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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第2章「波乱のパート決め」
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第11話「1stと2nd」

 その頃音楽室ではマンドリンの振り分けが続いていた。マンドリン希望の男子トリオ、奏太、学、敦の3人は全員1st希望だった。

「じゃあマンドリン希望者8人のうち、1st希望者が6人、2nd志望者が2人。1stの枠が5人だから申し訳ないけど1人だけ移ってもらうことに…」

 小野はやはり申し訳なさそうに1stを志望した6人を見て言った。


 ここで2ndの石原が口を挟んだ。

「えっと話止めてごめんね。すでに2ndに決まった2人って音楽経験ある?」

 それを聞いて2ndに決まった二人はキョトンとして首を横に振った。

「あ!そっか」

 小野も何かに気づいた。石原はうなずくと続けた。

「そうなの。2ndは2年生がいないから私たちが引退したら1年生が中心になるの。だから後のことを考えると音楽経験者が1人でもいてくれた方が」

 そう。今の西田高校マンドリン部の2年生は5人。全6パートに対し、ひとパートが空いてしまう。それが2ndパートなのだ。

「じゃあ僕が2ndやります。」

 話を聞いて返事をしたのは学だった。

「今まで言ってなかったですが僕昔ピアノやってました。最近はほとんど弾いてませんが音楽の基礎は分かってるつもりです。奏太くんがマンドリン一緒に頑張ろうって言ってくれたのが嬉しくて、それとダンくんと3人で男同士、一緒に1stにしようと思ってましたがそう言うことなら皆さんのお役に立ちたい。2ndやりたいです。」

「本当にいいの!?ありがとう!」

 石原が喜んでお礼を言った。学も恥ずかしそうだったが満足げな表情をしていた。

「マナブ!本当によかったのか?」

 奏太が心配して聞いた。

「…うん。奏太くんが一緒にやろうって言ってくれて僕嬉しかった。2ndでも一緒に合奏できる。みんなや奏太くんの役に立てたんなら嬉しい。」

「そっか。ありがとう。よろしくな!」

 穏やかな表情で答える学に奏太は安心してお礼を言うのだった。

 こうして1stパート5人が確定、2ndの4人のうち3人が決定した。


 1年生が全員決まると1stパートリーダーの小野は

「じゃあパートが全員決まったから部長に連絡しに行ってくるね。終わったら改めてパート内でもう一回自己紹介しよう。」

 と言うと音楽室の外になっているBassのところに行った。

 音楽室の外では3年の高橋と2年の山口(やまぐち)杏実(あみ)が、特に会話せずにそれぞれコントラバスを練習していた。

「あれ?カズキ、Bassの1年生は?」

 それを聞くと高橋は弾くのをやめて悔しそうな表情で振り返った。

「それが誰も希望してくれなかったんだよ〜!他のパート、つってもギターだけど枠からもれた人が来るのを待つしかないんだ。くっそー悔しいから決まったら頑張って教えてこの部活で1番楽しんでる1年生にしてやる!」

 それを聞くと小野は微笑んで答えた。

「そうだね!Bassパートは全学年1人ずつだからマンツーマンで丁寧に教えられるしね。カズキ面倒見いいし!…でも、こっちなんて今から“コンミス”狙ってるやる気ある子もいるの!負けないわよ!」

「“コンミス”かあ!望むところだ!」

 それを聞いて高橋もニヤリと笑った。




 あと決まっていないパートで超過しているのはGuitarパートのみ。話は難航するように思えたが、先輩たちの説得もあって何とか人が動き、全パートが決まった。糸成と大喜は希望通りGuitarパートに決まった。時間は12時を過ぎていたがパートごとの親睦を深めたいというメンバーの希望もあって13時までパートごと簡単な歓迎会をやり、自由解散という形になった。1stと2ndの会は同じマンドリンパートということで一緒に行った。音楽室で円状になって座って、もう一度軽く自己紹介をした。

「ねえ奏太くんて私と同じクラス、1年3組だよね?」

 敦、学と話していた奏太の近くに座っていた1stの新入生が声をかけてきた。

「おう、誰だっけ…」

「学校始まって2週間も経つのにまだ名前覚えられてないとは…私は高木奈緒!同じパートなんだから覚えてよね!」

 高木奈緒、そう、昨日の部活前、紺野美沙と話していた女の子だ。奏太はその時も糸成から名前を聞いていたのだがまた忘れた。

「あそっか!思い出した!イトナリから聞いたのに忘れてた、ごめんごめん!確か紺野さんと仲良い人だよね。よろしく!!…えと、」

 奏太は奈緒が気を悪くしないよう誠意を持って謝り、最後に名前を続けようとしたがまた忘れた。

「嘘でしょ!ミサのことは覚えてるのに私のことはこの短時間で忘れるなんて」

 名前を3度も忘れられたことに気づいた奈緒は流石に腹が立った、というより呆れた。



 ここで小野がマンドリンパート全体に対して口を開いた。

「早速だけど今からみんなにあだ名をつけます!」

 それを聞いて一同は驚いた。

「あだ名!?…ですか?」

 小野はクスクスと笑って続けた。

「そうよ。マンドリン部に入部届を出した時点で表面上は入部だけどあだ名をつけることが正式な入部って暗黙の了解で決まってるの!」

 それを聞いて、学が呟いた。

「一種の洗礼ってことですね。」

「その通り!私たちもみんな先輩からあだ名を貰ってきたの!先輩のネーミングセンスが事故だとテロよ!」

 ここで奈緒の確認が入る。

「あだ名って何を参考につけるんですか?」

 それに対し答えたのは2ndの石原だった。

「人にもよるけど私は好きな食べ物の名前をまんまつけられたかな〜」

(ひねりもしないのかよ…)

 石原の話を聞いて奈緒は少し不安を覚えた。それを見て小野は張り切って言った。

「大丈夫!私たち、ネーミングセンスないこともないから!それに君たちから案出してくれても全然いいから1~3年生で協力して1年生それぞれのあだ名をつけあおっ!」

(「ある」とは言わないんだ…)

 こうしてマンドリン部の洗礼「あだ名つけ」が始まった。




 その日の活動は結局13時に終わった。

「どうだった?歓迎会。あだ名決まった?」

 帰り道糸成は奏太につけられたあだ名を聞いた。

「俺はコンミス志望って言い間違えたのをきっかけに “トレくん”ってつけられたよ。いくら何でも安直じゃね?」

「コンミス=コンサート・ミストレス→ミストレス→トレス→トレ+くん=“トレくん“か。まあ高校生のあだ名付けなんてそんなもんだろ。それよりダンのあだ名は“アツシ”って、こっちの方が安直だろ。」

「お前も聞いたのか。俺も爆笑した!小野先輩やっぱりネーミングセンスなさそう。大喜は?」

「もちろん“ガリ”。結局どこも安直なんだよ!」

 自分と同じパートの大喜のあだ名を聞かれて糸成は笑いながら答えた。

「…でも」

 奏太は上を見て静かに微笑むと続けた。

「俺たち確かにこれでほんとに部活に歓迎してもらえたような気分になるな。先輩たちと雑談して、変なあだ名つけられて、すごく仲良くなれた気がする。」

 それを聞くと糸成は言った。

「だからこそ頑張って練習しないとな。先輩たちは期待してくれてる。」

 こうして二人は決意を新たにした。

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