第6話 なんか、新しい技術を学びます。
どうも、ぽむむんです。
予約でやったので、上手く出来ているか心配ですが、2話更新しました。
「おはようございます、師匠。」
ゲートをくぐった先には、いつものように待ち構えるケミーナの姿がある。
「説得は出来たのか?」
返答が待ち遠しいと言わんばかりに、イロアスを見る。
「はい、ケミーナ師匠の名を出してしまいましたが。」
流石にケミーナの名前を知らない人は、イロアスの村にもいないので、イロアスがケミーナの名前を出した瞬間に、イロアスの両親が呆けた顔をしたまま札幌雪まつりの氷像のように硬直したのは、言うまでもない。
しかも、ステータスを見せた時もロダンの彫刻のように再硬直し、イロアスがそのまま美術館に送迎しようとするまで固まっていた。
「そうか、それは良かった。」
一見いつも通りに見えるが、内心では弟子と本格的に修行が出来る事に大いに喜んでいた。
しかも、半年間の付き合いからイロアスにも、喜んでいるのはバレていた。
「ところで、生活用品の準備はしなくても良いのですか?」
「ああ、別に大丈夫だ。ある程度の物はそろっているし、無い物は作ればいい。」
イロアスの不安げな質問に、大魔導師ならではの返答をする。
「作るって、生産系スキルって持っているんですか?」
武器や防具を作るには、〈鍛冶〉スキル・薬品などを作るには、〈調合〉スキル・日用品などを作るには、〈製作〉スキルなど、それぞれに適したスキルを取得しなければならない。正確には取得しなくても作れるが、スキルの有無によって品質が大きく左右する。
「いや、ユニークスキル〈創造〉があるからな。」
「そうだった。」と納得顔のイロアス。
ケミーナのユニークスキルは、数あるユニークスキルの中でも高性能な汎用性に優れていた。〈創造〉は、魔力を糧に、脳内でイメージした物体を造るといったもので、手に入れた時は世界一の生産職になると噂されていたが、実際は予想していたユニークスキルの使い方の斜め上を行き、魔物の前で剣を造りだし、魔法と共に剣術で相手を倒す戦闘をして今の大魔導師に上り詰めた。
「ところで、今日は詠唱をしないで魔法を使うぞ。」
〈創造〉って便利だなって考えていたイロアスに、いきなりあり得ない事を言われる。
「無詠唱魔法ですか?でも、ユニークスキルで無理だって書いてありますよ。実際に、短縮詠唱は使えませんでしたし。」
無詠唱魔法とは、その名の通り詠唱を行わないで魔法を発動させることで、相当な想像力や、イメージする力がないと出来ないモノだった。
今の技術では、発動出来ても威力が弱かったり、短縮詠唱の方が発動までの時間が速かったりと、色々なデメリットがあるのであまり使用されない魔法だった。
常人でも、普通は無詠唱魔法など使おうとしないものだ。なぜなら、詠唱魔法よりも発動時間がかかってしまうケースが多いからだ。
「やってみないと分からないだろ。しかも今回使うのは、短縮詠唱とは違って無詠唱魔法だぞ。まぁ、正確には違うが、傍から見ればすぐに発動する瞬間無詠唱魔法と一緒だ。」
そう言って、ケミーナはポケットから魔法陣の描かれた紙を取り出す。
「今日はこれを使って、無詠唱魔法をしてもらう。」
「それって何ですか?」
ケミーナが出した紙は特別な紙では無さそうだったが、それでは魔法が発動しなさそうだった。
また、描かれている魔法陣は、正確に見なくてもイロアスには分かった。それは、修行で何万発も放った〈ファイヤ〉だった。
「これは、詠唱符という特殊な技術だ。術者の魔力を込めたインクで発動したい魔方陣を描き、発動したい時にその紙に魔力を注ぐとその魔法が発動する。って仕掛けだな。」
ケミーナは簡単に言うが、そもそも魔方陣を描ける者なんてそういない。詠唱魔法ならともかく、短縮詠唱なんて、杖の先に術式(発動可能な魔方陣)が現れるのは、数秒なので記憶する時間すら無いのだ。まぁ、そもそも覚えようとする人なんて居ないのだが。
「良い点として、すぐに発動出来るのが挙げられて、悪い点として、魔力を通常の2倍かかるということですね。」
理解がだんだんと早くなってきたイロアスだが、だんだんと性格がケミーナに似てきていることに2人とも気付かない。
「そうだな。まぁ、ともかく魔方陣を描いて見ようか。」
そう言って、イロアスの手のひらより少し大きい羊皮紙をイロアスに渡す。
しかし、
「僕って魔方陣の描き方というか、そもそも魔方陣の形を正確に覚えていませんよ。」
どうやらケミーナは、ある程度の魔方陣の描き方を暗記しているようだったが、一般人にそんな芸当は出来ない。まぁ、イロアスは一般人じゃないけど。
「まぁ、そうだろうな。何千発放っても、意識して見なければ覚えていないだろう。」
捉え方によっては嫌みに聞こえるが、イロアスはケミーナがそんなことを考えているとは、微塵も思わなかった。
しかし、イロアスは軽く万を超える回数を放っているので、そのくらい覚えておきたかったと軽く後悔した。
「すみません。でも、この方法って何で普及していないんですか?」
確かに、魔方陣を描いた本とセットで売れば高値で売れるだろうし、魔物との戦闘に魔術師達には重宝されるだろう。
「危険すぎるからだよ。こんな簡単に無詠唱魔法を刹那的に放てたら、たやすく人を殺せて戦争が簡単に勃発してしまう。まぁ、デメリットもあるんだがな。」
ケミーナなりに考えての秘匿だった訳だ。
確かに、たやすく人を殺せるというのは力無き者にとって、脅威以外の何物でもなかった。
デメリットとしては、魔力が通常の2倍かかる・魔法陣に決められた威力の魔法しか放てない・時間の経過により、インクの魔力が落ちていくため、威力も落ちる・経年劣化で発動しなくなる・使い捨て などがある。
「じゃあ、僕が使って良いんですか?」
不安そうに尋ねるイロアス。自分が使っても危険では無いのだろうかという気持ちが書かれた顔をケミーナに向けた。
その顔を、ケミーナは一瞥して、
「お前には、そんな度胸なんてないよ。しかも、それ以前に私の弟子にそんな事させる訳ないだろう。」
その言葉の裏を取れば、そんな事をしようとしたら、全力で止めると言っているようにも聞こえた。
「軽く臆病者だとからかわれた気がするんですが、信頼されていると受け取って良いのでしょうか?」
「ああ、そうとも。私の初めての弟子だからな。」
ここでまた、初めて聞いた事がポロリと出た。
「え、弟子って僕が初めてなんですか?」
意外そうに尋ねるイロアス。大魔導師は、将来を担う魔術師に色々と知識や知恵を教えているものだと思い込んでいたからだ。
「ああ、言っていなかったか。」
「意外と師匠って抜けているところあるんですね。」
イロアスは最初、ケミーナを天空の更に上の、星が輝いている位高いところの人だと思っていたが、今では親近感が湧き、気軽に話せるようになっていた。
「お、師匠に反抗するのか?」
イロアスのツッコミにつっかかるケミーナ。
なかなか信頼関係が築けているようだった。
「あーっと、話が大分それた。一回、〈ファイヤ〉の魔方陣を手本見ながら描いてくれ。」
近くに重ねて置いてあった、魔方陣をまとめた本を渡してくる。
「じゃあ、描いてみますね。」
そう言って、イロアスは最大限の集中力を振り絞り、ケミーナ特製の魔法伝導性能の高い羽ペンを使いながら、幾何学模様の魔方陣を描く。
ケミーナは、何も言わずにその様子を眺めていた。
◇ 数十分後
「出来ました!師匠。」
ふうっと大きく息を吐いて、報告する。
集中したお陰か、一度も間違わずに魔方陣を描けた。
「よし、じゃあその紙に魔力を少しずつ流してくれ。適正量になったら魔法が発動するはずだ。」
イロアスは、人差し指と中指の間にはさみ、上手く魔法を流す量を調節しながら、詠唱符を発動させていく。
「もう少し、ゆっくりと流せ。お前の魔力量的に、少しが常人の多いぐらいだからな。」
最悪は、イロアスの膨大な魔力が紙に入りすぎて、爆発する恐れがあるが、ケミーナは何も言わなかった。
ちなみに、その爆発の威力は入れた魔力の量によるが、小さくてもグレネード以上、最悪の場合は原子爆弾に匹敵する威力となる。
それほどに、イロアスの魔力量は多かった。
「はい、分かりました。」
なかなか最初は調整が難しいのか、大変そうに見える。
しかし、段々と上手くいったようで、しばらくすると詠唱符の魔法陣が紅蓮に輝き、術式となる。
指先を標的の木に向けて、最後の魔力を流すと……
通常サイズの〈ファイヤ〉が、紙の少し離れたところから放たれた。
「あれっ?普通に放てましたよ。威力も普通ですし。」
意外そうに、木の焦げ跡を見つめるイロアス。イロアスにとって、普通の威力の魔法が発動できたのは、生まれて初めての事だった。
「そりゃそうだろ。そうなるようにプログラムされた魔法陣だからな。」
威張るように言い張るケミーナ。しかし、ケミーナの口からは、毎度のごとく現実っぽい単語が出てくる。
「ぷろぐらむ?って何ですか?もしかしてこの魔法陣って師匠が創ったのですか?」
聞き慣れない単語に、首をかしげるイロアス。しかし、イロアスの勘は鋭かった。
「お、良く分かったな。正解だ。ちなみに、プログラムは気にしなくて良い、意味としては『そうなるように作られている仕組み』ってところかな。正確には、分からんけど。」
余談だが、詠唱符の技術はケミーナが、短縮詠唱の改良版として無詠唱魔法を開発している途中に出来たものである。呪符みたいな魔法陣が描かれた詠唱符は、見た感じ古そうだが、一般的に使われている短縮詠唱よりも新しい技術なのである。
「と言いますか、普通に発動しましたよ、魔法。」
心外だったのか、倒置法で言うイロアス。
「ああ、ユニークスキルの穴だな。変更するとしたら、
『⊿
ユニークスキル〈詠唱〉
詠唱しないと、スキル使用不能。
威力×3 魔力消費×3 命中率-300 』
から、
『⊿
ユニークスキル〈詠唱〉
短縮詠唱による、スキル使用不能。
威力×3 魔力消費×3 命中率-300 』
にするべきだな。」
「ステータスプレートに間違いなんてあるんですか?それとも魔晶石に間違いが?でも、間違いがあったら大変じゃないんですか?」
矢継ぎ早に質問するイロアス。
「まったく、質問は1つづつにしてほしいものだね。」
あきれたように言うケミーナだが、毎度の事なので慣れてきたように思える。
「あ、すみません。」
こうやって、イロアスが後で謝るのも当たり前のようになりつつあった。
「で、さっきの質問だが、正確にはステータスプレートの間違いではない。穴だ。初めてのユニークスキルなんかでは、たまに起こる現象だな。」
実際に、ケミーナもステータスプレートの〈創造〉の説明欄には、『イメージでは補えない、内部機構の細かい物は創れない』と書かれていたが、今では難なく作れる。まぁ、その分だけ魔力消費が多いが。しかもシステムの穴というか、『イメージでは補えない』と書かれた大前提を覆して、イメージで補っているのだが。神々は少々ケミーナを甘く見ていたらしい。
「その場合には、どうするんですか?何か対応しないといけないのでは?多分、〈詠唱〉なんてそんなに現れないと思いますが・・・。」
最後の方は、うつむき気味になっていて、声も小さくなっていた。
多分、自分が〈詠唱〉を授かった時の苦い記憶を思い出したのだろう。
「ああ、その件はもう手を打ってある。」
なんとも早い行動だった。
「お前の〈詠唱〉を見た後に、国王にもしも〈詠唱〉のユニークスキルを持った奴が現れたら、私に連絡をするように言ってある。」
ケミーナも、流石に危険分子を野放しにしておくわけにはいかないと思ったらしい。
「そんな事があったんですか。」
驚いたような顔をするイロアス。
「ああ、うちの弟子は世界一の最強だと言っておいたよ。」
「え!やめて下さいよ。師匠。恥ずかしいじゃないですか。」
その焦った反応に、口元を綻ばせるケミーナ。
「ところで、イロアス。これから詠唱符を書くのが修行な。ちなみに、30枚書き終わらなかったら宿題として日々やっておけ。」
ケミーナの口元がニヤッと悪い笑みに変わる。
「ちなみに、修行の合間にやる時間はそうないから、数ヶ月はかかると思うぞ。」
「えー!そんなのひどいですよ!」
イロアスの叫びは、魔女の森に響き渡った。
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