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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第13章「合同コンサートを見据えて」
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第95話「コンミスとして」

 中川は教室で和田に声をかけ、部室まで移動した。和田と中川は同じクラスであった。

「どうしたの?中川くん。」

中川は不思議そうな目つきで自分の顔を見ている和田の方を向いて、本題を切り出した。

「和田、お前、本当にこのまま辞めちまっていいのかよ。」

「なに、突然。」

和田は中川の真剣な表情を見て、ただならぬ気配を感じ、答えた。

「言ったでしょ。私がこの部活にいても迷惑をかけるだけ。コンミスとして活躍するどころか、むしろみんなの足を引っ張っちゃってる。そんな状態で私が続けるよりも、ソウタくんみたいなやる気のある子達が今後引っ張ってってくれた方がいいって思ったの。」

「そんなことねえよ」

「え?」

これまでは中川は自分の退部に対しあまり異論を唱えなかっただけに、中川の気持ちのこもった反論は和田にとってあまりにも意外だった。

「改めて冷静に考えてみると、こんなのおかしい。俺は一度はお前の考えに納得しかけたが、俺は、自分の時に自分が勝手なこと言ったからって、自分の中の違和感を押し殺して、お前に嘘をついていたんだ!お前は部活に残るべきだ!!」

「残るべき残るべきって、そう言うだけで理由を言わないじゃない!それって残るべき理由なんてないってことじゃないの!?」

「違う!!...お前は前に、大会で自分がプレッシャーに負けて本来とは違う演奏をしてしまった、それで全体の結果に影響が出て迷惑をかけてしまった。だから自分は部活にいてはいけないんだ、他のメンバーのためにならないんだって言ってたが、そんなことない!」

「何が違うのよ!」


「つまりそれだけみんながお前の音を聴いてくれてるってことなんじゃないのか!?」

「...!」

中川の力のこもった意見に和田は一瞬口を止めた。


「それだけみんながお前に期待してる、お前の音を待ってるってことなんじゃないのか?」

「...でも、そうだとしても、それで私が出す音が間違ってたらそれはただの迷惑になっちゃうじゃない!」

「そうだよ。」

「...!?」

和田の言い訳に中川は真剣な表情で向き合う。

「その通りだ。でも、そうなんだとしたら、お前がするべきことは辞める事じゃない。コンミスとして全体に見合うだけの音を出す事だろ。」

「...そ、それは...」

中川の鋭い指摘に和田は一瞬口をつぐんだ。その隙を逃さず、中川は続ける。

「お前、前に俺が復帰する時言ってくれたよな。“初心者のお前にとって、音楽に詳しい俺のことは頼りになった”って...」

「...」

「だったら...!」

「これからも俺を頼れよ!!」

「...!!」

「コンミスとしてみんなを引っ張っていく上で自分の表現力にどうしても自信が持てないならいくらでも俺を頼ってくれよ!いい加減コンミスとしての自分に自信を持て!!」

中川はそう言って和田の肩を持った。和田は次第に涙を浮かべ始めた。


「県大会の演奏の直前に“踏ん切りがついた”って言ってくれた時、すごく嬉しかった。自分が演奏に参加できなくなってお前にコンミスをやってもらうことになってすごい負担を抱えさせちゃったと思ってたのが杞憂だったなって思った。なのに、大会が終わってむしろその自信が完全になくなった時にはどうなってしまうのかと思った。大会の結果が悪かったら諦めちまうような腑抜けだったのかと少し失望もした...」

「そ、そんなことない!!」

「ん?」

中川が静かに思いを吐露しているのを遮るように、和田は袖で涙を拭うと、今度は自分も中川の肩に手を置いて中川の顔をしっかりと見て真剣な顔で応えた。

「そんなことない!確かにあんたの言う通りだ!大会が終わった時、本当に悔しかった!でもその気持ちに蓋をして、自分の責任の方ばかり見ちゃった!でも、今やっとわかった!やっぱり私は悔しい!心の底から悔しい!自分たちより上手い強豪校に対しても、何よりプレッシャーに負けて自分の最大のパフォーマンスを出せない自分に対して!!」

「...!」

次第に元気を取り戻していく和田の顔を見て、中川は頬を緩めた。

「ごめん中川くん!私もう逃げない!だから、私を最強のコンミスにして!!」

「...喜んで!!」

こうして、和田は本来の活気を取り戻し、コンミスとしての自分を改めて肯定した。中川はそんな和田の顔を見て、ちょっぴりホッとした。


「あ、あわわわわ...す、す、すみません!」

「え?」

入り口の方から別の声がしたので驚いてみると、そこには顔を真っ赤にした奈緒がいた。

「お二人ってそういう関係だったんですね...お、お取り込み中失礼しました!!!」

奈緒はそう言って慌てて部室を出ると、飛び出して言ってしまった。

「なんだ?」

中にいた二人は奈緒がなぜ顔を真っ赤にして外に出て行ってしまったのか一瞬分からなかったが、自分たちが互いの肩を持っていることに気づき、冷静になってからやっと真意に気づいた。

「あ、はわわ...」

「顔近い!!不潔!!!」

「ぼへえなんで!!!」

和田も顔を赤くして中川の頬にビンタをした。中川は和田の強烈な一撃を喰らってものすごいスピードで後ろの壁にぶつかった。

「な、ナオちゃ〜ん!違うよ!誤解!誤解だから〜!!」

「えっええ〜!!!?キスを5回も!!?そんなにお熱かったなんて!!すみません!本当にお邪魔しました!!」

「そうじゃなくて〜!!!」


 その後、ちゃんと話してなんとか誤解は解けた。





 和田はその日の練習から無事に復帰を果たし、1stの後輩たちに謝罪とお礼を言い、再び元の練習に戻った。

「みんな、今までいなくて本当にごめん!改めてコンミスとして頑張っていきます!よろしくね!」

「はい!!」

和田が復帰し、今まで蔑ろになっていた1stのパート練習のスピードは劇的に上がった。次のコンサートまでおよそ1ヶ月。年末にかけて怒涛の練習が続く。

途中、中川が「腑抜け」とか「失望」とか、結構きついことをいう場面がありますが、不器用な彼なりの優しさの裏返しだと思います。中川、ほんと不器用な男。

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