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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第2章「波乱のパート決め」
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第10話「パート決め」

 10時になると部長の高橋が司会で進めた。

「パートごと部屋を割り振ってあります。それが黒板に書いてあって上級生はみんなそれぞれの部屋で待機します。新入生の皆さんは今から自分の希望のパートがいる部屋に行ってもらって人数が集まったパートについてはパートごとその方針で決めてもらいます。1年生は今日は欠席ないかな?」

 高橋はそう言って全体を見渡した。糸成が気付いて声を上げた。

「ダイキ…浅田大喜くんと澤田敦くんがいません。」

 確かにふたり足りない。

「おっマジか、確かに“ガリ”と“イケメン”いないな、初日から遅刻って度胸あるなー気に入った。ってこのままじゃいかんから、悪いけど誰か連絡して希望聞いといてくれ。」

 大喜については自己紹介のことがあって“ガリ”と呼ぶ人が増えた。敦は実は部員の中で屈指のイケメンなのでそう呼ぶ人がいる、あとは“アツシ”と呼んでいる人も同じくらいいる。今のところ本名の読み通り「ダン」と呼ぶ人は実はほとんどいない。(ちなみに奏太はまだどっちも覚えていない。)


 話し終わると高橋は黒板に書いてあった部屋の割り振りを読み上げた。

「1stと2ndはここ、音楽室。楽器が同じだから一箇所でやる。Dolaは隣、部室。Celloはその更に奥の音楽準備室。Guitarは北校舎に入ってもらって理科室。ここは普段でも練習で使わせてもらっている部屋だから気にせず使って。Bassは外、音楽室前ね。横に各パートの人数比も書いておくね。」


 そういうと先輩は部屋の割り振りの横に人数を書いた。

 今年の1年生全体の人数は22人。2年生が5人、3年生が15人なので最も多い学年ということになる。パートごとの人数については山崎先生の判断により1stが5人、2ndが4人、Dolaが4人、Celloが2人、Guitarが6人、Bassが1人に決定した。楽器ごとの音量バランスの関係で枠の増減は基本的に認めないというのがこの部活の決まりだ。

「じゃあ早速移動してくれ!」

 高橋の合図で1年生たちはそれぞれ自分の希望のパートの部屋に移動を始めた。



「それじゃ、俺は移動だから。また後でな!」

 糸成はそう奏太に言うと移動を始めた。

 奏太はうなずくと学と一緒に音楽室、マンドリン希望の部屋に残った。周りを見渡すと音楽室に残ったのは全部で7人、つまりマンドリンができることはもう確定だ。


「すみません!遅くなりました!!」

 ここで遅刻した二人が現れた。1stの先輩から軽く説明を受けると大喜は慌てて出て行った。敦については音楽室に残った。つまり枠9人に対し希望者は8人、しかしこの部屋の場合はそれだけではない。

「じゃあみんな。ここからは1stと2ndの希望について決めます。前と後ろで分けよっか!」

 こうして音楽室では1stと2ndの振り分けに入った。




 DolaとCelloについてはすぐに決まった。それぞれ希望者がDolaは3人、Celloは1人だったからだ。あとは他のパートを希望して出来なかった人が入ってくるというわけだ。ちなみにCelloに決まったのは美沙だった。2回目の新歓で楽器体験を受けて以降Celloの先輩とはすでに何度も話をしていたので先輩たちと雑談をしていた。

「パートが決まって一安心だね〜おめでとう!」

 2年の永野が一緒に喜んでくれた。

「Celloパートに入ってくれて嬉しいよ。よろしく!」

 パートリーダーの3年田中も言った。それを聞いて美沙はお礼を言った。

「ありがとうございます!もう一人が誰になるか楽しみです!」

 それを聞いて他の二人に比べ、大人しめのもう一人のCelloパート3年の加藤亜子(かとうあこ)が浮かない顔をして呟いた。

「楽器決め、今年も長引きそうね、いつもGuitarがもめるの、私たちの年なんて1週間かかったの。3人枠に7人希望しちゃってね。その時は1stも超過したから余計長かった。あなたと一緒にやるもう一人は第1希望じゃなくCelloをやることになるから私たちがメンタル管理しっかりしてあげないとね。」

 それを聞いて美沙は少し浮かない顔をした。

「そうですよね。私、希望が通ったからにはしっかりやらないと。」



 その頃、理科室は確かに重い空気になっていた。Guitarパートの枠6人のところ希望者が10人だからだ。しかも最初9人でなかなか話し合いが始まらないところに遅刻してきた大喜が入って増えたもんだから余計ピリピリした。

ー「パート決め頑張れ」ってこれか…

 糸成は先ほど小野に言われたことを思い出してため息をついた。

「ど、どうしよっか…」


 ここで3年パートリーダーの出水が口を開いた。

「俺たちの頃ももめて1週間かかったからね、みんなの気持ちも分かるけど早めに折れた方が楽かもしれない。」

「それ今言うの逆効果でしょ、でもそうは言ってもこのまま黙ってても仕方ないのでもう少ししたら俺たちでギターパートの悪口言うしかないですね。これがむずくてしょっちゅうギターやめたくなるとかギターにできないこれが出来るあのパートが羨ましいとか。」

 益田が苦笑いして言った。

「私たちの頃それされてもあまり効果なかったけどね」

 3年の浦田紗耶(うらたさや)も不安げに言った。


「先輩たちの頃はどうやって決めたんですか?」

 糸成が尋ねた。

「私たちの頃は最初話し合いでってなったんだけど1週間経っても決まらなくて痺れを切らしたから仕方なしにくじ引きで決めたの。できれば今年はそれしたくないのよね。」

 3年のもう一人の早川朝子(はやかわあさこ)が説明してくれた。


「ギターって毎年超過するんですか?」

 新入生の女子のうち一人が質問した。

 それを聞いて益田が答えた。

「去年はたまたま全員希望が通ったけどかなり珍しいって。ギターは一番馴染みのある楽器だから希望者多いんだ。実際はポピュラーソングで使うアコギやエレキとは大分違うけどね。俺もそうだったしそれ自体は悪いことじゃないよ。」

「とりあえず、全員がなぜギターを希望してるのかを確認してから話を進めよっか。」

 パートリーダーの出水はそう言うと全員の方を見て微笑んでみせた。

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