第97話「年内最後の部活」
2022年12月24日、西田高校の音楽室では、マンドリン部の部員たちが集まり、ささやかなクリスマスパーティが行われていた。終盤に差し掛かると、パートごとという座席の区分は大分曖昧になり、それぞれが仲のいい人同士で集まって話をしていた。2年生が割り勘で購入したケーキが全員に渡り、それを食べながらそれぞれ談笑していた。
「それにしても...」
中川はモグモグとケーキを食べながら呟いた。
「ー男子これだけか、なんか少なくないか?」
中川に言われて、奏太たちは周りを見渡した。
「ほんとですね、ダンとマナブがいないのかな?」
確かにその場にいる男子部員は、2年生の益田、中川、そして1年生の奏太、糸成、大喜であった。
「ダンはいなそうだなって思ってたけど、マナブがいないのは意外だったな。」
糸成もそう言ってケーキを口に放り込んだ。
「マナブ、意外と大人しそうに見えて意外と付き合ってたりするのかな...?」
大喜はそう言って、少し悔しそうにしていた。
「まあ誠実そうだしな。」
「俺らだって誠実じゃんかよ!!」
「お前は一番ない!!!」
悔しがって吠える大喜に糸成は冷静にツッコミを入れた。大喜は遅刻癖があり、ぶっちゃけ誠実とは程遠い方だった。
「まあでもいずれにせよ、俺はこうしてクリスマスをみんなで過ごすのもいいかなって思いましたよ。」
奏太は二人のやりとりを見てクスッと笑うと、そう言ってニッコリと笑った。
「そうか?」
奏太の方を見て、反応したのは益田だった。
「はい!これはこれで楽しいです!!」
「...それなら2年生一同企画した甲斐があったよ。」
益田はそう言って口元を緩めた。
「来年も参加したい?」
横から話に入ってきたのは奈緒だった。横には美沙もいた。
「え?え、え...えっとぉ...」
自分の好きな人を知る奈緒と、自分の好きな人である美沙を前にして、奏太はどう答えていいのか一瞬分からなくなってしまったが、少し慌ててから落ち着きを取り戻して答えた。
「ああ。俺は楽しかったからな!」
「ふふふ、何よ強がっちゃって!!」
奈緒はそう言って奏太をからかった。
「えー、みんなちゅうもーく!」
しばらくして、水島が前にでて司会を始めた。
「これにてお時間が近づいて参りましたので!“西田高校互いの傷を舐め合うクリぼっちパーティ”はお開きにしたいと思いまーす!」
「そんなタイトルだっけ?」
「2年生はもう今年でこの時期に部活をするのは最後ですが、1年生の皆さんはぜひ、来年はリア充になって、この会に参加することのないように頑張ってくださいね!!」
「余計なお世話だろ!」
「私も来年はリア充できるように今のうちから頑張るぞ!!」
「来年は受験生だろ」
「うげ」
水島のグダグダの司会の一つ一つに、益田がすかさずツッコミを入れ、一同からは笑いが起こった。
「そして、最後に!!明後日26日は本年最後の部活となります!午前午後、みっちりありますが、午前中にはいつも通り合同コンサートの単独練習、午後はいよいよ“仮面”の合奏です!1時間やります!」
「ついにか...」
“歌劇「仮面」序曲”、西田高校マンドリン部が2月の地方予選と7月の全国大会の演奏曲に選んだ楽曲である。12月中に合奏が開始されるという話で、実際に12月最後の練習で最初の合奏が行われるというのだ。
「合同コンサートもあるけど、地方予選ももうすぐだもんな。」
「ああ、クリスマスなんて浮かれてらんねえ!恋愛面で非リアでも、俺たちはマンドリン面ではリア充だ!!最初の合奏、いいスタートダッシュが切れるように頑張ろうぜ!」
糸成と奏太はそう言って顔を見合わせて気合を入れた。横で話を聞きながら奈緒はジト目で鼻を鳴らした。
「“マンドリン面ではリア充”って...なんかカッコわる」
「そう言うなって!」
こうして、2022年の“西田高校マンドリン部クリぼっちの会”は大盛り上がりのなか幕を閉じた。
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そして、12月26日月曜日、25日の部活休みを挟んだこの日は予告通り、合同コンサートの練習と“仮面”の初合奏が行われた。楽譜が配られてから半月以上たっているとはいえ、難易度の高い楽曲に、1年生をはじめ、多くのメンバーがかなり苦戦した。先生もそんなことは承知なので、練習が終わってから一言、
「年明けから本格的に練習していきますから、各自自主練をしておいてください」
と言って練習が終わった。
そして練習が終わった後、何をしたかというと...
「おーっおそーうじっ!!おーっおそーうじ〜っ!!」
そう、ノリノリでほうきを動かす水島が口ずさんでいる通り、大掃除である。音楽室は普段、放課後の掃除の時間に担当のクラスの生徒が掃除してくれるため、ある程度片付いていたが、部室はそうではない。4月の時点でも随分と汚かったが、思い返してみるとそれ以降も、一度も掃除をしていないのだ。そこで、2022年の部活最後の日であるこの日は、練習を早めに切り上げて大掃除を行うことになっていた。
「う、うわー汚い...」
雑巾を持ちながら2年Bassの杏実は顔をしかめた。彼女が掃除をしていたのは楽器が置いてある棚だったが、埃が溜まってしまっていた。
「ねえ中川くん、ここ汚いから代わりに拭いてくれない?」
「なんでだよ!!掃除って汚いところを綺麗にするもんだろ!甘ったれんな!!!」
杏実に仕事を押し付けられそうになり、中川は手を動かしながらツッコミを入れた。
「...ん?なんか落ちてる...」
掃除をしながら何かが落ちていることに気づいた奈緒はそれを拾い上げた。
「う、うわっ!!こ、これ靴下じゃん!!」
その正体に気づいた奈緒はびっくりして思わず落としてしまった。
「だ、誰のよ〜...」
「ん?ああそれ浦田先輩のだよ。」
奈緒が落とした靴下を見て、説明したのはちょうどそこを通りかかった益田だった。
「え?そうなんですか?」
「ああ。ったく3年生も部室に私物を置くのはいいけど置いたまま引退すんなよなあ...!」
ー私物を置いたまま引退する3年生も大概だけど女子の靴下見て誰のかわかる益田先輩もどうかと思うなあ。
その靴下は3年生Guitarパートの浦田紗耶のものだった。彼女は中学生の頃はソフトボール部に所属していたアグレッシブな先輩で、細かいことは気にしないタチだった。
「うわっ、こっちはなんか分厚い伝記出てきましたよ!」
学が見つけた伝記は随分と埃を被っており、紙もあちこち折れてしまっていた。
「えっ?それ誰のよ...」
「それは多分加藤先輩のものね。」
「また3年生か!!」
加藤亜子、Celloパートの3年生で読書が趣味。好きなジャンルは伝記なのでまあ彼女のものと見ていいだろう。
「こ、こ、こっちからは...変なカツラが出てきました...!!!」
遥花が怯えながら持ち上げたのはピンク色の長髪のカツラだった。
「それは多分高橋先輩だな。パリピだし。」
ーパリピのイメージなんか雑じゃない?
高橋和樹、Bass3年生、部長、パリピ。そのカツラは高橋が1年生の時に三送会の劇で使ったものであった。
「これ結構楽しいな!俺らが今まで気づかなかった先輩たちの私物が出てくると先輩たちのことが思い出されるし!」
だんだん楽しくなってきて奏太は掃除のペースを上げた。
バット!メガネケース!数IIIのチャート!野球選手のサイン!公民のプリント!漫画!ちょっとだけ残っている賞味期限切れのお茶!!
誰のかわからない私物が大量に発掘された。
「やばいものだらけだな...」
「これ全部3年生のものなんでしょうか...」
奏太たちは発掘されたものを見て少し引いた顔でまじまじと見つめた。
「あ、ごめん!それ私の!!」
そう言いながら走ってきたのは水島だった。
「ごめんごめん!」
水島がそう言って持っていったのはお茶のペットボトルだった。
「一番ヤバいのアンタのかい!!」
結局全部捨てた。
こうして、1年分のゴミをとり、部室の掃除を終えると、西田高校マンドリン部の年内の活動は終わった。次の活動は冬休み明け、1月8日の合同コンサートのまさに直前だ。メンバーの多くは楽器を持ち帰った。気分を新たに迎える新年は一体どんな年になるのであろうか。
書き終えて自分でもびっくりしました。
クリスマス会なのに奏太と美沙進展無しかいっ!!!
次回からいよいよ2023年のお話になります。




