることが必要よ。1年生の中だと、カナちゃんが音楽経験者だったよね?」
1stになった1年三池花奈はうなずいた。
「はい。中学までフルートやってました。」
それを聞いて小野はうんうんとうなずいて続けた。
「じゃあ他のみんなは音感がある程度ついてくるまでしばらくはチューニングしたら先輩かカナちゃんに確認してもらうことにしよっか!いい演奏でもチューニングずれてたら台無しだから時間をかけて耳鍛えていこっ!」
こうして1stのパート練習が始まった。
18時になってその日の練習の終わりの会の時、開始の会の時にはいなかった高橋が司会をするなりとあるチラシを持って全体に向けて説明を始めた。
「さっき先生から連絡があって郷園中学高校マンドリン部の定演の招待券が送られて来たからいける人で行きませんかって言われたんだけどみんな予定空いてるかな?次の日曜日!」
「郷園…」
学が呟いた。
「あの学校にもマンドリン部あるんだな。」
奏太も言った。郷園中学高等学校とは市内にある私立のエリート進学校で西田高校から私鉄で二駅ほどのところにある。
横で小野が二人に言った。
「私たちと違って中学校から部活やってるから実力もあって大会での成績もいいよ。…そうは言っても、負けたくないけどね!見応えがあるから時間が空いてるなら絶対行ったほうがいいよ!それに…」
小野は一息ためてから続けた。
「特に奏太くんは見たらやる気出るかもよ?」
その日の帰り、奏太は一緒に帰りながら糸成に尋ねた。
「お前は郷園見にいく?」
糸成は
「もちろん。お前もいくだろ?」
そう即答し逆に尋ねた。奏太はそれを聞いて空を見上げながら言った。
「いくよ。他の学校のしかも演奏会の演奏って興味あるし。…何より、小野先輩に言われたことが気になる。」
答えを受けて糸成はニヤニヤしながら返した。
「よし!先輩が行ける人みんなで行くって言ってたしそれに着いてこう!紺野さんもいくみたいだし…!」
「…なんだよそれ!もちろん着いていくけど!…別に紺野さんがくるから行くわけじゃねーからな!」
奏太は照れながら返した。
「ふふふ。もちろん分かってるよ。先輩に連絡しとくよ!」
こうして二人はいつも通りのやりとりをしながら帰った。




