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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第13章「合同コンサートを見据えて」
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第93話「1stの不安」

 合同練習から1日挟んで2022年12月12日月曜日、放課後の掃除を終えた奏太が掃除用具の片付けをしていると、奈緒が通りかかった。

「あ、奏太くん!」

「おー()()!」

()()!!」

 奈緒はいつも通り軽やかに奏太の間違いを指摘すると、掃除ロッカーの方を見て言った。

「掃除終わったとこ?糸成くんは一緒じゃないの?」

「ああ、あいつは今週は別の掃除当番なんだ。」

「そう、じゃあ部活私と行かない?練習のことでちょっと相談したいことがあるの。」

 奈緒はそう言って奏太の横に来ると、片付けを手伝った。

「いいよ。そっちこそミサさんは別?」

「そう、ミサは今週は掃除休みの班だから多分もう先に行ってるよ。」

「そっか」

 こうして奏太たちは、2人で音楽室に向かった。







 音楽室に向かう途中で奈緒が話を始めた。

「ねえ、今日のパート練てさ、私が当番なんだよ。」

「え?ああ、そうだったっけな。」

 奏太はぼんやりと考えながら生返事をした。

「てか今日も和田先輩来ねえのかなー、週末を挟んだし体調良くなってたらいいけど。」

「...そうよね。でさ、私前にパート練担当した時は散々だったから、どういう風に練習を進めていこうかで頭がいっぱいで、奏太くんはどういう風にパート練やったらいいと思う?」

 奈緒の言うように、確かに過去に奈緒がパート練習を担当したときは緊張から全く練習にならなかった。

「...そう言われても俺も上手くできてたわけではないしな...」

 奏太は苦笑いしてそう答えた。奏太はパート練でメトロノームに合わせて叩くことはできていたものの、メンバーの音をしっかり聴いてアドバイスをするということはできていなかったのだ。

「ねー、先輩とかカナちゃんはメトロノームに正確に合わせて叩きながら演奏も聴いて改善点を見つけてアドバイスできるのすごいよね!私どうしたらいいかわからなくてさ...」

 奏太と奈緒がそんなことを話しながら音楽室の前に着くと、部室から一人の女子生徒が出てくるのが見えた。

「あれ?...先輩?」

「あ、二人とも...」

それは和田だった。奏太たちに気づいた和田は控えめに挨拶をして建物の外に出てきた。

「和田先輩!!今日は来れたんですね!!」

「よかった!心配しましたよ〜!」

 奏太たちは和田の顔を見て安心し、笑顔でそう言った。

「あ、いや。ごめんね。」

 和田は予想以上に喜んでいるふたりを見て、慌てて口を開くと、元気のない様子で説明した。

「...悪いけど、私今日も練習には参加できないんだ。」

「...え、そうなんですか?」

「うん...ちょっとまだ万全じゃなくてね。悪いわね、みんなには負担かけちゃってるけど、1stをよろしく頼むわね。」

 和田はそう言って靴を履くと、二人の顔を見て優しく微笑み、その場を立ち去ってしまった。

「...あ、ちょ、先輩!!」

 歩き去ってしまう先輩の後ろ姿を見て、奏太たちは困惑した表情で顔を見合わせた。

「...なんだ?なんか騒がしいな。」

 彼らの話し声を聞いて建物の中から中川が出てきた。

「あ、中川先輩!今、和田先輩が...」

「ああ、知ってる。今中でちょっと話してたんだ。」

 奈緒の不安げな言葉にも中川は冷静な顔でそう答えた。

「和田先輩、今日も練習出れないって...」

「わかってる。心配しなくても大丈夫だ。」

「...大丈夫って...」

「お前たちは今は練習に集中しろ。」

 中川の不自然に冷静な様子に不信感を抱き、奈緒は何度も追求したが、中川は気しなくていいの一点張りだった。



 ・

 ・

 ・



「...それで、和田先輩は体調とか悪そうだったの?」

「うーん、確かにあまり元気がなかったけど、風邪っぽい感じとかではなかったような...」

1stのパート練では中川の言う通り集中して練習が行われた、...という訳ではあるはずもなく、奏太と奈緒が見たことについて、練習そっちのけで話しあったり予想しあったりする時間が続いた。

「...でも今日居たってことは学校には来てるってことなんだよね?和田先輩。」

「うん、多分授業は普通に受けてたんだと思う。」

「それで部活だけやらずに帰るってことは、体調が戻ってきたから学校に来たけどやっぱり悪化したから帰ったとか、あるいは...」

「うーん...」

 和田の真意について奈緒たちは色々な考えを巡らせたが、実際のことを聞いてみないことには確実なことは言えないのであった。このようなことを考えていたがために、パート練には全く身が入らなかった。






 その後の合奏では中川の指導で行われた。西田高校の1、2年生で演奏する単独ステージのポピュラー曲の練習だ。練習を始めてすぐ、中川は叩くのをやめて演奏を中断させた。

「1st、今日はいつにも増して力がないな。本番まであまり時間がないんだ。そんなことじゃダメだろ。今は練習に集中しろ。」

「...そんなこと言われても...」

 いつにも増して厳しく指摘する中川の方を見て奏太が呟く。周囲では他のパートの生徒たちも不安げな表情で1stの方を見つめていた。

「...他のパートのメンバーもなんか集中できてないな。音がいつもと全然違う。」

 中川は全体を見渡し、心配そうな表情でため息をすると、口を開いた。

「もういい、今日の合奏はここまでにします。先生が来るまで残りの時間は個人練をしててください。」

 中川はそう言ってから奏太の方を見ると言った。

「あ、あとそれから、奏太。あとで少し話があるから練習終わったら寄ってくれ。」

「...はい。」









 奏太が中川の言われた通り練習後に彼の元を訪ねると、中川は少し神妙な面持ちで口を開いた。

「...奏太。お前、次の演奏会、コンマスやらないか?」

「...え?」

 先程の練習の様子をひきずるような空気感が立ち込める中発せられた中川の思いもよらぬ提案に奏太の驚いた声がこだました。

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