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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第13章「合同コンサートを見据えて」
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第101話「頂からの景色」

 「それにしてもイトナリくんのいとこがマンドリン部出身だったなんて知らなかったよ。」

「そっか、言ってなかったっけ。」

武史たちと別れてからしばらくして、意外そうに口を開いた奈緒に対し、糸成は簡単に説明した。

「俺がマンドリン部に入ったのはたけにいへの憧れからなんだ。」

「そうだったんだ。」

「ああ。俺とたけにいは15歳も離れてるからたけにいが実際に高校生の頃には俺はほとんど物心ついてなかったけど、たけにいは大学でもマンドリン部に入っていたから俺が幼稚園くらいの頃はよくうちに来て演奏してくれてたんだ。ほとんど覚えてないけど親に連れられて合奏を聴きに行った事もあったらしい。熱心に取り組むたけにいの姿を見て次第に自分もやってみたいって子供心ながら思ったんだろうな。」

糸成はそう言って懐かしそうに微笑んだ。


 「武史さんって、何のパートだったの?」

「1stだよ。コンマスだったんだって。」

「ええコンマス!?すごいじゃん!」

糸成の答えを聞いて奈緒は思わず口に手を当てて驚いた。

「ああ。奥さんの悠季(ゆき)さんも1stで、副パートリーダーだったんだって。だから高校時代から色々な壁を一緒に乗り越えてきたみたいな感じで、いいコンビだったみたいだよ。」

「素敵ね...」

“いいコンビ”というフレーズを聞いて奈緒は思わずうっとりして目をキラキラさせた。そんな恋愛脳の奈緒に呆れながらも糸成は静かに口元を緩めるとつぶやいた。

「1stの高木さんにとって大先輩だな。」

奈緒はそれを聞いて大きく頷くとニッコリと笑った。

「うん!私も頑張らないと...!」

「...部内恋愛を...」

「練習をだろ。」



 ・

 ・



 糸成と奈緒がそんな話をしていた頃、奏太と美沙はちょうどお祈りを終えたところだった。

「...結局美沙さんは何をお祈りしたの?」

奏太は歩きながら美沙に尋ねた。

「んー?私はね。今まで通り何不自由なく部活が続けられますようにってお祈りしたよ。」

「そっか、いいお願いだと思うよ。」

奏太は美沙の話を聞きながら少し俯き、考え込んだ。先程美沙が見せたそぶりが頭から離れなかったのだ。




_(回想)_________


「美沙さん...?」

奏太は自分が質問したと同時に表情を変えた美沙のことを心配し、おそるおそる顔を覗き込んだ。

「...あ、ご、ごめん!な、何お祈りしよっかなって考えてただけだから何でもないの。気にしないで!私も後輩の指導は大切だと思うから是非お祈りして!」

「え、あ、うん。こっちこそごめん。何でもないならいいんだけど、...あ、みてほら。俺たちの番がきたよ!お参りしに行こう!」

______________





ー美沙さんはああ言ってたけど、何か明らかな違和感があった...美沙さんは何が引っかかったんだろう...

奏太は歩きながらもこのことが頭から離れず、上の空で歩いていた。

「...」

「...」

奏太が考え込みながら無言で歩いてしまっていた事もあり、場にはまた少し居心地の悪い空気が流れた。

ーま、まずい、気を抜くとまた気まずい感じになってしまう...何か話題、話題...!

奏太があたふたとしていると、美沙は少し考えてから話し始めた。

「ねえ。ソウタくん。」

「えっ!?」

奏太は突然名前を呼ばれたことに少し驚いてから返事した。

「今から山登らない?」

「...はい?」

 突然の提案に奏太は少し困惑した。

「やま?やまって?」

「うん。もちろんここの神社の山だよ。まだ時間結構あるし、だめ?」

美沙はそう言って近くにある石段を指差した。美沙の言う通り、この神社はちょっとした山の麓に位置しており、地域のちょっとしたハイキングコースになっている。

「...も、もちろんいいよ。行こう。」

奏太は美沙の突然の誘いに相変わらず困惑しつつも同調した。こうして、奏太と美沙は石段を登り始めた。



 山は石段がかなりたくさんあり、山登りは結構過酷だった。最近は音楽室で座ってひたすら練習することが増えたためか、結構息が上がった。登りながら、奏太は美沙に一つ質問をした。

「ミサさんは、いつもこの山を登ってるの?」

「最近は部活が忙しくて登ってなかったけど中学の頃は時々登ってたかなあ。」

美沙は一生懸命登りながら答えた。

「そうなんだ。すごいね。俺初めて登ったよ。」

奏太は息を切らしていることをバレないように踏ん張りつつも、スイスイと登っていく美沙の後ろ姿を見て感心した。

ーミサさん、吹奏楽部だったしスタミナあるのかな。



「...あ、ほら!みて!」

「え?」

しばらく登ったのち、美沙が息を切らしながらはしゃぎ出した。

「うわあ...!」

美沙の指差す先に目を向けると、そこには綺麗な景色が広がっていた。

「俺たちこんな登ってきたんだなあ...」

眼下に広がる景色は奏太たちの住む町が広がっており、いつも見ている家々がまるで小さく感じられた。

「凄いでしょ?私嫌なことがあったときはこの山を登るんだ。こうやって高い所から広い町を見下ろすと、自分の悩みがちっぽけなものに感じられてきて、元気が出るの。登ってくるのだって、登る間はしんどいけど、登り切るとこんなに綺麗な景色が見られるでしょ?だからしんどいことも頑張れば、必ず素敵な景色が見れるって感じて頑張ってみようって気持ちになるの。」

「...やっぱりさっき俺なんか変なこと言っちゃった?」

奏太が美沙の話を聞きながら恐る恐る尋ねると、美沙は慌てて否定した。

「いやいやいや!!違うよ!大丈夫だよ!今日は嫌なことがあったから登ってきたんじゃなくて!いつもみたいにナオとお参りに来てたら登らなかっただろうから登ろうかなって思って!あの子、山登り嫌いだから普段の初詣では登らないんだ。」

「なんだ、そうだったんだ。それじゃここには()西()さんとも来たこと無かったの?」

「そうだよ。...ソウタくんと来るのが初めてかな。」

美沙はニッコリ笑って答えた。その表情を見て、奏太は思わず見惚れてしまった。

「そっか、俺も初めて登ったけど、山の上から見た景色がこんなに綺麗なんて知らなかったよ。ありがとう!」

「ふふ、山登りしんどいから嫌って思われるかと思ったけど大丈夫そうで安心した!ナオのわがままに付き合って私と2人で参拝してくれたお礼になったらよかったな。」

「...も、もちろん!楽しかったよ!!」

奏太は美沙の方を見て何度も頷いた。

ーミサさん、山なんて登らなくても、俺は君のおかげで新年早々胸がいっぱいだよ。本当にありがとう...!



 しばらく景色を眺めたところで、美沙がふと奏太に質問をした。

「そういえば結局ソウタくんはさっきなんてお祈りしてきたの?」

「ああ。俺は全国大会で1位獲れますようにってお祈りしてきたよ。」

奏太の答えを聞いて美沙はクスッと笑った。

「ソウタくんらしいね。」

「でしょ。」

奏太はもう一度眼下の景色を眺めてからつぶやいた。

「全国1位は先輩たちも一度も達成できなかったことだし、それを成し遂げるには今までのどの先輩たちよりもたくさん練習しなくちゃいけないと思う。それはきっとしんどくて苦しいことだと思うけど、今日改めて思った。しんどくても諦めずに続けることができれば、きっと1位を獲った時に見える景色は素晴らしいものなんだろうって。」

美沙も奏太の話を聴き、微笑みながら無言で頷いた。

「改めてこれからの練習頑張ろう!」

「うん!」

こうして美沙と奏太は改めて練習への気合を高めるのだった。この後しばらくして別行動をとっていた4人は合流し、この日の初詣は解散となった。奏太と糸成が帰る途中で大喜が合流したが、もうすでに参拝を終えたことを伝えるとしょんぼりして帰った。


 後日、奏太は奈緒に美沙のおみくじに何が書いてあったか確認したが、“次第に好転”と、自分と同じで特に面白くないものだった。あんなに焦らされて結果を聞かされた奏太の呆然とする顔を見ながら奈緒は決まり悪そうに苦笑いしながら目を逸らした。奏太の興味を引いて面白がっていただけだったようで、奏太に怒られ、流石に反省するのだった。

次回からは再びマンドリン部に戻り、練習や演奏の様子を描いていきます。

第13章は今回でおしまいです。キャラクター紹介を挟み、次回からは第14章となります。

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