第102話「大人数ならではの演奏」
2023年1月5日木曜日、西田高校マンドリン部では冬休みが明け、部活動が再開していた。次の演奏会である1月8日の合同コンサートが目前に迫っており、練習は より白熱した。
そして翌日1月6日、この日は西田高校の体育館を借りて合同練習となった。他の学校の生徒が到着するまでの間は自主練習の時間が少しあったため、奏太は自分の苦手な部分の個人練をしていた。
ーここの運指がうまくハマんないんだよな...
しばらく練習をしていく中で、次第に練習に集中し、のめり込んでいた。
「...はあ〜、むじい...少しマシになったけどまだ全然だなあ〜...」
「どこが弾けないの?」
「え?ここだよここ。ほら、どうしても少しぎこちなくなっちゃうんだ。」
不意な質問に奏太は不満げに答えた後、もう一度楽器を弾いてみせた。
「...あれ?今度は思ったより弾けてる?」
奏太は今度自分の出した音が思いの外弾けている事に驚き、少し元気になってきた。
「ちょっと待って!いま急成長したかも!...ってあれ?」
思わず楽器を弾く手を止めて振り返った。
「...弾くのやめたはずなのに音が聴こえる...?」
そして自分の手が楽器から離れているにもかかわらず鳴り続ける音に気付き、やっと悟った。
「って旋!!お前が弾いてたんかい!!!」
自分の音だと思っていた音が実は剛田旋が後ろで同じ部分を弾いていた音だったことに気付き、奏太は思わずガッカリした。
「やあ。あけましておめでとう。」
「いつ来たんだよ!」
「今さっき。奏太くんずっと集中してるのか全く気づかないからさ。こっそり後ろで同じとこ弾いてたんだ。」
「くっそ〜なんだよ!!俺一瞬で上手くなったのかと思ったのに!俺の喜びを返せよ〜!」
「むしろまた弾けるようになる喜びを味わえる余地が残っていることに感謝してよ。」
あまりの落胆から怒り出した奏太の顔を見ながらニヤニヤ笑って旋はもう一度同じパッセージを弾いてみせた。
「ホラホラ、特に難しくないよこんなの!僕を超えるんだろ?」
「くっそ〜〜!!悔しい!」
旋にからかわれ、奏太は悔しそうな顔でもう一度マンドリンに手を当てた。
「てかお前なんで後ろにいるんだよ!」
奏太はマンドリンを弾こうとしてから少し考えて、疑問に思ったことを尋ねた。
「そりゃ僕はこの席になったみたいだったからね。僕もさっき聞いたんだよ。」
本番の席順はこの日に発表されたため、本番の座席で演奏するのは今回が初めてとなる。奏太は周りの人の席などあまり確認せずに自分の席だけ確認していたため、旋が後ろだとは気づかなかったのだ。
「うわ、後ろからのプレッシャー半端な...」
「今回席順決めたのは指揮者だから君の先輩の中川先輩じゃない?」
ーあの人はまた、絶対わざとだ...
奏太は中川が席順を決めたと知り、苦笑いをした。
「てか、お前コンマス席じゃないんだな。」
「うん。せっかくの合同だしみんなの中に混じって弾きたいから中央くらいの席にして欲しいって個人的にお願いしてたからね。」
「さすがお前と中川先輩の関係性だな...」
「まだ全員揃うまで少し時間あるみたいだし、例の分からない所、練習付き合おうか?」
旋は奏太の顔を覗き込みながらそう提案した。
「...ちょっと悔しいけどせっかくだから...」
奏太はそう言って少し恥ずかしそうに楽器を手に取った。
「まあそう恥ずかしがらずに。それじゃちょっと僕と合わせてみようよ。」
旋はそう答えて合図を出した。旋の合図に合わせて奏太は楽譜を追って弾き始めた。
「...ってお前何弾いてるの!?」
奏太は練習を始めた途端に驚いて弾くのをやめてしまった。
「なんだよ急に。せっかく弾き始めたのに。」
「いやいや、お前が弾いてるそれ、1stパートの音じゃないだろ!」
奏太が楽譜を見ながら旋の弾いたものに驚いて追及すると、旋は涼しげな顔で答えた。
「何って、伴奏だよ。」
「いやいや、伴奏って、お前それ他のパートの音だろ!」
「うん。他のパートの音を適当に混ぜて弾いてるよ。」
「俺と同じ1stのパート弾くのかと思ったよ!なんか豪華すぎて集中できんわ!!」
奏太は旋の演奏した伴奏があまりにも技巧的ですごすぎたため、集中できなかったようだった。
「いいじゃん。他のパートいないと分かりにくいかと思って。即興だから微妙に変なとこあったかもしれないけど。」
「そ、そういう問題じゃなくて!!なんかものっすごい負けた気分になるわ!!喧嘩売ってんのかよ!」
「ええ〜?喧嘩なんて売ってないけどな。これに比べたら奏太くんの弾いてる1stパートは割と簡単だから練習すればできると思うよ?」
「ホラそういうとこそういうとこ!まじで今に見てろよ!いつか必ず追い越してやるからな!」
ーあの二人仲良いなあ。
奏太たちの喧嘩を見ながら後ろの席で練習していた敦は微笑ましげにそう思うのだった。
奏太と旋のやりとりは合奏中にも続いた。
「セン!ここはpだぞ!もっと小さく弾けよ!」
「1年生合奏の人数だしこのくらいで十分だよ。」
「俺が弾けないのを煽られてるみたいに感じてムカつくんだよ!」
「そんなことしないよ!てかここそんな難しくないのに弾けないの?だったらこっちに文句言ってないで練習しなよ!」
「あ!また煽ってる!俺だって練習すりゃ弾けるんだからな...!」
奏太は合奏中も後ろで弾いていた旋を気にし、中川が他のパートに指示を出している間に文句を言っていた。そのことに反論するように旋は呆れて答えた。
「...おいおいお前ら!今は合奏中だぞ。静かにしろよ!」
「...はい、すみません。」
ーやっぱり仲良いなあの二人。
だんだん言い合いが白熱し、声量が大きくなってきたせいか二人のやり取りに気づいた中川から注意されている様子を後ろから見ながら敦は再びそう感じた。
1年生合奏の練習のあとは、全体での合同合奏の練習の時間があった。100人以上という大きな編成での練習で、そのために借りた体育館ではあったものの、ものすごい人数で場が埋め尽くされた。この合奏についても指揮を担当するのは西田高校の中川だ。
「...悪い出来ではありませんが、細かいズレが目立ちます。人数が多いとはいえしっかりと音を合わせるように意識してください。それではもう一度始めます。」
中川の注意を聞いて、一同は大きく返事をした。合奏をしながら、奏太はワクワクしていた。
ー中川先輩はまだ満足してないみたいだけど、やっぱりこの人数で演奏するってすごいな。迫力もある。
「冒頭はもう少し小さめに弾けるようにしてください。入りはpですよ。これは全体で聴いた時にpということです。当然ですが、この人数で1人1人がpで演奏したら全体の音量はpを超えてしまいます。人数がいるからこそ音量の大きなところと小さなところの差をつけたいです。小さいところは一人一人が聴こえないくらい小さな音で演奏して繊細な表現を心がけましょう。」
演奏をしながら中川は丁寧な指導を続けた。
ー人数がいるからこそ出せる大きい音量を活かすために音量の小さな場面の小ささにこだわる...大人数ならではの表現もあるんだなあ。
奏太は普段の練習での中川の指示と今回の合同合奏での指示を頭の中で思い浮かべ、改めて大人数での合奏の表現について思いを馳せた。
ーこの合同合奏を成功させることができたら、演奏に対する自分の考え方が大きく広がる気がする...!
奏太はそう心の中で唱え、改めて合奏練習に集中するのだった。
...そして、1月8日。合同コンサート当日だ。
次回から合同コンサート当日です。




