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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第13章「合同コンサートを見据えて」
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第88話「自分たちだけの練習」

 県大会が終わり、日曜日を挟んだ2022年11月14日月曜日。この日は県大会後最初となる部活があった。県大会は突破こそできたものの満足のいく結果ではなかったため、奏太はかなりやる気を燃やしており、この日は掃除をサボってすぐに音楽室に向かった。


 そして、猛スピードで部屋の準備を終わらせると、自分の楽器を取り出し、すぐさま基礎練習を始めた。

 奏太が基礎練習に没頭している間、徐々に他のパートの1年生たちも集まりはじめ、部活開始の時間がやってきた。


「ほらソウタくん!もう始まる時間だよ!」

「え、おおすまん。ありがとう。」

 基礎練習に夢中になっていた奏太は奈緒に止められて楽器を弾く手を止めると、あたりを見渡して不思議そうな顔になった。

「...あれ?先輩は?」


 見ると、自分の席の隣を始め、各パートのトップ席が全て空席になっているのである。1年生は全員来ているにも関わらず、2年生は一人も来ていないのだ。

「あれ?ソウタくん忘れたの?」

「...“忘れた”?」

 奈緒に指摘されてもなお、奏太は意味が分からずとぼけるばかりであった。その様子を見て奈緒は呆れながら説明した。

「今日からしばらく2年生はお休みだって先生が言ってたでしょ?」

「え?」


「ええ〜!!?」





 先輩が来ない、奏太はそのことを初めて知り、思わず大きな声をあげて驚いた。

「呆れた。大橋くんっていつも先生の話聞いてないの?」

 前でそう言ったのはDolaパートの才木栞里(さいきしおり)だった。

「...聞いてたけど忘れたんだよ、悪かったな」

 これまでほとんどやりとりをした覚えのない栞里から呆れられて奏太は拗ねたようにそう答えた。


「...仕方ないわねえ、まあでも全体としても軽く確認が必要でしょうから今から少し説明しましょうかね。」

 栞里はそう言いながら前に出ると、改まってこう続けた。

「一応部長のサッキー先輩から直々にこの期間の1年生全体の取り仕切りを頼まれてるんで、2年生不在の間は私が仕切ります。よろしく」


 栞里が取り仕切ることについては全体も了承し、栞里も軽く全体の様子を確認してから話を始めた。

「今日の部活に2年生がいないのは、2年生がテスト直前期間に入っているためです。彼らは修学旅行が12月の頭にある関係で私たちより早くテストがあります。今日の時点でその2週間前期間に入っているため、私たちのテスト休みが始まる来週までの1週間の部活は私たちだけで行うことになります。」


 栞里の説明通り、西田高校では定期テストの2週間前から部活動が休止となる。しかし修学旅行が入る関係でこの時期は2年生が1週間早くテストを行うため、1、2年生の間で部活動休止期間が1週間ずれる事になる。その結果、2年生が部活を休み1年生だけで練習を行う1週間の期間があるのだ。(1年生も1週間後の11月21日から部活休止期間に入る)

 2年生が平常通り部活に戻るのは12月1日〜4日までの修学旅行、土日分の代休にあたる5、6日、部活休みの水曜日を過ぎた12月8日のことで、かなり先になる。なおこの日は1年生のテスト最終日にあたる。


「修学旅行かぁ〜」

「いいなあ〜」

 それぞれが口々に修学旅行に思いを馳せ始めたのを見て、栞里は慌てて止めた。

「ちょっと!私たちの修学旅行は来年でしょ!今はそうじゃなくて!!」



「...とにかく!今はこの1年生だけの部活期間をどうにか乗り切らなきゃいけないんです!!」


 “どうにか乗り切る”、そう聞いて会話の弾んでいた一同は一気に静まり返った。2年生がいない中で練習をしなくてはいけない。...これは真剣に考えてみると結構大変なことなのだ。


 ここで奈緒が手を挙げた。

「ねねしおりん!質問!」

「なに?」

「とりあえず練習は合同コンサートに向けた曲をやる感じになるの?」

「そうだよ。先輩から楽譜を預かってるから今から配るね。」

 栞里はそう言うと束になっている楽譜を配り始めた。


「うわ、今回も多いね」

「定演ってなるともっと多くなるけどね」

 一部の生徒が眉をしかめたように、栞里が配った楽譜はかなりの数があった。合同コンサートでは各学校の単独ステージと合同1年生ステージ、合同の2年生ステージ、全体合同ステージがある。

 単独ステージはポピュラー曲の編曲2曲と県大会で演奏した“マンドリンの群れ”、合同1年生ステージは単独ステージとは別のポピュラー曲。全体合同ステージはマンドリンオーケストラの合奏曲1曲とアンコールとしてポピュラー曲1曲がある。

 “マンドリンの群れ”はすでに演奏している楽曲だったため、これを除く5曲の楽譜が配られた。


「これだけの曲を練習しなくちゃいけないのか。」

「まあでも単独ステージの曲は定演でも使い回すからなんとかなるでしょ!」


 それぞれのパートで楽譜を配り終え、ある程度落ち着いたのを確認すると、栞里は最後に補足をした。

「今日はまだ配らないけど先輩たちが帰ってきたら地方予選の曲も配られるみたいです。合同コンサートが1月8日で、およそ1ヶ月後の2月11日が地方予選なのであまり時間ないみたいだしね。」

「...そっちの方がやばくない?」

 地方予選の日程を聞いて奏太は苦笑いして言った。


「ま、まあとにかく早く合同コンサートの曲を弾けるようにして地方予選に時間割けるようにしていかないとね!そのつもりでそれぞれパート練習を頼むよ!」

 栞里はそう言って軽くごまかしてから、全員を奮い立たせた。1年生のメンバーたちは少し緊張してはいたものの、現在の状況を理解し、大きな声で返事をした。





 パート練習が始まり、奏太たちも自分の練習場所に移動した。


 ...しかし、


「...さて」

「どうやってパート練しようか...」

 2年生の和田がいない状況での練習という状況が初めてだったため、1stのメンバーはそれぞれ顔を見合わせて思わず身構えてしまった。


「すげえな、今にして思うと和田先輩、今まで一回も部活休まなかったんだな...」



 こうして、戸惑いの中、1年生だけのパート練習が始まった。

お読みいただきありがとうございます。

県大会後最初の部活、修学旅行に伴うテスト期間の都合で、1年生だけで部活をすることになりました。

途中でかなりややこしいテスト期間の説明がありましたが、表にするとこういうことです。(なんとなくで読んでいただいても全然問題ありませんが、一応しっかりと設定はあるよということで載せておきます)


11/14 月 2年生テスト休み開始、1年生のみの部活

11/21〜 1年生テスト休み開始

11/28~30 2年生テスト

12/01〜04 2年生修学旅行

12/05,06 2年生代休

12/05~07 1年生テスト

12/08 1、2年生部活再開


また、今後の予定が出てきました。

2023年1月8日が合同コンサート

2023年2月11日が地方予選ということでした。さらに、定演に関する話題も出てきました。この辺りの時期は高校のマンドリン部は結構忙しい印象です。

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