第16話 剣術試験に乱入者!?
全体評価が5ということに大変驚いております。
読者の皆様ありがとうございます。
『それでは、始め!』
キンッ………カラン、カラン。
乾いた音が響き、先生の剣が場外へと転がった。
ちなみに、その方向には人がいなかった。
闘技場の中には、刀を鞘にしまったままのイロアスが佇んでいた。
「えっ、は?」
わけも分からないといった感じで、手元を見つめる先生。
しかし、場外に剣が落ちているのは事実。
何が起こったかというと
1.イロアスが抜刀し、先生の剣を吹き飛ばす。
2.吹っ飛んだ剣の方向に目が向いている間に、素早く納刀する。
3.先生が視線を戻すと、ただイロアスが佇んでいる。
といったことが、1秒に満たない速さで行われたため、誰も視認できなかったのだ。いや、正確には数名の教師とアリシアにはからくりがバレていたが、それでも鮮明に目に捉えることはできなかったようだ。
「まいった。何が起きたかも分からないが、相当力強い一撃を喰らったな。君は……」
「受験番号88番、イロアス・エスティアス君だね。」
俺が答えるよりも早く、誰かが言った。
「僕と手合わせ願いたい。イロアス君、全力でかかってきてくれ。」
フード付きマントを被ったその誰かが、闘技場に乱入してきた。
誰も止めないところを見ると、乱入者ではあるが部外者ではなさそうだ。というか、先生より上の立場の人なのだろう。
後ろで見ていた先生は驚愕の表情を浮かべている。
イロアスは、覚えのある気配と声をヒントに、相手が誰なのか記憶を探っていた。
「よろこんで。」
刀に手をかけて相手の方を向くと、その誰かは不思議そうな顔をしていた。
「それが君の獲物なのか?君の実力からするに随分貧相に見えるが。」
「めざといですね。僕の獲物は魔剣なのですが、大丈夫ですか?」
「ああ、さっきも言ったろう。全力でかかって来てくれって。持続魔法使ってもいいよ。」
そういう相手は魔法を自分にかけていなさそうなので、俺も特にはかけないでおく。魔剣使う時点で、魔法を使っているようなものなのだが……
「いや、魔法は大丈夫です。」
「じゃ、審判。お願いします。」
『そ、それでは、始め。』
始めのめが言い終わったか、言い終わってないか、その刹那に両者の剣戟はぶつかった。
「なるほど、あなたでしたか。」
「また少し強くなったね、イロアス。」
イロアスは剣を合わせてみると、その男が誰なのか分かった。
すぐに距離を取ると、刻印に魔力を流し込んで魔刀に炎をまとわせる。
「炎ノ章 漆ノ式 〈火炎弾〉。」
イロアスが刀を横に薙ぎ払うと、3つの火の玉が男に向かって飛ぶ。
「うわっ。それは卑怯だなー。」
そう言いつつも、男は1つをよけ、もう1つを剣で切り裂き、最後の一つはコートで防いだ。
「剣は反魔法物質で、コートの方が魔法防御物質ですか。」
「ご名答。対策は万全にしてきてあるのさ。」
だが、イロアスが3つもの弾を同時発射できることは想定外だったようだ。
「はあっ。」
今度は男が仕掛ける。一気に間合いを詰めると、そのまま剣を振り下ろした。
それをイロアスが軽々と受け止めると、素早く次の斬撃を繰り出す。それをまたイロアスが受け止め……と目にも留まらぬ速さの攻防戦が繰り広げられた。
イロアスも防戦一方だったわけではなく、さっきのアリシアの真似をしようとカウンターを試みたりと反撃していた。
ギャラリーはその高度な戦いに息をのんで見つめていた。その白熱した闘いは、誰も目が離せなかった。
「はぁ、はぁ。これを防ぎきりますか。」
「いや、ギリギリでしたね。」
もうイロアスの〈バリア〉の耐久値はあと僅か。それに対して、男の〈バリア〉は一度も攻撃を喰らっていない。
だが、剣を振り回していた男と防御しながら、小さく反撃していたイロアスでは、疲労の差が大きくあった。
その疲れをイロアスが見逃すはずもなく…
「嵐ノ章 壱ノ式〈旋風〉 漆ノ式〈疾風弾〉」
さっきと同じく横に魔刀を薙ぎ払うと、今度は目に見えない風の弾丸が飛ぶ。さらに、〈旋風〉によって自身を低い姿勢のまま相手の方へと飛ばした。
「つっ。」
目に見えない風の弾と、あからさまに近づいてくるイロアス。
男は対応にとまどった。しかし、それは一瞬ですぐにコートを目の前に持ってくると、大きく広げて風の弾3発をしっかりと受け止める。
しかし、これは一時的に前が見えなくなってしまうので、隙が生まれる。この隙を突いてくると思った男は、コートを取るより先に、後ろへ倒れながら剣を前に突き出す。そうすることで、突っ込んできたイロアスに刺さる可能性が高くなり、仮にイロアスが避けたとしたらこの攻撃を防ぐことができる。
しかし……攻撃は来なかった。
「まさかっ!?」
男は振り向こうとしたら、頬に剣先の感触を感じた。
「おお、すげぇ。」 「今の速すぎだろ。」 「先に終わったやつら、残念だったな。こんな凄い試合が見れなくて。」
と、ギャラリーが騒ぎ、拍手喝采が起こる。そこまで目立つつもりはなかったんだがな。
先生なんかは、固まってしまってるし。
「まいった。さすがだな。」
そう、イロアスは男がコートを広げた瞬間に後ろへと回っていたのだった。とっさの判断力が、イロアスの方が一枚上手だった。
男は剣を収めると、フードを取った。
「久しぶりです、クスィフォ師匠。」
「そこまで久しぶりじゃないけどね。元気そうでなによりだ。」
「「「 け、け、剣聖!? 」」」
エリスやアリシア、更に他の人たちまでもが声をハモらせて驚いた。
「師匠、目立っちゃってるんですが。」
「そりゃ、平民の君が僕に勝ったからじゃない?」
「いや、もともとあなたは有名ですから。」
「いずれ、君は僕よりも有名になるよ。」
いや、ないない。
「じゃ、僕は忙しいのでこれで。」
「あ、ちょ、」
逃げやがったな。俺に全部押し付けて。
だったら、俺も………
「エリス、アリシア、次は魔法学だから移動しようぜ!」
そう言うと、すぐにこの部屋を出て追いかけてくる人達を振り切る。
あとから、2人はやってきた。
「はぁ、はぁ、色々聞きたい、けど、ちょっとまって。」
「早い、ですよ。はぁ、何で置いて、行くんですか。」
アリシアとエリスは膝に手をついて、息を整える。
「まず、なんで平民が[剣聖]と知り合いなの?なんか、師弟関係っぽさそうだったけど。」
「そうですよ。私達でも直接話したことはないのに。それに、[剣聖]に勝つ実力をどうやって身につけたんですか?」
少しして息を整えた二人は矢継ぎ早に質問をしてくる。その様子はケミーナに質問攻めする昔のイロアスに似ていた。
「ちょっと待ってくれ、一度に言われてもそんな答えられない。」
そう言うと、2人は目配せしてどちらが先に質問するか決めた。
先になったのは、アリシアだった。
「まず、[剣聖]とどういう関係?」
「師弟関係。」
別に嘘をつく必要はないので、正直に答えた。ケミーナのこととか、自分のステータスは伏せておこうと思うが。
「じゃあ、今度は私から。先程、[剣聖]に勝っていましたけど、その強さは師匠ー[剣聖]ーによるものですか?」
「ああ、毎日死ぬほどの修行をこなして死ぬほどの痛みを味わいながら努力した。」
魔力枯渇状態で剣を振り続けたので、文字通り死ぬほどのことをしていた。それに筋肉を徹底的に壊したあとに、超希少高位回復薬〈エリクサー〉で完全回復させるという荒業で、筋肉を極限まで鍛えていた。
今更思うとあれは、本当にきつかったなぁ〜。
酷使してボロボロになった身体はめちゃくちゃ痛いのに、エリクサーで回復しているときは全身がめちゃくちゃ痒いのだ。引きちぎられた筋繊維が結合し直して更に強固になっているからなのだろうけど。
「んじゃ、また戻ってウチから。アスのその魔剣はどうやって手に入れたの?」
「師匠からもらった。」
うん。嘘は言っていない。この言い方だと、2人は師匠のことをクスィフォだと思うだろうが。まぁ、別に問題ないだろう。それよりも大魔導師の家に住み込みで修行していたと言う方が問題になるだろう。
「イロアスの魔力量は一体どのくらいなのですか?あんなに魔剣で魔法を放っていましたけど。」
「それは………ちょっと答えられないな。」
さすがに王国で一番多いと思いますとかヤバいし、俺が国から命を狙われかねん。
「師匠は剣でイロアスは刀だけど……その魔剣って本当に師匠からもらったの?」
うぐっ、やっぱアリシアは目ざといな。けどまぁ、俺は嘘は言っていない。しかし、真実も言っていないがな。
「ああ、元々俺は刀を使っていたからな。『お前の方が使いこなせる』って言われてもらった」
「そう。まぁ、嘘は言ってなさそうだけど、なにか隠してるな〜。」
だから目ざといな、コイツ。
「まぁ、後々話すさ。それよりも、まだ魔法学が終わってないから早く教室行くぞ。」
「はいはい、言質とったからね〜。」
「アリシア、私達は1階ですよ。」
魔法学の試験部屋は、受験番号ごとに割り振られていて、1番と8番のエリスとアリシアは1階の教室だった。
それに対して……
「俺は4階かよ。」
2人の背中を見送った後、師匠の『魔導のススメ 超応用編』を読みながら階段を登った。
次も早く更新したいですが、ストックがないのでいつか分かりません。