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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第13章「合同コンサートを見据えて」
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第91話「練習の見通し」

 12月8日の練習開始時、点呼を取った後水島は休みの生徒を確認していた。

「...じゃあ、とりあえず今日のお休みは和田ちゃんだけってことね。ガリっちはいつも通り遅れ?」

「...そうだろ。」

 大喜がいない理由を聞かれ、Guitarパートリーダーの益田は苦笑いしながら言った。

「...中川先輩、和田先輩どうかしたんですか?休みなんて珍しいじゃないですか」

 話を聞きながら奏太は自分の隣の空席を指さして中川に尋ねた。すると、中川は含みのある様子で答えた。

「ああ、だから風邪だって言っただろ。色々と忙しかったから疲れが溜まってるんだろうよ。心配はいらないって。」

 確かにここのところ県大会、試験勉強、定期試験、修学旅行と2年生はハードなスケジュールだった。奏太はこの日の練習の始まりに和田の座席が空席であることを不思議に思い、中川に確認したが、中川はただの風邪だの一点張りであった。

「...それならいいですけど」

「はーいそこ!今から大事なことを話すから!話してないで聞いて!」

 奏太と中川のやりとりを見ていて、前で仕切っていた水島が注意した。

「和田ちゃんが心配なのもわかるけどあんまり話題にしすぎるとくしゃみ出ちゃって風邪悪化しちゃうでしょ!そっとしといてあげようよ!」

「...わかりました。」

 ーくしゃみの理論はよくわかんないけど...

 水島に注意されて奏太は食い下がって大人しくなった。









 「それでは、気を取り直して...!」

 水島はそう言って仕切り直すと、他の2年生と目を合わせてから話を始めた。

「1年生のみんな!私たちのいない間の練習お疲れ様!早速だけど、地方予選で演奏する曲を発表します!!」

 水島の言葉を聞くと、1年生のメンバーたちは一気にざわついた。

「...いよいよか」

「難しい曲なのかな...」


「はいはい、静かにしてね。大事なことを話すって言ってるでしょ?」

 水島はそう言ってもう一度全員を黙らせると、少し溜めてから話し始めた。

「2年生の間でじっくり話し合った結果、地方予選の曲は“歌劇「仮面」序曲”に決まりました!!これから全国大会までのおよそ半年間付き合っていく曲になります!」


「かめん...?」

「お前は知ってるか?」

 奏太は曲名を聞いて眉をしかめた。その様子を横で見ていた中川が尋ねると、奏太はぽけっとした顔で顔を横に振った。

「そっか、まあまだ1年生だしな。仮面はマスカーニの作曲した曲だよ。ほら、カヴァレリア・ルスティカーナで有名な。」

「...かば?」

「あーすまん、それもわからないか。そういう曲を書いてるクラシックの作曲家がいるんだが、その作曲家の作品だよ。“仮面”はオーケストラではかなりマイナーな作品だからほぼマンドリンで演奏されることの方が多いけどな。とても軽やかな曲できっと楽しいぜ。」

「そうなんですか。」

 歌劇「仮面」序曲は中川の説明の通り、クラシックの歌劇作家のピエトロ・マスカーニの作品で、代表曲の「カヴァレリア・ルスティカーナ」などと比べると知名度は低く、オーケストラで演奏されることはほぼない。しかし、ボッタキアリというマンドリン作曲家によって編曲されたマンドリン合奏版はしばしば演奏されているため、現在ではマンドリンの主要なレパートリーとなっている。西田高校はこの曲を2月の地方予選の演奏曲、さらにはその先の7月の全国大会で演奏することになったのだ。ちなみに前回の全国大会で演奏した「メリアの平原にて」も元々は吹奏楽のために作曲されたものの、マンドリン編曲版の方が演奏回数が多く、マンドリンのレパートリーとして定着したもので、似たような経緯でマンドリンの代表的なレパートリーに数えられている。


 地方予選の曲目が発表された後は早速楽譜が配られた。見ると細かい動きや高い音符が大量に登場しており、明らかに難易度の高そうな様子で1年生のメンバーたちは思わず眉をしかめたが、合奏練習は12月中に開始されると言われ、気を引き締めた。








 楽譜が配られた後は各パート分かれてパート練習になった。この日のパート練はこの日の合奏で行うポピュラーソングの練習が主という話だった。他のパートは2年生が戻ってきたため、2年生が1年生のこれまでの練習の進捗を確認し、それを踏まえて練習計画を立てていたが、和田の休みの1stパートは依然として1年生だけの練習を続けることになった。

「和田先輩、大丈夫かな。」

 奏太が依然として納得のいかないような顔で呟くと、奈緒は強気な口調で答えた。

「中川先輩が心配しなくていいって言ってたでしょ。とにかく今は私たちだけで練習を進めることの心配をしないと。」

「...そうだけど、今まで休んだことなかったから気になって。」

「パートや合奏をまとめるっていう大役を担いながら勉強や修学旅行もある。いろいろなことが一気に来て少し疲れが溜まってるんでしょう。私たちも先輩に頼りすぎじゃいけないわ。」

 冷静な口調で仲間を諭したのは吉田実希だった。実希の言葉を聞いて奏太はようやく理解すると、表情を変えて切り替えた。

「それもそうだな、すまん。仮面上手くなって和田先輩を驚かそうぜ!」

「まずは今日の合奏の曲でしょ!!」








 パート練習は三池花奈の主導で行った。しばらく経ったところで、中川がやってきた。

「調子はどうだ?」

「あ!中川先輩!」

 中川はパート練習の様子を確認すると感心して言った。

「なんだ、ちゃんとできてるな。少し安心したよ。」

 中川は普段は2年生のいない2stパートのパート練習を指導している。この時は和田のいない1stの練習がどうなっているか気になり、2ndパートのパート練を少し中断、自主練時間にして1stの様子を見に来たのだ。

「はい!和田先輩が帰ってきた時安心してもらえるように、俺らなりにできることをやってます!」

「そっか」

 1年生の頼もしい様子を見て、中川はホッとしたような顔で頷いた。

「大丈夫そうだしむしろ俺は邪魔だな。そいじゃ俺は戻るよ。頑張ってな」

「はい!!」

 中川の激励を受けて奏太たちは大きな声で返事をした。



 ・

 ・



こうして和田不在のなか練習が行われ、翌日12月9日。


...この日の練習にも和田は姿を現わさなかった。

今回の引用楽曲は以下の通りです。

・歌劇「仮面」序曲(“Le Maschere" Overture)(Pietro Mascagni=ピエトロ・マスカーニ/1863~1945:イタリア)

参考音源(編曲により細部は異なる場合があります)

https://youtu.be/-uoKbkMerPQ


・歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲(“Cavalleria Rusticana” Intermezzo)(Pietro Mascagni=ピエトロ・マスカーニ/1863~1945:イタリア)

参考音源

https://youtu.be/1V9kMKS9E2o (原曲)

https://youtu.be/Uxhe4c7YHf4 (マンドリン編曲版/編曲により、細部は異なります)

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