第99話「参拝」
「え、あホントだ」
奈緒に指摘され、美沙は自分の引いたおみくじが“凶”だったことに気づき、少し恥ずかしそうに頭を叩いた。
ーかわいい。
そんな美沙の様子を見て奏太は無言ながら心の中でそう唱えた。奈緒はそんな奏太の気持ちを知っているため、奏太のそんな様子を横目に見ながら何かを企んだような顔でつぶやいた。
「あっ!ミサ!確かに総合運は凶だけど見てここ!」
「え?」
「ほら!恋愛運!こっちは割といいじゃん!よかったねミサ!」
ーえ?恋愛運?つまりミサさんの恋愛運?なにそれ気になる...
奏太はそんな二人のやりとりを横で聞きながら気になっていた。
ーで、でも...ミサさんになんて書いてあるかなんて聞いたら...
奏太は自分から美沙に恋愛運を聞いては自分がミサのことが好きだということがバレてしまうのではないかと思い、反応することができなかった。
ーどうする?聞くか?それとも見せてもらうか?でもそれじゃ自分がミサさんのこと好きだって言うようなもんじゃねえか!
「おみくじは運が悪かったら結んどくんだっけ?」
奏太が頭の中で迷っているうちに、美沙はそう言っておみくじを結ぶ場所を探し始めた。
「諸説あるけどどっちでもいいはず。」
「へーそっか。じゃあ今回は結んでおこっかな。」
糸成に助言され、美沙は穏やかな顔で近くにあった木に結び始めた。
ーああ〜!!!結ばれたらなんて書いてあったかわかんなくなるじゃんか!!
美沙が結び始めたのを見ながら奏太の心内はパニックだったが、もう遅かった。
ーおみくじが見れない...としたら、高田さんから聞くしかないな。なんとかして高田さんと2人きりにならないと...!!!
「結び終わったよ!みんなは持って帰るの?」
「うん。」
「俺も」
美沙がおみくじを結び終えると、奈緒はキョロキョロし始めた。
「そいじゃ!!初詣のメインイベントも終わったし!早速出店巡りに移ろっか!」
「おいおい、おみくじがメインイベントって、まだ参拝してないだろ。」
奈緒の提案を聞いて糸成は呆れて指摘した。
「いいのよ参拝なんて後で!先になんか食べようよ!」
「ナオはいつもこうなのよ。」
美沙も呆れてはいたが慣れた感じだった。
奈緒のこの提案には実は企みがあった。
ーフッフッフ。私には考えがあるのよ!私とミサはいつも気が合う親友だけど、出店で買うものはいつも違う。だから出店巡りをする時には食べるものが違うのよ!そこで!!二手に分かれて買い物に行くことを提案すればイトナリくんと二人っきりになれる!!ミサもきっと私の真意に気づいて気を使ってくれるし急接近の大チャンス!!何が“休息が吉”よ!今年こそは積極的になるって決めたんだから!!
奈緒の考える通り、美沙と奈緒はそれぞれ好きな食べ物が違うため、いつも屋台を巡る時には二手に分かれる癖があった。前の花火大会の際にはそれがきっかけではぐれていたのだが。
「ね、ねえ。」
奈緒は早速別行動の提案に移った。
「屋台巡りなんだけどさ、二手に分かれない?」
「二手に?」
糸成が疑問を持ったが、奈緒の真意を汲み取った美沙がすかさずフォローした。
「それいいと思う!食べたいもの人によって違うだろうし、一旦別行動で!」
ーミサ、ナイス!
奈緒は美沙の方を見て糸成たちにはバレないように目でお礼の合図を送った。美沙もそれに気づき、ウインクした。
「え?」
「じゃ、私とイトナリくんのコンビと、ミサとソウタくんのペアにしよっか!」
ーウフフ。これで自然にイトナリくんと2人きりになれるし、ソウタくんもミサと2人になれてウィンウィンでしょ?私の名案に感謝しなさい...
奈緒はそう言って得意げな表情で奏太の顔を見た。
しかし、奏太はそれどころではなかった。
ーえええええ!!!?いきなりミサさんと二人っきりなんて心の準備できてねえよ!!!
奏太がそんな風に内心パニックになっているとは全く気づかず、美沙は奏太の顔を見てニッコリと笑ってみせた。
「ソウタくん、何買う?」
「え、あ、えっと...」
「唐揚げ...」
「私も」
結果、奈緒の提案通り二手に分かれて行動することになった。
奏太と美沙は奈緒たちと別れた後、屋台で食べたいものを買った。ベンチに座り、奏太が早速唐揚げを食べ始めると、美沙がスマホを覗き込んで言った。
「今ナオから連絡が来てね、“買い物もう少しかかりそうだから先に参拝行ってて”って」
「え?そうなの?」
奏太はビクッとして慌てて返事をした。美沙は苦笑いして答えた。
「うん。多分ナオ、せっかく会えたから今日は春日くんとまわりたいんだと思う。春日くんには“ミサたちもう少しかかるみたいだから一旦二人でまわってよう”とでも言ってあるんじゃないかな?」
「...なるほど。」
奏太は美沙の考えを聞いて思わず納得した。
「ごめんねソウタくん、せっかく春日くんとまわるつもりだったかもしれないけど、前に話した通りナオ春日くんのこと好きみたいだから協力してあげてくれると嬉しいな。」
美沙はそう言って奏太の方を見て申し訳なさそうに頼み込んだ。
「い、いやいや!全然!俺だってあいつと回るのなんて何回目かわからないし!全然構わないよ!それより俺たちは俺たちで楽しもうよ!俺だってミサさんとまわれると嬉しいし...」
「えっ?」
「あ、いや、し、新鮮だし!ミサさんとまわったことなかったから新鮮だなーって思って嬉しくなってさ、」
奏太は一瞬変なことを言ってしまった気がして、慌てて誤魔化した。
「ああでも確かに私も新鮮かも!私も最近はナオと来ることが多かったから。」
美沙は奏太の答えに納得してニッコリ笑った。そんな美沙の笑顔を見ながら奏太は密かに顔を少し赤らめた。
ー高田さん、自分のためもあるんだろうけど、俺のことも考えてくれたんだろ...?お互い新年最初のビッグチャンス、有効に活用しよう...
こうして奏太たちは改めて神社の中をまわり始めた。
「まずはお参りだな。」
「そうだね。うわっ、相変わらずすごい人だね。」
奏太たちが本殿の近くに着くと、そこは多くの参拝客で溢れていた。元旦の真っ昼間、やはり多くの人が新年のお参りに来ているようだった。本殿までは行列ができており、実際にお参りができるようになるまでは少し時間がかかりそうだった。
「...」
「...」
ー何やってんだ俺!!!“次第に好転”、おみくじを信じて今年こそは積極的になるんだろ...!!
二人で列に並ぶと生まれる空白に奏太は悩んだ。
ーいつもそうだ、俺はミサさんと二人っきりになると緊張で何を話していいか分からなくなる...!!
奏太は平静を装いつつも、心内はパニックであった。ドキドキする心臓を押さえながら隣に立っている美沙を横目に見た。美沙は穏やかな表情でじっと前を見ていて緊張している奏太の目からは随分と落ち着いて見えた。そんな美沙を見ながら、奏太は話題を絞り出した。
「ね、ねえ。ミサさん。」
「なに?」
ガチガチな奏太とは裏腹に、美沙はやはり驚くほど落ち着いていた。
「美沙さんは今から何をお祈りするか決めた?」
奏太は自分の心臓の音が美沙に伝わらないようにはやる気持ちを押さえながら恐る恐る質問した。
「お祈りかー、そういえばまだ決めてなかったなあ〜」
美沙はそう言って口に指を当てて少し考えるような仕草を取ると、奏太の方を見て少し照れるように苦笑いした。
「ソウタくんは?」
「俺か、」
奏太は聞き返されて少し考えてから、答えた。
「俺は、マンドリン部に後輩が沢山入るように祈るつもりだよ!」
「あ、...後輩、ね...」
「ああ!俺たちの代になったときに上手な後輩がいっぱいいると頼もしいからな!美沙さんは吹奏楽部だったしやっぱり後輩の指導とか得意だっただろ?」
「う、うん、確かに大事だよね...」
奏太の話を聞いた途端、美沙の表情は少し曇ったような気がした。奏太もそれをすぐに察知し、キョトンとして尋ねた。
「美沙さん...?」
美沙の恋愛運が気になって仕方がなかったのも束の間、奈緒の策略により美沙と二人っきりになった奏太。勇気を出してアピールしたつもりが年明け早々なんだか雲行きは怪しくて...




