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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第14章「他校と自校」
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第103話「楽屋と設営」

 朝、白い息を吐きながら会場に向かう。2023年1月8日。地域の高校4校が集まって行う合同コンサート当日だ。

「相変わらず空気つめてーな」

「ああ、でも...」

自分の息が白いことを気にしながらそういった糸成の横で奏太も相槌を打つ。

「...全然寒くない...!」

「そうだな。」

二人の気持ちは自然とこの日の演奏に向かっており、闘志が燃え上がっていたのだった。


 会場に着くと、奏太たちは事前に指示されていた通り、入り口を探した。

「おはようございまーす」

この日の集合は時間内に各自で集まり、建物の中にどんどん入っていいことになっていた。そのため、奏太たちは事前にスマホに保存しておいた地図を見ながら自分たちの荷物を置く部屋を探した。

「あ、イトナリくん!ソウタくん!!」

「え?」

しばらく歩くと、向こうから呼ぶ声がした。

「あれ?()()さん?」

()()!!」

見ると、向こうで奈緒が二人を呼んでいた。

「どしたん?」

不思議に思って奏太たちが近寄ると、奈緒は力いっぱい何かを奏太たちの方に向かって投げてきた。

「え...?おぶっ!!」

「二人ともこいつ連れてってよ!!」

奈緒がそう言って投げてきたのは雄ヶ座(ゆうがざ)高校の男子生徒、相田快人(あいだかいと)だった。

「何も追い出すことないじゃん!別に着替えを覗いたわけじゃないしさぁ!!」

快人は奈緒の方を見て不満そうに訴えた。

「ダメに決まってるでしょ!ここは女子の控室!アンタは別の部屋でしょ!これ以上ミサに近づいたら許さないよ!」

奈緒の言葉を聞いて奥の方を見ると、美沙が苦笑いしながら二人のやりとりを見ていた。

「...あの、高木さん?」

「とにかくコイツを男子の控室に連れてってよ!さっき女子の控室に忍び込んでミサに近づこうとしたのよ!信じらんない!」

「...イエッサー。」

奏太と糸成は二人のやりとりを見てある程度察し、呆れながら快人の襟を引っ張って歩き始めた。

「え、あ、ちょ、ちょっと待って!男子校で女子全然見れないんだから...!危害を加えるつもりはないしいいじゃんよお!ちょ、ねえ!ミサたあ〜ん!!!」

「“()()()()”って呼ぶな!!」

こうして奏太たちは快人を連行しながら自分たちの控室へと向かった。


「全く...とんでもない奴ね。もう大丈夫だからね、ミサ。」

「...うん、ごめんね、なんか私のせいで。」

「いや、ミサが謝ることないよ...あいつめ...!」

美沙と奈緒は快人たちのいなくなった女子控室でそう会話すると、周りの他の女子生徒の視線を気にしながら自分たちの準備を始めた。



 奏太たちは快人を引きずりながら地図を確認し、指定された男子控室の前に着いた。

「ここだと思うぜ。」

「“第1リハーサル室”...、確かにここだな。」

事前に配布された資料によると、第1リハーサル室及び、第2リハーサル室という部屋を男子控室として使用することになっていた。部屋の前には確かに“男子楽屋”と書かれた紙が貼られていた。

「“楽屋”って響き、なんかワクワクするなあ!俺ら、今日はなんだか本格的な演奏家になった気分だ!」

「はは。確かにコンクール以外でこういうちゃんとした場所で演奏会に出るのは初めてだもんな。」

二人の話すように、演奏会の楽屋を使うのは初めてだった。単純なことだが、このようにしっかりとした形での本番の機会を実感し、奏太はすでに感激していた。戸を開き中に入ると、快人と同じく雄ヶ座高校の生徒、神谷計(かみやけい)が駆け寄ってきて快人の頭を軽く叩いた。

「ったくお前はどこに行ってたんだよ!二人ともすみません...!」

「ああいや。」

ー...完全に保護者だな。

奏太たちは計のおずおずとした様子を見ながら苦笑いした。


 部屋の中にはたくさんの男子生徒がすでに到着していた。楽屋といっても、沢山の人数を収容するためか少し大きめの部屋を借りているようだった。第1リハーサル室と第2リハーサル室それぞれに4校の生徒が3パートずつ分かれて入る手筈になっていた。(江沢高校が女子校のため、実質的に3校の生徒だが。)

「そいじゃ、Guitarパートは第2なんで。俺は任務完了したから出るわ。」

「おっけ。」

糸成はそう言って快人を放すと、奏太に挨拶して隣の部屋へと向かった。

 部屋の奥にいた中川が奏太に気づいて近くにやってきた。

「おはようソウタ。着いたか。」

「おはようございます!凄い場所ですね。なんだかプロの演奏家になった気分です。」

「ははは、いい演奏しないとな。設営が終わったら最終確認とゲネプロ(=通しリハーサルのような意味)だ。」

中川のそんな言葉を聞き、奏太は気合を入れて返事をした。

「はい!!」


 しばらくすると合図があり、奏太たちはホールに向かった。一歩ホールに立ち入ると、奏太は思わずため息を漏らした。

「うわあ...広い...」

会場は大ホール。客席は1階と2階に分かれ、ざっと1000人は収容できそうだ。舞台も広く、由緒正しい厳格な雰囲気に圧倒された。

「広さは県大会のとこと同じくらいだと思うが...?」

横で中川がからかうが、奏太は上を向いたままつぶやいた。

「舞台の上からこうやってまじまじと見渡すのは初めてなので...」

「それもそうか」

中川はクスッと笑ってそう返した。

「ほら、ボーッとしてないで、設営始まるぞ。練習時間がなくなっちまう。」

「...あ、はい!」

奏太は中川の言葉で我にかえると慌てて着いていった。


 設営は椅子の位置、指揮台の位置などを細かく指定し、それぞれの位置が分かるようにテープを貼った。(=通称“バミり”である)今回の演奏会の場合は、4校それぞれの単独ステージ、合同の1年生合奏、2年生合奏、全体合奏と全部で7回形を変えることになるため、それぞれの間で素早く椅子の移動ができるようにしておく必要があるのだ。全ての隊形を一度試し、全ての席で問題なく指揮が見えるか確認をし、テープを貼る。この繰り返しである。


 「毎度のことだが、バミりだけで大分時間かかるな。」

全ての隊形の確認が終わったところで中川がそう漏らした。横にいた他校の先輩も苦笑いして答えた。

「こんなに隊形が変わる演奏会もそう無いもんね。」

「私なんてもうすでに少し疲れちゃったよ。」

「それは甘え。ほら、合奏練習始めるからもう一度1年生合奏の隊形に戻して。」

「ひぃ〜〜」





 隊形が全体合奏のものに戻ったところで楽器を持ち、1年生合奏の練習が始まる。

「おはようソウタくん。こないだ弾けなかったところは弾けるようになった?」

「...舐めんな、完璧だわ!」

奏太は後ろから旋にからかわれ、苛立った様子で答えた。

「それはよかった!見てほら、先輩たちも見てるよ。緊張するね。」

「...う、だ、大丈夫だし...!」

旋が指差した先には客席で演奏を聴こうとしている2年生の姿があった。後輩たちの練習を一眼見ようと客席に座る先輩が多くいたのだ。

「そう〜?本番は客席もっと人多いからもっと緊張すると思うよ?」

「...ちょっと不安になってきた...」

「まあ俺は完璧だけどね。」

「お前煽ってんのか!!」


「あはは!あの二人仲良いねえ!」

客席の水島と和田はそう言って笑いながら奏太たちの様子を微笑ましそうに眺めていた。



 こうして当日の直前練習が始まった。

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