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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第14章「他校と自校」
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第105話「県大会のリベンジ」

 時計が13時30分を指した。開演の時間である。プログラム最初は西田高校のステージである。

奏太たちはそれぞれ舞台裏に楽器を持って並び、入場の時を今か今かと待っていた。

「頑張ってな!俺ら客席で聴いてるから!」

「おう!トップバッター、景気いい演奏できるようにするよ!」

列の横から激励してきた快人に、奏太は気合のはいった顔で笑いかけた。

「ミサたんも頑張ってな!今日も客席から凝視するよ俺!」

「は、はい...」

「凝視すんな気持ち悪い!!!」

奏太たちに挨拶した後すかさず美沙の方を見ておちゃらけだした快人を、美沙は作り笑いで適当にあしらい、奈緒は横から怒ってツッコミを入れた。結局調子に乗っていた快人はいつも通り計に回収される形で退場し、現場は西田高校の生徒たちだけになった。

「和田」

「ん?」

並んでいた和田に声をかけたのは中川だった。中川は無言でグーサインを出し、和田を鼓舞した。その中川の合図の意味がなんとなく分かったのか、和田は静かに微笑んで頷いた。


 ここで予鈴が鳴り、会場の灯りが消える。会場も静まり返り、お客さんの視線が会場に向いたのを確認し、ステマネ(=ステージマネージャー)の合図と共に舞台に入る。

 下手(しもて)から、全員が列になって入場する。コントラバスの杏実から順番に舞台に入場し、自分の座席についたものから順に準備に取り掛かる。入場の間はお客さん全員が拍手をしており、奏太たちの演奏を今か今かと待ち侘びていた。



 演奏者たちがチューニングや譜めくりなどをしながら準備をしている間、中川が遅れて入って来た。西田高校のステージの1曲目と2曲目は彼が指揮を担当するからだ。お客さんの方を向いてお辞儀をしてから、全員の顔を見た。確認が済むと、演奏を開始した。

 中川が指揮をしたのは、若い世代で人気のポピュラーアーティストによるヒット曲だ。1曲目は演奏会のトップバッターということもあり、開幕を意識したアップテンポの楽曲。そして2曲目は全国チャートを席巻したバラードのナンバーだ。いずれも耳馴染みの楽曲とあって、お客さんの反応も上々。メンバーも安定して演奏に臨むことができた。

 演奏が終わり、中川が退場すると、会場はお客さんの満足した拍手に包まれた。この後は山崎先生が入場し、西田高ステージ最後の曲が始まる。県大会でも演奏した“マンドリンの群れ”だ。


「中川さんお疲れ様です。」

中川が舞台裏に戻ると、旋が出迎えてくれた。

「おーありがとう。お前ここで聴いてたんだ。客席には行かないの?出番までに戻って来れるだろうに」

「ええ、ここで聴きたくて。」

「そっか。」

旋の言い方には何か含みがあり、“なぜ?”とは聞けなかった。


「いい感じじゃないですか。」

「ん?ああ、」

旋に急に褒められ、中川は少し戸惑いながら軽く返事をした。この時“マンドリンの群れ”の演奏はすでに始まっていた。

「コンミスの和田先輩?でしたっけ、なんだか調子いいじゃないですか。」

「そうだな。」

「さては何かありました?」

「よく分かるな...」

旋の鋭い指摘を聞いて、中川は色々なことを振り返った。12月の和田の退部騒動、彼女が立ち直った当時の経緯を思い返し、ほっと胸を撫で下ろす。

「まあな」

目の前で自信を持って演奏している和田を見て、中川は目元を緩めた。



「ありがとうな」

「えっ?」

突然の感謝に、今度は旋が驚いた。

「いや、よく考えたらセン(おまえ)が居なかったら、多分俺部活復帰できてなかったなあ、って思って。」

「いやいや、中川さんを説得したのはソウタくんですよ、僕は何もしてないです」

「いや、文化祭の時、俺とソウタ(あいつ)を会わせてくれたのはセン(おまえ)だ。セン(おまえ)が演奏の後俺を引っ張って部室まで行ってなかったら多分今頃は部活に復帰できてなかったと思う。」

「中川さん...」

「あれがなければ、今頃俺は部活復帰せず、今頃どっかでつまらない時間を送っていたかもしれない。」

「...それに加えて和田先輩も退部して1st崩壊だったかもしれないですね」

「なっ、そこまでは言ってないけど...」

旋の返しを受けて中川が驚きながら返すと、旋はクスッと笑って答えた。

「あれ?和田先輩が退部せずに済んだのは中川さんが説得とかしたんじゃないんですか?てっきりそうだと思ってたんですが」

「...!お前、どうしてそれに気づいた...?」

中川は話したことのないことを言い当てた旋の言葉を受けて驚いて尋ねた。

「そりゃあ...」


「和田先輩の音を聴いてたらなんとなくわかりますよ...」

「ええ...?そ、それは...それは一体どういうことだよ!!」

“和田の音に表れている”そんな旋の主張を聞いて、中川は思わず少し顔を赤らめた。

「だってそうでしょ...!県大会の時の和田先輩の音は、なんだかプレッシャーと劣等感に押し潰されそうな感じでした。まるで元1stだったあなたの実力や後輩のやる気との板挟みに合っているような...。でも、今日の和田先輩は音が変わったというか、なんだか色々なことから解放されてのびのびと演奏できている感じです。そこには誰かに頼ることができるという明らかな信頼と安心感、そして感謝の気持ちが感じられます。」

「そ、そんなこと...気の強いあいつが思うなんて...」

中川は旋の鋭い指摘に圧倒されながらも誤魔化そうとして慌てた。そんな中川の様子を横で見ながら旋は微笑んだ。

「ふふふ、なんか、中川さんも少し素直になりましたね!ちょっと前まで“ありがとう”なんて言うキャラじゃなかったのに!」

「う、うるせえ!!そ、そんなこと...」

旋にからかわれたような気がして、中川は慌ててそう返すと、決まり悪そうに頭を掻きながら答え続けた。

「...し、死ぬほど真っ直ぐで素直な後輩がいるからよ...なんか影響されるだけだよ...!」

中川のそんな不器用な様子を見て、旋はクスッと笑うと、答えた。

「確かにそうですね」




 二人の話す通り、“マンドリンの群れ”の演奏は素晴らしいものになった。それは、旋の指摘通り、コンミスである和田が絶好調であったこと、そのために他のメンバーも安心して演奏できたことなどが理由として挙げられた。結果として、練習して来たものをしっかりと本番で出し切ることができた。

ーやり切った...!コンミスとして、いい演奏を作ることができた...!

演奏が終わって拍手が鳴る中、立ち上がって客席を眺めながら、和田は今まで味わったことのない大きな達成感を感じていた。


「へえ、県大会の演奏より随分まとまってていいじゃん。これを県大会で出されていたら、また結果も変わっていたかもね。」

客席で演奏を聞きながら雄ヶ座(ゆうがざ)高校の計はそう呟いた。

「ああ。そうだな。...でも、残念。」

横でそう呟いたのは同じく雄ヶ座の快人だった。

「俺たちも県大会から進化しているからな...!!」




 演奏を終えた生徒たちが舞台裏に戻ると、中川が出迎えた。

「みんなお疲れさん!いい演奏だったな!」

「中川先輩!」

中川の満足げな表情を見て奏太たちは嬉しそうに駆け寄った。中川はさっきの旋の話を思い出して少し頬を赤くしながらも、それを悟られないように気をつけながら和田の方を見てグーサインを出した。和田も達成感のある表情で中川の方を見て言った。

雅典(まさのり)!よかったでしょ!私、2年生になってやっと、納得のいく演奏ができた気がするよ!私、今度こそ()()()()()()()()()()()()よね!」

“ちゃんとコンミスになれた”、和田の呟いたフレーズを聞いてピンときた中川は静かに微笑んで

「ああ。そうだな!」

と、一言満足げに答えるのだった。

お読みいただきありがとうございます。今回の演奏は県大会ぶりの“マンドリンの群れ”という事で、和田にとってはいわばリベンジになったわけです。

そんなわけで、和田と中川の二人の関係に注目する形で描いてみました。

本来県大会で出すべきだったパフォーマンスをようやく実現できた和田、この経験が大きな自信につながればいいなと思います。

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