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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第2章「波乱のパート決め」
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第8話「チェロとギター」

 その頃、美沙はマンドチェロの体験を受けていた。教えてくれるのはチェロ3年の田中勇大(たなかゆうだい)だ。横に2年の永野梨香(ながのりか)もいて話を盛り上げつつ見ていた。

「チェロってね、マンドリンやマンドラと運指が違うからもう1回覚えなきゃいけないんだよ。でもとても低い音が出せるから低音好きにはたまらない楽器なんだ。」


田中の説明の通りマンドリンの調弦が1弦から順に2本ずつ「ミ・ラ・レ・ソ」となっていて、マンドラはちょうどその1オクターブ低くなっている点で同じような感覚で弾けるのに対し、マンドチェロは1弦から「ラ・レ・ソ・ド」となっており、調弦が違う。だからチェロで音階を弾く時には音の位置が変わり、別の楽器と考えて弾く必要がある。(ドラの2・3・4番目の弦がチェロの1・2・3番目になっており、そこに新たに「ド」の弦が追加されていると考えれば良い。)

「私も低音に感激して体験に来たのでチェロ、かっこいいと思います!」

紺野さんはにっこりと笑うとまだ慣れない手つきでピックを使って一番低い弦を弾いてみた。

「あたしも低音の音大好きでメリアではゴリゴリ弾いてるんだぁ」

見ていた永野はそう言うと自分のチェロで「メリアの平原にて」の低音のゴリゴリにかっこいいパートをゴリゴリと弾いて見せた。

「マンドリンに比べてフレットの幅が広いのにそんなに早く指が回るってすごいですね!」

 美沙は永野のひょうきんなキャラに優しく微笑むとそのテクニックに驚いた。


 実際マンドロンチェロはこの部活で使われているマンドリン系の楽器の中でも確かに一番フレットの幅が広い。フレットの幅は当然楽器の大きさに比例して広くなる。楽器の大きさも楽器の音の高さに比例しているためそういう順番になる。早いパッセージを弾くときはそのフレットを素早く移動するので幅が広いとそれだけ移動が大変になる。移動を必要とするパッセージはマンドリンなど音の高い楽器の方が圧倒的に多いがチェロなどもここぞと言う場面で早く移動することが結構ありそれらは多くの場合見せ場となる。なお、楽器の構造上フレットの幅は一定ではなく同じ弦の高いポジション(楽器の内側)に行けば行くほど狭くなっている。ちなみにギターの大きさはドラとチェロの間くらいなのでフレットの幅もその辺りにおさまる。楽器の構造についてはまた必要に応じて少しずつ述べていくことにする。


「そお?練習すればミサちゃんもすぐこのくらいになれるよ!ゆーだいさん早速音階教えてあげてください!」

「そうだな。やってみようか!」

こうして美沙もチェロで音階の練習を始めた。




奏太と美沙がほぼ同時に音階練習をしていた頃糸成はギターパートにいた。初日に少し話した益田智の他、3年生の出水(いずみ)(たける)が見ていた。

「なんだ!普通に弾けるじゃん!これは期待大だね!」

「言ったじゃないですか。春日くんはギターの経験があったそうなんですよ。」

教えなくても普通に音を出せている糸成に驚いた出水に対し、事前に経験者であることを聞いていた益田が説明した。

「そうは言っても指弾きはあまりやったことがないので慣れないといけないです。昔挑戦したんですが簡単なアルペジオくらいしかできなくて。コードは割と知ってる方なので結構できますが。」

それを聞いて出水は感激して答えた。

「いやいやコード知ってるなら最初は十分すぎるくらいだよ!ギターパートは割とアコギやエレキで経験のある人が入ってくるケースが多いから俺も焦っちゃうな。俺は高校で初めてギター始めたもんだからなんならサトシのほうが俺より上手いくらいなんだ。」

「いやいややめてくださいよ。定演での“虹彩”のソロめちゃくちゃシビれたんですから。」

それを聞いて糸成は表情を変えた。

「ソロ?ギターパートは伴奏が多いって聞いていたんですが。」

出水が答えた。

「ああ、確かに伴奏が多いけど曲によってたまにギターがメインで活躍する場面があるんだ。特に最近の日本人の作品ほどそういうのが多いかな。」

「そうなんですね。僕今までギターはコード弾きしかやったことなかったので少し興味が湧いてきました。元々は新しい楽器を始めようかと思っていたんですがやったことがある楽器の自分にとって新しい側面を見るって言うのも楽しそうで。」


糸成は少し考えてから続けて出水に言った。

「そのソロ聴かせてください。」

「えっええっ!そう言うの改まってやるとちょっと緊張するな!定演終わってから弾いてないし!」

突然演奏を頼まれて出水は少し焦って答えた。

「後輩の頼みです。やらないわけにはいきませんよ。」

益田もニヤニヤと笑って追撃した。

「ははは!」

慌てる出水を見て一同は顔を見合わせて笑った。






 その日の帰りも奏太と糸成は一緒に下校した。

「そっちはどうだった?」

糸成が奏太に聞くと奏太は歩きながら答えた。

「んーそうだな、コントラバスすごくカッコいいけど俺はやっぱりメロディとか弾きたいなって思ってるから今のところマンドリン志望かな。それにコントラバス、思ったよりずっと難しい。音感ないと自分の出してる音が合ってるか間違ってるかすら分からない。あれを当たり前のように弾いてる高橋先輩ってやっぱりすごいよ。…もちろんマンドリンの先輩たちもすごいけど、それとは違う凄さがある。」

それを聞いて糸成はにやけて奏太の顔を覗き込んだ。

「俺も練習してるお前を時々見てコントラバスを分析してたから楽器の特性はなんとなく分かった。その上で今日のミニコンサートを聴いてたら高橋先輩、他のメンバー、特にコンミスの小野先輩のチューニングが少しでもずれたりして全体のピッチが変わってきたらそれに合わせて押さえる位置で自分のピッチを調節してたな。それも演奏しながら。あれは確かにしっかりした音感がないとできないよ。」


それを聞いて奏太も返す。

「お前確かに体験めっちゃ余裕あったもんな。俺が弾いてんの見てたんだ。」

「そりゃあギターはやったことあるから音の位置わかるからね。」

糸成は当然のように答えると言い残したように続きを呟いた。

「…でも俺の今まで知らなかったギターの可能性を見つけた気がする。」

「おっじゃあもしかしてギターやるのか!?」

奏太に聞かれて糸成は適当にごまかした。

「まあね、まだ考えてるところだけど」

こうして二人は2日目の新歓から帰った。

今回の楽曲引用(曲名のみ)

・虹彩(丸本大悟)

丸本大悟さんは現在も最前線でご活躍されている日本人作曲家で、学生の間で最も人気な作曲家と言っても過言ではありません。「虹彩」もそんな丸本さんならではの美しい旋律が見所で、益田が誉めていた出水のギターソロは以下の参考音源で言うと1:40から始まります。


参考音源

https://youtu.be/TxhiRJhM5bs

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