第96話「クリスマスパーティ」
「ねえ、ソウタくん。24日って空いてる?」
「え?」
ある日、美沙からこう尋ねられ、奏太の思考は停止した。
ーえ?24日って...今月の?今月って、12月だよな、つまり12月24日?...どうしてそんなことをきくんだ?
自分が想いを寄せている人からこんなことを聞かれたら、そりゃあ誰だって奏太と同じような反応になるだろう。というか想いを寄せていなくともだ。不意をつかれたとかそういう問題ではなく、純粋に美沙の質問が奏太の思考のキャパを超えたのだ。
しかし奏太もこんな話を無視するわけにはいかない。混沌とした頭の中を整え、あたかも普通のように振る舞いながら答えた。
「空いてるけど、ど、どうして?」
奏太がおそるおそる答えると、美沙は静かに微笑んで言った。
「ほんと?よかった!実はね、24日にマンドリン部でクリスマスパーティを企画しててね、ナオが奏太くんにも声かけてみろって言うもんで!来ない?」
「え、あ、ああ。クリスマスパーティか、うん。行けるよ。」
奏太は美沙のそんな回答を聞いてやっと心を落ち着けると、冷静に答えた。もちろん一番期待していた答えではない。そう言う意味でのガックリした気持ちと、心の準備のできていないうちに美沙からアプローチをかけられていたのではないことへのホッとした気持ちと半々であった。
「あ、ナオ!行けるって!」
後ろから奈緒がやってきたのを見て美沙は振り返って手を振った。奈緒は二人の方を見て手を振り返すと、少しニヤニヤしながら奏太の顔を見た。
「なんだ、奏太くんもクリぼっちなんだねえ!大丈夫だよ。非リアなら非リアなりにみんなでパーティ楽しもうよ!」
「...そりゃどうも。」
奏太はナオの馴れ馴れしい態度にうんざりして軽く睨みつけながら適当にあしらった。
「なんだよ〜せっかく誘ってあげてるのに不機嫌だなあ〜!そいじゃ!奏太くんの方から糸成くんにも声かけといて!!」
「それが目的かよ!!」
美沙に自分のことを誘うように仕向けた奈緒の真意が糸成も呼び込むことであるということに気づいた奏太は大きな声でツッコミを入れた。しかも奈緒が自分から声をかけてくるのではなく、美沙に声をかけさせたのも自分の反応を見て面白がってるに違いないと考えたら、余計に馬鹿馬鹿しくなった。とはいえ、マンドリン部でのクリスマスパーティというのは少し興味をそそられるのも事実で、あっさり自分の心が動いてしまったのもまた、少し悔しかった。
「でもクリスマスパーティなんてどんなかんじでやるんだ?1年生だけ?」
奏太はクリスマスパーティの規模をそれとなく確認してみた。恋愛脳の奈緒のことだからひょっとしたら余計な邪魔のないように今名前の上がった4人だけで行うのかもしれないと思ったからだ。というのも奏太は一応奈緒と恋愛関連での協定を結んでいる身。ひょっとしたらパーティというのは建前で実際にはそれぞれが二人っきりになれるように仕向けるつもりでいる可能性もあるからだ。
「ああ、私も実は誘われたの。主催は2年生だよ。こないだ和田先輩から言われてね。2年生の中でそういう企画があがっててね、1年生も巻き込んで大々的にやるみたいだよ。練習が終わったら音楽室でお菓子とか飲み物持ち寄ってワイワイやろうって。」
「そっか。」
奏太はそれを聞き、奈緒の主催ではないことを知って少しホッとした。そもそも奈緒の主催でやるパーティなんて何があるかわからないと思ったからだ。
「それにしても和田先輩のことですっかり忘れてたけどもうそんな時期なんだなあ。」
クリスマスパーティと聞いて、奏太はしみじみと呟いた。和田の問題はなんとか解決したが、そのことやその前の県大会などの忙しさにしばらく頭がいっぱいでクリスマスとかそういうことはすっかり頭から抜けていた。
「うん。和田先輩も戻ってきて安心してパーティが開催できるね。」
「ああ。そう考えると楽しみだな。」
部内でのクリスマスパーティ、奏太にとっては初めての経験で、なんとなくワクワクしてきた。
そして、12月24日がやってきた。この日は練習から全体的にそわそわしていた。クリスマスイヴにも練習がある。部活としてとても忙しく、人によってはうんざりするのかもしれないが、奏太にとってはこういうのも青春の一つとしてありだと思った。先生も空気を読んで組んでくれたのかこの日の練習は午前中だけ、午後はボランティア演奏が終わり次第解散という形だった。いつもより早い時間に解散となり、それぞれがそれぞれのクリスマスを過ごすのである。
とはいえ、部員の大半は部室のクリスマスパーティに参加した。2年生がお菓子や飲み物を持ってきて飾り付けなどの準備をすると、水島が全員の前に立って話し始めた。サンタ帽を被り、ノリノリである。サンタ帽を被った水島は2年生なのになんだかいつもより幼く見える。
「哀しき非リアの諸君!今日はお集まり頂きありがとう!」
「非リアとか言うなって。」
水島のクセのある司会に益田が思わずツッコミを入れる。
「...そして、ご愁傷様です。」
「お前もだろ。」
水島と益田のテンポのいいやりとりに一同は思わず笑い声を上げた。
「でも、今日は同じ境遇の仲間だけがここにいます!“西田高校マンドリン部クリぼっちの会”!」
「イベント名そんな名前だったの!?」
単にクリスマスパーティと言われて集まった1年生たちは水島の言ったイベント名に思わずショックを受けた。
「そうよ!だから今ここに居ない部員はリア充です!」
確かに周りを見ると何人か姿が見えない者がいる。水島の言うようにクリスマスに予定のある者なのだろう。クリスマスに予定がある=リア充とは100%言えるかと言うとそんなことはないと思うが、突っ込まないようにした。
「残念ながら、2年生のメンバーは全員この場に居ますが、1年生は何人かこの場にいない人もいますね!本当に羨ましい!!」
「1年生マセてるな。」
「ねー」
2年生たちは水島のノリノリな司会を聞きながら1年生たちの顔を見てつぶやいた。
「ここにいる1年生の皆さんは本日は精一杯クリぼっちの会を楽しみましょう!そして、来年はこの場にいないようにしましょう!!」
ーこれ恒例行事なんだ...。
こうして水島のテンションの高い司会を合図に、西田高校マンドリン部のささやかなクリスマスパーティが開催された。
パーティの最初のうちは各パートごと座ってお菓子を囲みながら雑談をした。
「それにしても、てっきり和田先輩いないかと思ってましたよ」
奈緒がそう言うと和田はびくりとして返した。
「え?なんで?」
「だって先輩普通に付き合ってると思ってたんで。こないだだって...」
「うわ〜〜〜!!!」
和田は慌てて奈緒の口を止めた。
「違うって言ってるでしょ!あれは別にそう言うんじゃなくて!!私とアイツの間にはなんもないから!!だいたい今日のパーティに奈緒ちゃんを誘ったの私じゃん!!」
「え〜そうですけどお〜!怪しいなあ〜!!だいたい和田先輩が部活を続けるのを決めた理由が中川先輩の言葉ってのも引っかかるんですからね私は!」
奈緒は慌てる和田に揺さぶられながらニヤニヤと笑った。
「違うよ!誰があんな根暗男!」
和田はそう言って慌ててごまかすと、中川の方を横目に見た。中川も和田が自分の方を見ていることに気づくと、首をかしげた。それに気づいた和田は慌てて照れ隠しで中川を睨みつけた。
「...!」
「...?」
中川は和田に睨み付けられた理由が分からず奏太に尋ねた。
「なんだアイツ。ヤンキーか?」
「ははは。」
和田のいざこざでシリアスな話が終わったのでゆるい日常のシーンです。少しこうしたシーンを入れた上で次のフェーズに移っていきます。次回も少しクリスマスパーティの様子を描くつもりです。
水島曰く、2年生は誰もリア充はいないらしいです()
1年生はちらほらこの場にいないようですが、果たして誰なのか...




