第108話「リスペクトし合える相手」
合同コンサートの終演後は全学校で協力と分担をしながらの片付けがあった。片付けが終わると、全体で集まり、各学校の部長と顧問からの簡単な挨拶をへて、解散となった。
「はあ〜!楽しかったなあ〜!演奏会をこうしてやり遂げるのは初めてだったからなんか新鮮だったな!」
「ああ、いい経験ができたね」
奏太と糸成は自分の荷物をまとめながらそう言ってこの日の演奏を振り返った。
「ねえねえ糸成くん!奏太くん!」
「ん?」
二人が話しているところに声をかけてきたのは奈緒だった。
「どうした?」
「二人ともこの後時間ある?」
「あるけど...どうして?」
糸成がそう言って首を傾げると、奈緒はウインクしてニッコリと笑った。
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「そいじゃ!演奏会の成功を祝して...!」
「かんぱーい!!!」
奏太たちはコンサート会場を出た後、近所のファミリーレストランに行き、打ち上げを行っていた。
「イベントの後は、打ち上げ!これ定番でしょ?」
奈緒はそう言って飲んでいたいちごミルクを顔の横にかざし、満足げな表情を浮かべた。
「ははは、高木さんこういうの好きそうだもんな」
糸成はそう言って笑い返すと、自分も飲み物を飲んだ。
「ねえ、打ち上げは楽しいんだけど先生がさっき終わりの会の時に禁止って言ってたの、本当に打ち上げしちゃって大丈夫かなあ...?」
恐る恐る確認したのは遥花だった。彼女はおとなしい性格で、気が強い方ではないためか、心配性な面もあるようだ。
「大丈夫大丈夫!何か問題を起こさなければ大丈夫だと思うし、こんなの側から見たらただの食事会だよ!ハルちゃんそういうとこマジメだよねえ〜!」
「ええっ!?ま、真面目...?そ、そんなことないよ〜!!」
奈緒にバッサリ言われ、遥花は慌てて否定した。
「もうナオ!ハルカちゃん気にしやすいんだからからかうのやめてあげてよ!」
ーだからそれもそれでハルちゃんのことディスってない?
遥花のことを庇って注意した美沙の言葉を聞いて、奈緒は若干苦笑いしていた。
「...ま、まあ!でもさ!せっかくだし今日くらいは演奏会の余韻に浸りたいっていうかさ!盛り上がったり楽しんだりするべきだと思うのよ私は!」
奈緒はそう言って仕切り直し、話を始めた。
「だってさ他の学校の人たちもいるでしょ?」
奈緒がそう言って隣に座っている生徒たちを横目に見ると、そこでは白熱した議論が繰り広げられていた。
「次の大会では絶対俺らが勝つ!!」
「いーや!!俺らだね!俺たち雄ヶ座に勝とうなんて百年早いよ!」
「いーえ!勝つのは私たち江沢高校よ!」
「なんだとぉ!!!」
「...ってあんたたちは盛り上がりすぎなのよ!ボリューム下げて!!」
その話のあまりの盛り上がりに奈緒は思わず注意した。奈緒に注意され、話をしていた奏太、快人、光里の3人はぎくっとして思わず黙り込んだ。しかし、また互いに睨み合い、自分の主張を曲げない様子だった。
このように、今回の打ち上げには奏太たち西田高校の1年生の他に、他校の生徒たちも何人か参加していた。奈緒が声をかけた生徒たちに絞られるため、全員ではないが、ファミレスのいくつかの机を連結してやっと座れるくらいのかなりの人数になっていた。
「と、とにかく!前回の県大会では悔しい思いをしたから俺らはもう負けない!次の地方予選ではお前らを追い越して優勝を狙うんだ!」
「...だから、それは無理だって言ってるでしょ!江沢が県大会に続いて地方予選でも優勝をいただくわ!」
「それはさせない!俺たちが...」
「ああーもう!!めんどくさいわね!!今日のところは“今日のコンサート楽しかったね!お疲れ!”って言えないわけ?打ち上げなんだからこれからの話は無しでいいでしょ!」
少し落ち着いてもまたすぐいがみあう3人を見て、奈緒は再び頭を抱えた。
「...僕は次の大会はどの学校にも可能性あると思うけどね」
「えっ?」
意外な発言で周囲を驚かせたのは旋だった。それぞれの学校の実力を最も正確に理解してそうな彼の発言としては意外だったためか、周りの生徒たちは思わず黙って彼に注目した。
「君にしては意外な言葉だな。前は西田の演奏は薄くて1年生が頑張らないと改善されないってアドバイスしてた割には。」
糸成がそう言って興味深そうな様子で旋の方を見ると、彼は穏やかな表情で続けた。
「もちろん前に君たちに言ったことは今でもそうだと思っているよ。でもね、それを踏まえて聴いても、今日の君たちの演奏はかなり改善されていたと思うよ。2ヶ月の中できっと1年生も1年生なりに色々考えて練習してきたんだろう。そんな感じで、演奏ってのは意識して練習するだけで大きく変わる。1ヶ月後のコンクールの結果なんて今の時点の実力や状態だけでは判断できないよ。」
「...それはそうだが...」
「それに、今日の演奏を聴いて、みんな大きな影響を受けただろう?」
旋の問いかけに対し、周囲はそれぞれマジマジと互いに顔を見合わせ始めた。
「確かに...江沢の演奏聴いて、すごく上手いって思ったもんな...、」
奏太がボソッと江沢高校の演奏をほめたのを受けて、来海璃子はビクッとして照れくさそうに慌てた。
「なっ、あっ、当たり前よ...!フン!私たちが一番に決まってるってようやく認める気になったのかしら?...ま、まあ...私も?あなた達の演奏が全く良くないとは思ってないわ?上手ではあったわよね。私たちの演奏に比べたらまだまだでしたけど...!!」
「さては褒められ慣れてないな...」
璃子のツンデレっぷりを見て、糸成は苦笑いした。
「ああ。素直にすげえ演奏だって思った!俺ももっと綺麗な音出せるように練習頑張ろうって思ったよ!」
奏太はそんな璃子の素直じゃない反応に対しても嫌な顔せずに、正直な気持ちを述べた。
「わ、私も雄ヶ座の演奏...かっこいいと思いました...!気の弱い私ももっと堂々と演奏できるようになれたらいいな...って。」
雄ヶ座を褒めたのは遥花だった。快人はそれを聞いて、目を輝かせて言った。
「おおーっ!だろーっ?ありがとう!可愛い女子にそう言ってもらえるなんて俺、楽器やってきてよかった!!」
「え...か...」
可愛いと言われてどうしていいか分からず赤くなる遥花をかばい、奈緒が快人の頭を軽く叩いた。
「俺らの演奏カッコよかっただろ〜!ねえミサたんもそう思うでしょ!?」
「...う、うん。そうだね。」
快人から話を振られ、美沙は作り笑いして適当に話を合わせた。
「コラッ!アンタ!可愛いからってウチの女子たちにちょっかい出すな!!」
色目遣いをやめない快人に対し、奈緒は怒って再び軽く頭を叩いた。
ーそれぞれの学校がそれぞれをリスペクトし合う雰囲気、なんだか、今回のコンサートで、今まで以上に周りの学校のことを知ることができて、いい刺激を受けることができた気がする...!このモチベーションで頑張れば、1ヶ月後の地方予選、きっとすげえことになるような気がするぜ...!
互いにリスペクトし合う仲間達の様子を見て、奏太は改めて地方予選に向けての期待を高めるのだった。




