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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第13章「合同コンサートを見据えて」
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第92話「初めての合同練習」

 2022年12月10日、この日は土曜日だった。部活が再開してから3日目となるこの日の練習は西田高校ではなく別の場所で行われた。


「よーお!お前ら!1ヶ月ぶりだな!元気か!!」

「...()()()

()()()()()()!!相田快人!!それより、女子もきてんだろ!?ミサたんどこだ?」

「テメこのやろ、まだ会うの2日目の癖に!!俺もまだ呼んだ事ないのに()()()()呼びとは生意気な...」

 奏太がイラついた表情で言うのをよそに、相田快人はキョロキョロとあたりを見渡した。

「おっ!はっけーん!やっぱいいな!()()()!」

「“()()()()()()()”を“()()()”と略すな!!!」

 快人は美沙を見つけると、スキップで駆け寄って行ってしまった。


 そう、この日の練習場所は雄ヶ座高校。この日は合同コンサートに向けた合同練習ということで4校の生徒が集まっていたのだ。11月の県大会以来、およそ1ヶ月ぶりに顔を合わせた奏太たち、個性豊かなメンバーたちが集まり、最初の合同練習が始まろうとしていた。

「...あれ?ソウタくん、今日は1年生だけか?」

 横から話しかけてきたのは郷園中高の旋だった。

「あ、セン。...そうなんだ、和田先輩、県大会終わってから部活きてなくてさ。」

 奏太の言う通り、和田はこの日も練習には参加していなかった。この日で3日連続となり、流石の奏太たちも少しソワソワしていた。

「そうか、1年生だけだと不安も多いだろう。今日はとりあえず他校の先輩や僕を頼ってくれ。」

「...悔しいけどそうするよ。」

 奏太は旋の親切な表情を見て答えた。その様子を遠くから横目で見て、中川は何か考えている様子だった。





 しばらくするとパート練習が始まった。

「それではパート練習を始めましょう。今日のパート練を担当する雄ヶ座高校2年コンマスの水谷と申します。他校の1年生は改めてよろしくね。」

「ハハハ、流石に人数多いな。」

 2年生たちを中心に周囲を見渡して苦笑いをしていた。パート練習に参加していたのは4校の1stだけだが、それでも30人近くいた。


 ー1stだけでこんなに...


 奏太もキョロキョロと見回して少し緊張した。





 パート練習は丁寧に行われた。まずは1、2年生の合同合奏曲の練習から、水谷の叩く音に合わせて全員で音を出す。

「はいストップ。30人もいると流石に少し乱れますね。」


 ーやばい、みんな上手っ...。私がまだ弾けるようになってない場面も軽々と弾いてる...


 奈緒は周囲の音に驚き、少し自信を失ってしまっていた。


 ー今まで一度も2年生が一緒に弾くパート練って経験したことがなかった、それはそうなんだけど、それを除いても1年生もみんな上手...。1年生ってみんなこんなに弾けるの...?


 今まで西田高校で経験してきたパート練習といえば、和田が前で叩き、1年生が演奏するのが普通だった彼らにとって、他校の1、2年生が混ざり合う状況でパート練習を行うこの時間はあまりにも衝撃的だった。練習を開始したばかりの曲のパート練で周囲のこの実力、それは彼らにとって初めての経験だったのだ。


「澤田くん、今のとこ、半拍早い。」

「え?...あ、ありがと」

 突然前にいた旋から指摘され、敦は少し面を食らった様子で返事をした。

「ソウタくん、13小節目の3拍目ウラ、ドの音のナチュラルが抜けてたよ」

「...な、わ、わかってるよそれくらい!!今のはちょっとミスってただけで...!」

 横に座っていた奏太にも指摘をして鬱陶しがられている様子を観察しながら敦は冷静に考えていた。

 ー剛田旋、やっぱりすごいな、もう完璧に弾けてる上に誰がどこを間違えてるかまで聴いてる余裕、ソウタが憧れてる分、実力は本物か...。


「...それから来海さんも、同じとこミスってた。」

「え!?私こんな奴と同じとこ間違えたの...!?」

「“こんな奴”とか言うなよ!!」

 自尊心が高く男子を毛嫌いしている女子生徒、江沢高校の来海璃子(くるみりこ)もこの指摘には不意をつかれた様子で慌てて楽譜に書き込もうとしてペンを落としてしまっていた。

 旋はこのように、音出しの度に周囲の生徒のミスに気づき、訂正をしていた。もはやパート練を仕切っている雄ヶ座コンマスの水谷よりも練習を手助けしている様子だった。


 ー剛田旋、さすがだな...。でも、自分の郷園高校の仲間には何も指摘しないのは何故なんだろう。普段の練習ですでに直ってるとかそういうことなのかな..?

 敦は練習しながら終始旋のことを観察していた。





 パート練習の後には全員での合奏練習があった。この練習では中川が指揮者を担当し、練習を取り仕切る。

「全体で100人以上になる合奏を指揮できて光栄です。自分は普段は楽器を持って演奏はしませんが、その分指揮者として皆さんといい合奏を作っていきたいと思います。」

 中川はそう挨拶をしてから合奏練習を開始した。

 合奏練習では中川のことを立ててなのか、パート練の時ほどではなかったが、周りの生徒への旋の指摘は続いた。他のパートの音や拍にも言及し、合奏練習の質をあげるように惜しげなくアドバイスをしている様子だった。





 こうして、最初の合同練習が終わった。楽器を戻すため西田高校に帰る途中で、奏太たちは練習の様子について話をしていた。

「他校の練習ってすごかったな。」

「うん、私なんてみんなが上手くて自分の自信がなくなってきたよ。」

 奈緒はそう言って自分のマンドリンを見つめた。

「1stは人数も多くていろんな人がいたんだろうね。でもみんなができるってことはナオもできるようになるよきっと。」

 美沙がそう言って奈緒のことを励ますと、奈緒は顔をあげて答えた。

「ありがとうミサ、でも低音系もいつもより練習の人数が多くて新鮮だったでしょ?」

「うん。Celloもあんなにたくさんで練習することはなかったから楽しかったよ!ねっハルカちゃん!」

「えっ!?う、うん!Bassもいつもはアミ先輩のマンツーマン練習だったからコントラバスがいっぱいの練習だったよ!他校の先輩の指導ですごく参考になった!」

 突然話を振られて遥花はあたふたしながら答えた。

「それ、遠回しにアミ先輩の指導ディスってない?」

 遥花の話を聞いてニヤニヤしながら指摘する糸成の言葉を聞いて遥は顔を真っ赤にして慌てて否定した。

「えっ、ち、違うよ!!そ、そんなつもりないよ〜!!」

「ちょっと春日くん!ハルカちゃんそういうの本気にしちゃうから からかうのやめてあげてよ!!」

「ハハハすまんすまん!」


 ーミサ、アンタも微妙にハルカちゃんのことディスってないそれ?




「...でも、他の学校の先輩のパート練って実際新鮮だよね。」

 横で口を開いたのは学だった。

「そっか、2ndは特にね」

「うん、2ndは先輩がいなくて今までパート無所属の中川先輩の指導ばっかだったから実際に2ndで演奏している先輩の指導って初めてでね。」

 学はそう言ってこの日の練習を思い返した。

「...“先輩がいない”か...」

 学のふとした言葉を横で聞きながら奏太は空を見上げて考え込んだ。

「...和田先輩、どうしたんだろうな...」



 こうして、奏太たちはその日の練習を振り返りながら西田高校に戻るのだった。

4校合同にしたことで、冷静に考えると100人を超える(いやそれどころか下手したら150人近いぞこれ)ことに気づいて結構すごい演奏会なんだなと改めて感じてます。私の頃も合同コンサートはありましたが流石にこの規模ではなかったなあ。結構大きい練習場や会場いりそうですよね。フィクションだしまあいっか(笑)

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