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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第13章「合同コンサートを見据えて」
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第89話「1年生の技術」

 1年生だけのパート練が始まったが、先輩のいない状況で練習をするのは初めてだったため、奏太たちは若干の戸惑いの中、話し合った。

「ま、まずはいつも通り基礎練から始めてそれから考えよっか。」

 敦はそう言うと、マンドリンのチューニングを始めた。

「そうね。一旦私がメトロ叩くね。」

 敦に同調するように、叩き棒を手にとって前に向かったのは三池花奈(みいけかな)だった。彼女は1stの1年生の中では唯一中学の頃からの音楽経験者で、特に部活初期の頃から1st1年生のサポートをしていた。

「ああ、悪いな。」

 花奈の申し出を聞いて残りのメンバーたちはお礼を言ってうなずくと、彼女の叩き棒にしたがって基礎練習を行った。


 マンドリン部では基礎練習をいくつか取り入れており、マンドリンパートはトレモロの練習と音階練習を行ったのち、教本に載っている練習曲を全員で弾く。この練習はいつも行っている定番メニューだったため、特に戸惑いもなく、いつも通り練習に取り組んだ。


 基礎練習が終わると、それぞれ顔を見合わせた。

「...ここまではいつも通りね。」

「そう、問題はここからよ。」

「新しい楽譜いきなりパートで合わせるのは難しいし、今日は自主練にしちゃう?」

「いや、“マンドリンの群れ”のパート練の時間も欲しい。合同コンサートでも弾くみたいだし」

「そっか」


 今日配られた新しい曲の音とりとすでに取り組んできた曲のパート練習、これをどのくらいの比率で取り組むかで彼らは悩んでいた。

「ん〜、新曲5つもあるしそれなりに自主練時間欲しいよね〜、時間配分難しいな〜...」


 彼らは早くも、毎日のパート練習の中でキッチリと時間を配分して練習を進めていた2年生の様子を思い出し、それの凄さを痛感していた。こうして、手探りの中、パート練習の時間が流れた。




 最終的に、2年生のいないこの5日間を5人に割り振る形で、日替わりでパート練習のとり仕切りを担当することになり、初日は基礎練の流れで花奈が曲の練習もとり仕切ることになった。

 パート練習2時間のうち、最初の1時間を新曲の音とり、残りの1時間を“マンドリンの群れ”の合わせに充てて、練習を行った。後半の30分間の練習では花奈の音楽的経験やこれまでの練習でよく指摘されてきたことを踏まえた練習が行われ、割といつも通りの練習になった。


 この日は合奏が無く、パート練が終わった段階で練習終了となった。しかし、音とりの段階で進んだ分の練習では新曲の5曲全てを見ることはできなかったため、自主練のために残って練習していく者もいた。





 翌日11月15日からは合奏練習が始まった。それに伴い、パート練習ではその日に合奏する曲の練習を重点的に行った。1stでこの日の練習を取り仕切る担当は奈緒だった。

 彼女の叩くメトロノームに合わせて練習を行った。

「そ、それでは、み、みんなで、あ、合わせてみよう!!」

 奈緒はガチガチに緊張した様子でメトロノームのスイッチを入れた。

「おいおい緊張しすぎだぞ、大丈夫だよ俺らしかいないんだから」

「あそっか、ごめん私テンパってた...」

 彼女の挙動不審な様子に呆れて奏太たちは苦笑いしながら彼女をフォローした。

「それとこの曲テンポそんな早くないわよ」

 花奈も呆れた顔で奈緒のメトロノームを指さした。

「え、あ、ほんとだっ!ご、ごめん!」

 奈緒は慌てながらメトロノームのテンポを変えた。


 奈緒は正しいテンポになったのを確認してから棒を持ってそのメトロノームに合わせて叩き始めた。

「そ、それでは気を取り直して始めまーす!」

「ちょ、ちょっと待て!」

 敦が再び奈緒を止めると奈緒は不満そうな顔で聞いた。

「何よ、今度はテンポあってるでしょ?」

「いえ合ってないわ、あなたが、メトロノームに。」

「え?」

 冷静な表情で指摘したのはもう一人の1stのメンバー、吉田実希(よしだみき)だった。彼女は非常に冷静で感情的になった様子を見たことのある者はいない。彼女の冷静な指摘の通り、奈緒の叩くテンポはメトロノームのテンポと随分とズレてしまっていた。


「ええ、あああ!ご、ごめん!気をつけるね!今度は大丈夫でしょ?」

「いいえ。」

「はぁ...」

 奈緒は実希に指摘されてやっと自分のズレに気づき、気をつけながら再び叩き直し、ある程度自信を持って確認したが、実希は彼女のテンポが明らかに直っていないことを遠慮なく指摘した。


()()ひょっとしてお前リズム感無いんじゃ...」

「うっさいわね!()()よ!」

「中学までよくダンス部できてたわね。」

「うーそれは...」


 こうして、1stの練習は続いていったが、奈緒のパート練はこの後も色々とトラブルが連発し、結局花奈が代わりに叩くことになった。

 パート練習が終わったところで、奈緒は花奈にお礼を言った。

「ごめんねカナちゃん。結局やってもらっちゃって。」

「ううん、いいよ。音楽始めたばかりだと色々と大変だよね。」

「パート練を仕切るのがこんなに大変だって知らなかった。和田先輩ってすごいな。」

「うんうん、平然とやってるもんね」

ふたりはこう言って自分たちの先輩の、今まで気がつかなかった凄さを実感するのだった。



 ・

 ・

 ・



 ある日、2年生のいない中で“マンドリンの群れ”の合奏を行うことがあった。

 最初の通しの後で山崎先生は少しため息をついて話し始めた。

「皆さんは今の合奏を通して何を感じましたか。」

 演奏を終えた奏太たちは黙り込んで下を向いた。山崎先生は全員の様子を見渡してからもう一度口を開いた。

「どう思いましたか、赤石くん。」

 突然指名され、学は少し慌ててから話し始めた。

「えっと、思ったよりできていないと思いました。」

 学の指摘を聞いて、他の生徒たちは余計に凹んだ。山崎先生は頷いて話を進めた。

「そうですね、今日は2年生がいない分、1年生の皆さんの実力が露呈します。もちろん本番では2年生も入りますが、1年生だけで演奏してもいい演奏ができるようにすることは必須です。以前私は1年生の自信、音量を高めるパート練習をすることが必要だと2年生に指摘したことがありましたね。あの時は1年生の実力不足という問題点を2年生に対して述べましたが、これからは皆さん自身も自覚を持つことが必要です。なぜこの2年生のいない期間に部活を実施しているか、その意味を考えてください。今は2年生がいない分、練習でできることは限られますが、1年生の技術が目立つこの時間をむしろチャンスと捉え、自分たちの実力を高めるきっかけにできるように頑張ってください。」

「はい!!」


 先生に自分たちの演奏を指摘され、奏太たちは大きな声で返事をした。




 この日の帰り道、奏太と糸成はいつも通り話をしていた。

「Guitarパートは練習どう?」

「ああ、大変だよ。基本的には俺が仕切ってやってるけど、なかなか益田先輩のようにはできない。」

「そうだよな。俺らも結構手探りでの練習になってて、改めて和田先輩を尊敬した。」

「先生は1年生の技術不足を深刻に感じているみたいだし、俺らがもっと頑張って練習しないとな。」

 奏太たちは互いに1年生の練習の中での戸惑いを話しながら、改めて2年生の偉大さを痛感した。そして、いずれ来る自分たちが主導となって部活を引っ張っていく日のことを思い浮かべ、少し不安になるのだった。

常に冷静沈着な女の子、吉田実希が初登場し、これで1stの1年生が全員出揃いました。三池花奈に関しては随分前にちょっと名前が出た程度でしたが今回から徐々に出番が増えていくと思います。

というわけで


大橋奏太

高木奈緒

澤田敦

三池花奈

吉田実希


の5人が1stの1年生ということになります。

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