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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第14章「他校と自校」
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第104話「客席」

 2023年1月8日正午、合同コンサートの会場ではようやくリハーサルが終わったところだった。リハーサルは合奏練習の後に行われ、時間の関係から曲の入りと入退場の確認にとどまった。


 昼休憩では、それぞれ弁当を食べながらこれからの演奏に向けた期待で胸を膨らめた。

「ソウタくん、リハーサルはどうだった?」

旋に問われ、奏太は口に入った食べ物を飲み込んでから言った。

「ああ!曲全部確認できなかったのはモヤモヤしたけど、会場で演奏するのがとっても楽しかったよ!」

「そっか、確かに僕も一曲通す時間がなかったのは残念だと思っているよ。特に、西田高校の演奏とか聴きたかったしね。」

「...うっ、相変わらずすげープレッシャーかけてくるな...!でも、それを言ったら俺も他校の演奏聴いてみたかったな。」

奏太は旋の発言に少し眉をしかめてから呟いた。

「...特に()()()()高校の演奏とかはまだ聴いたことないからな。確かこないだの大会一位だったろ?あそこ。」

「...()()()って読むんだけどね。」

旋は江沢高校の名前を間違えている奏太の言葉を聞いて苦笑いしながら訂正した。

「でも、確かに江沢は上手いよ。なんていうか凄く綺麗な音色で繊細な表現ができるっていうか、雄ヶ座(ゆうがざ)とかともまた違った魅力があるような感じかな。」

「おいおい!ウチの悪口が聞こえたぞ!」

旋の出した“雄ヶ座”という単語に反応してやってきたのは快人(かいと)だった。

「おい!食べながら歩き回るなって...!」

後ろから同じく雄ヶ座高校の(けい)も着いてきた。

「...いや別に悪口じゃないよ。どこの学校にもいい所はあるって話。」

快人に誤解され、旋は慌てて補足した。


「...確かに学校によってカラーって出るよな。」

続けて話に加わってきたのは中川だった。

「あ、中川さんも分かります?」

「ああ。なんていうか、その学校の音があるっていうか、もちろんその学校の先輩が教えてるんだから癖とかも引き継いでそうなるんだろうけど、やっぱり音ってのは意識してないのに自然と伝承されてる気がするんだ。西田(ウチ)には“西田(ウチ)の音”があるし、江沢(えざわ)には江沢(えざわ)雄ヶ座(ゆうがざ)には雄ヶ座(ゆうがざ)の音がそれぞれある。もちろん郷園(ごうえん)にも郷園(ごうえん)の音がある。」

中川がそう語ると、それに同調するように旋も続ける。

「それと、全体的なサウンドのまとめ方も学校の味が出ますよね。郷園(ウチ)ならピッタリと音を合わせた一体感、雄ヶ座(ゆうがざ)だったら男子校ならではのパワフルなサウンドと計算し尽くされた表現の融合。学校によって曲に向けたアプローチは全然違う、だからこそ演奏って面白いんだと僕は思っていますよ。」

中川と旋の話はとても興味深く、奏太たちは感心しながら黙って横で聞いていた。


 しばらくして奏太が口を開いた。

「じゃあさ、今日の合同コンサートって、色々な演奏が聴ける演奏会なんだな!!」

奏太の結論を聞いて中川と旋は一度顔を見合わせてからクスッと笑って答えた。

「まあ、確かにその通りだね。色々なアプローチを聴く意義のある演奏会だと思うよ。」

「奏太の言い方だと微妙に頭悪そうに聞こえるけどそういうことだな。」

「そっか、...じゃあ俺も沢山色んな演奏聴くぞ!!」

「演奏もするだろ...!」

「そうでした。」

奏太は中川に指摘されて、少し照れながらそう返事をした。



「まあでも、本番中はリハと違って他校の演奏を聴くことはできると思うぜ、舞台袖か客席後ろの方でこっそり立見とかになると思うけど。」

「えっ!?いいんですか!?」

演奏を聴けると知り、奏太は目を輝かせながら中川の方を見た。

「ああ、ただ自分の出番の5分前には舞台裏に戻ってきてくれよ。それとくれぐれもお客さんの邪魔はしないように!」

「はい!もちろんです!」

奏太は他校の演奏を聴くことができると知り、うずうずしながら返事をした。


「そっか、お客さんか。...どのくらい来るんでしょうかね。」

“お客さん”という言葉に反応したのは計だった。

「うーん、分からないけど、去年は客席結構埋まってたぞ。お前ら友達とか呼んでないの?」

中川は去年のことを思い浮かべながら質問した。

「...呼んでないです。」

「...お前さては友達おらんのかよ?」

「はい。数式と定理が友達です。」

「なんだよそれ...」

「あ、それと音楽です。」

「引っかかったところそこじゃないわ!」

計の答えを聞いて、中川は呆れてツッコミを入れた。

 「俺は呼んでますよ!」

計に続き、答えたのは快人だった。

「おおそうか。何人くらい?」

「クラス全員です!“女子見れる”って言ったら来るっていうので!」

「そっちもキモいな...」

快人の答えには中川は冷静に引いたようだった。


「あとは、家族とかかな。お前らの中にも親来るって人は多いだろ。」

「あ、はい!うちは親父が来ます!」

すかさず答えたのは奏太だった。奏太の父は元マンドリン部のOBの為、今回の演奏会には興味を示していたようだ。今回は初めて演奏を聴きに来れるということで張り切ってスマホ用の三脚を買っていた。

「ウチも来るかな。」

「まあ、お前はな〜。」

「はい。ウチも父と、ひょっとしたら妹が来るかもです。」

こちらは旋だ。彼も父親がプロのマンドリニストとあって息子の舞台を見にくるようだ。 

 「はいはいはーい!俺も親父来ますよ!」

快人も言った。

「おうそうか。息子の演奏してる舞台だもんな。みんな大体親は来るよな〜」

「いえ、女子を見に来るそうです。」

「親までそれかよ!!」



 「とにかく、色々な人が見にくるってわけですね!すごく楽しみです!」

「ああ。もう開場時間だし、ぼちぼち人も入ってきてるだろ。」

お客さんと聞いてワクワクしている奏太を横目に見ながら、中川は立ち上がって楽屋の壁沿いにあるテレビをつけた。

「あれ先輩、テレビなんて見るんですか?」

「ちげーよ」

中川はそう答えてテレビのチャンネルを回した。

「見てみろ。」

「え!?」

見ると、画面には客席の様子が映っており、すでにたくさんのお客さんの姿があった。

「これ、今の映像ですか!?」

「ああそうだ。今んとこ二分入りってとこか。まあ開場したばっかだしこれからって所だろ。」

「えええ〜〜!!?もうこんなにお客さん来てるんですか!?き、急に緊張してきた...!」

「そりゃあと20分で開演だしな。ボチボチ支度するぞ。」

中川はそう言って弁当の殻を片付けると、身支度を始めた。


ーい、いよいよ始まるのか。...初めての本格的な演奏会...!

お客さんを見た途端固まった奏太を見て、旋は少しからかうような態度で背中を叩いた。

「奏太くん、緊張してるの?」

「...してるさ。」

奏太はそう答えてから少し引き攣った顔を頑張ってできる限り緩めてみせ、気合を入れて答えた。

「...でもいい緊張感だ!!」

「そっか。いい演奏会にしような。」

こうして奏太たちは改めて開演に向けて準備に移るのだった。






 その頃、客席では...

「わあ...!すごい!すごいよ!コンサート会場だよ!こんな豪華な場所でやるんだね!」

「アヤノ...マジで演奏聴くの?私受験勉強しないとなんだけど...」

「いいじゃん!受験までまだ2ヶ月あるし。それに入りたい高校の入りたい部活の演奏を聴くのだって志望度高めるための立派な受験勉強だよ!」

中学生の女子二人組が座席を探していた。その片方は以前西田高校の学校見学にてマンドリン部の部活体験に参加した中学3年生遠藤彩乃(えんどうあやの)だった。一緒に来ているのは同級生のようだ。

「ほら、見て見て!パンフレットにメンバーリスト載ってるよ!私が体験に行った時の先輩の名前も載ってる!」

「...アヤノは名前知ってても私は会ってないんだから...」

「ホラホラ高木奈緒先輩に大橋奏太先輩!私がマンドリン体験したときに優しくお話ししてくれたんだよ!」

「...え?」

その女子生徒は彩乃の言葉に何か反応したようだった。そして自分でもパンフレットをめくり、何かに気づいて静かに微笑んだ。

「...そっか、それは相当楽しかったんだね。」

「うん!一緒に部活入ろうよ!」

彩乃は友達の同調が嬉しかったのか、そう言ってにっこりと笑顔を見せた。



時刻は13時20分。開演時刻の13時30分まではあと10分だ。


いよいよ合同コンサートが始まる。

作中で話があったように、楽屋にはテレビがあって、客席や会場の様子が確認できるようになっているところがあります。よくそれを見て客の入りを確認し、一喜一憂したのを覚えています。

さらに、最後、再登場した中学3年生の「遠藤彩乃」は以前第178話〜第179話にて登場した少女です。美沙や奈緒の出身中学に通っていて、今回は友達と一緒に再登場しました。彼女の中では西田高校を受験し、マンドリン部に入ることはほぼ決まっているようで、受験生ながらも演奏会の情報を得て聴きに来たようです。


いよいよ開演です。

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