第15話 緊張はしすぎない方が良い
久しぶりの更新です。
まだ読んでくれている読者がいたなら幸いです。
「なんか、あっち騒がしいね。」
「イロアスは大丈夫でしょうか?」
「あれ?なんで最初にアスの名前が出てくるのかなぁ〜?」
「な、なんでもありません。ちょっと心配しただけです。」
実際には、イロアスが騒ぎを起こしたので心配事はなかったのだが。
「私達はもう終わったし、剣術の方行こうよ。」
「そうですね。次も頑張りましょう。」
ちなみに、エリスとアリシアは全弾をオレンジ以上に命中させ、イロアス・エリス・アリシアの順に得点が高かった。
◇ 剣術試験場に到着
会場にはもう多くの受験者が集まっていた。貴族達はグループでまとまって話しているのが多く見られる。これは多分、同じ貴族階級で固まっているのだろう。
そんな中、イロアスは1人でケミーナの改造型詠唱符の本を読んでいた。
「これより、剣術の試験の説明をします。」
いかにも騎士っぽい30代くらいの甲冑に身を包んだ男性が、闘技場に立って声をあげる。
腰に差した剣は、中々の業物だった。
「今から、列に並んでもらって、順番に私ともう2人の剣術指南の先生と戦ってもらいます。ここにいる人達は、魔法科志望ということなので、剣を持っていない人は右手の方に掛かっている剣を使って下さい。」
イロアスが右を向くと、壁には多くの剣が掛かっていた。たいていが鉄のシンプルなロングソードやショートソードで、刀を使うイロアスには向かないものだった。
「また、魔法科の先生が〈バリア〉をかけますが、〈守護〉は禁止なので、怪我をしたくない人は左手にある防具を貸しますので装着して下さい。」
まぁ、防具は重いから必要ないかな。動きにくくなるし、師匠やクスィフォと戦っているときも防具なんか一切着けずに、シャツ1枚で戦っていたからな。
「もう一度言いますが、魔法は一切使用禁止です。監督の先生が見張っていますので、もし魔法を使用したことが発覚したら、その時点で失格となります。説明は以上ですので、床に書かれている線に沿って1列に並んで下さい。」
前行くと、下手に注目を浴びるから後ろ行くか。カコニフィスとか絡んで来そうだし。それに、貴族はあんまり良いイメージがしないんだよなぁ。
「まぁ、あいつらは違うけどな。」
「あいつらって誰のことかな?」
「うおわっ……って、アリシアかよ。エリスも久しぶり。」
後ろからいきなり声をかけられたと思ったら、それは見たことのある顔だった。
「うおわっだって。面白い反応なのはいいけど、私とエリスの扱いに差がない?」
「アリシアがいきなり声かけたからじゃない?」
スミレ色の銀髪と澄んだ碧眼を持つ美少女は今日も可憐だった。
「まぁ、気の所為だろ。」
あたりに目を向けると、自分たちに視線が向いているのを感じ取った。エリスとアリシアはそれほどまでに有名なのだろう。
それに、俺はさっき目立ってしまったし。まぁ、早く移動するか。
「俺は、列の後ろあたりが良いんだが、2人はどこがいい?」
イロアスは無意識のうちに、この2人と行動することを決めていた。
「どこでもいいよ〜。」
「私もどこでも大丈夫です。」
「じゃあ、移動しようぜ。」
他の人は我が先にと前に行く中、3人は列の後方へと回った。
「ここらへんでいいか。」
後ろから20番目くらいのところで、人混みにのまれながらイロアス達は列に入る。
「ところで、さっきのあいつらって誰のこと?」
「さあな。」
素直に答えても恥ずかしいだけなので、イロアスは誤魔化した。それに何よりもアリシアにいじられそうだたため、隠すことにしたのだ。
「あ〜誤魔化した〜。」
「いや、別に言わなくてもいいだろ。」
「私達に隠し事なんて…ひどいじゃないか。」
「いや、なぜ言わなきゃいけないんだよ。」
イロアスとアリシアが言い合っている隣で、エリスはじっと闘技場で剣を合わせている様子を眺めていた。
胸の前には、綺麗な装飾が施された細剣が両手で握られていた。
「エリス、緊張しているのか?」
イロアスが尋ねると、少しビクッとしてから我に返る。
「はい、少しは。良い成績が取れないと、両親に迷惑をかけてしまうので。」
「そうか、それは大変だな。」
貴族の子供は、将来その家を継ぐために小さい頃から、魔法・社交辞令・剣術など、さまざまな貴族の嗜みを覚えさせられる。その魔法の成果を発揮できる場の1つが、この魔法学園なのだろう。
俺も、師匠との成果を発揮させないとな。
「といいますか、イロアスとアリシアがおかしいんですよ。なんで全然緊張してないのですか?」
周りにも緊張している受験者が多数見られる。カコニフィスのような例外を除けば、ほとんどが緊張しているなかで、2人は呑気に言い合いをしていたのだから、エリスの言うことは正しい。
「まぁ、緊張しすぎても良くないしな。」
「そ〜だよ、エリスちゃんは心配性だな〜。今の成績だと、エリスは2位だから大丈夫だよ。」
「……」
「おい、なんでお前が知ってんだよ。」
まだ入学もしていないアリシアが、何故監督の先生しか知らない情報をしているのだろうか?
「そりゃ、まぁ、辺境伯のコネでね。」
「ってことは、俺のも見たのか?」
器物損壊で減点されてなければ、高得点のはずだが…
「もちろん、1位だから嫌でも目に入るよ。」
「さすが、イロアスですね。」
イロアスの実力のほんの1部を知っている彼女たちは、イロアスが余裕で1位を取ってくると分かっていたのだ。
ちなみに、今3人は列に並びながらも、円を作るように立っていて、周りには声が聞こえないようにしていた。
イロアスのプライバシーを考慮しての行動だろうが、さすがは貴族といったところか、あからさまに声を小さくして話すなど、目立つ行動も2人はしなかった。
「でも、すごすぎるよねー。魔法演習の点数、100点満点中、700点ってどうかしてるよ。それに枠外に的破壊って書いてあるんだけど。」
「700点…それに破壊…」
アリシアの点数暴露に、エリスが固まった。点数が限界突破する時点でおかしいのだが、もう満点の7倍とまでくると、誤植を疑うレベルだ。更に、破壊不能の言い伝えがあった、的をすべて破壊したのだから、そうとう桁違いのレベルだ。
「あれは少しやりすぎたと反省してる。」
全然、少しじゃなくてだいぶな気もしたが、やりすぎたのは確かだ。
「あの騒ぎって、イロアスが起こしたのね。」
「魔法演習が終わった時のですか……」
そこまで言って、エリスは墓穴を掘ったことに気づいて、口をつぐんだ。
「そういえばその時、エリスが変な事言ってたな〜。」
「ちょ、ちょっとアリシア!」
「照れちゃって〜可愛いエリスちゃんったら。」
2人がじゃれ合うのを微笑ましく、見つめていたイロアスは、ふと列がもうだいぶ前に来ていることに気づいた。先生が強いのと、元々ここにいる人たちが魔法科志望ということもあって、1試合がだいぶ短い。
というか、剣の握り方からなってないやついるぞ。大丈夫か?貴族たち。
「あ、もうすぐですね。」
エリスも気づいたらしく、少し緊張した声でそう言った。
さっきまで全然緊張してなかった(イロアスとアリシアがほぐした)のに、また緊張してしまっているらしい。
「ところで、エリスの剣は、家宝かなんかか?」
タレイアのおっさんの裏倉庫のモノと同等かそれ以上に、装飾などが繊細で、強度も高そうだった。
さすがは貴族最高位の公爵家といったところか。
「あ、はい。そのとおりです。銘はアイスベルグで、代々リストレア家当主の家宝・武器として受け継がれているものです。」
そのような大層なモノを持ってきて良いのだろうか?危なくないか?剣もエリスも
すると、アリシアがイロアスの考えを察したらしく、口を開く。
「大丈夫だよ。行きは護衛・帰りはイロアスが付いているし、この学園内では人の目が多い。もし取った、子供がいれば、その家は今の代でつぶされるから。」
アリシアはさらっと怖いことを言い、しかもイロアスに一緒に帰ることを確定させていた。こういうとこは、ちゃっかりしているアリシアだった。
というか、行きの護衛はどこに行ったんだよ。行きいるなら帰りもいるだろ。多分、俺より本職の方の方が有能だと思うぞ……多分…
「なるほど、怖い話だな。」
なんだか、貴族の闇の面を見た気がするよ。公爵って地位は強いんだろうなぁ〜。
「さすがに今代では潰さないと思いますよ。」
「つまり、次の代になれば潰されるのか。」
エリスの必死の弁明も、イロアスの意地悪によって潰えた。なんだか、アリシアに似てきたなぁと自覚してしまったことをイロアスは残念に思った。
「もう、イロアスもアリシアに似て酷いです!」
「ごめんごめん。ちょっと、からかっただけだよ。それよりもほら、次はエリスの番だよ。」
イロアスの言葉に前を向くと、エリスの前に並んでいる人はおらず、闘技場への階段がそびえ立っていた。
「えっ、もう、ちょっと、心の準備が……」
「まぁ、頑張れ。応援してる。」
そう言うと、イロアスは挑戦者がいなくなった闘技場へとエリスの背中を押す。
「頑張ってね〜!エリスなら大丈夫だよ!ファイトーー‼」
「ちょっと、アリシア。恥ずかしいって。」
アリシアの激励により、緊張が再度ほぐれたエリスは、愛剣とともに先生と対峙する。
「〈バリア〉」
エリスに魔法の防御結界が張られると、先生とエリスはお互いに向き合い剣を構える。
『始め!』
短い合図のあと、エリスがそのロングレンジを活かして、すぐさまレイピアを突き出す。
先生の剣は学園の備品と同じ鉄のショートソードに対して、エリスのはアダマンタイトなどの超合金製の家宝級レイピア。武器の力の差は、歴然としたものだった。
「つっ。」
先生は少し仰け反りながらも、向けられた切っ先を剣で払い反撃に出た。
対するエリスは、突き出した剣を引き戻して、振り下ろされた剣を受け止める。
キィィィィンと澄んだ音が響く。
成人男性と15になる少女では、力の差が大きく生まれる。女子じゃなかったとしても、普通の男子なら大人には敵わない。
「くっ。」
受け止めたエリスは、上からの重圧に顔を歪める。
「はぁっ。」
横に大きくレイピアを凪ぎ、間合いを取ろうとするが、少し大振りすぎた。
その結果、がら空きになった身体に剣が突きつけられる。
『そこまで!』
審判の声がかかると、2人は剣を収めた。
イロアスが今まで見てきた試合で、最も見応えのあるものだった。
「お疲れ様、なかなか良かったよ。特に初撃は素早くかつ正確で、とてもよかった。」
先生でさえ、対応に遅れてたからな。
「ありがとう、ございます。次はアリシアですよ、頑張って下さいね。」
「エリスちゃんにそう言われたら、私やる気出ちゃうよ〜。」
アリシアは一切緊張が感じられない様子で、闘技場に入った。
「〈バリア〉」
『始め!』
エリスと違って、アリシアはすぐには動かなかった。相手の出方を探ってカウンターを入れる作戦だろうか?
先に動いたのは先生で、コンパクトに剣を振り下ろす。
大振りではないのでスキは生まれにくいが、上から下ろすため重力も加わった重い一撃だった。
…が、それを手首の返しですばやく横に倒した刀身で受け止め、また手首を返してカウンターを見舞う。
とても簡潔だか、一つひとつの動作が速すぎる。それなのに、とても丁寧で力強い一撃だった。
「まいった。さすが、バーフィネスの娘だ。隙を見せたつもりは無かったんだが。」
「カウンターならウチの十八番だからね。」
そう言うと、一仕事終えたアリシアはイロアス達の元へ戻ってきた。
「驚いた。まさかあんな強いとは。」
「辺境伯は敵国との国境付近の領地だからね〜。バーフィネス家はいつ戦争が起こっても大丈夫なように特殊な訓練をされているのさ。」
「さすが、自慢の親友です!」
なるほど、[戦神]の他にも軍事的戦力は多くあるのか。
イロアスは脳内に『辺境伯は強し』とインプットしておいた。
『次。』
審判からお呼びがかかったので、一番最初にケミーナから素振り用でもらった刀を掴み、闘技場に入る。
相手は、さっきとは違う先生だった。
この刀はなんだかんだ言って、意外と思い入れがあるモノなのでもう使えなくなってもー素振り用にしては、イロアスにとって軽すぎるためー大事に手入れしていた。
「今思ったけど、イロアスの剣って不思議な形しているね。」
「アスの剣?……ああ、あれは刀だよ。どっかの地方ではよく使われているらしいけど…どこだっけ?」
「かたな…へぇ。」
それを聞いて、エリスはその地方を後で調べてみようと思った。そうすれば、イロアスの地元がわかるかもしれないのだ。
「〈バリア〉……えっと、防具は着けなくて大丈夫ですか?」
あー、そういえばそんなのあったな。別にいらないし、着けたことないけど。
エリスやアリシアも薄いプレートメイルは着けていたが、俺はただの服。さすがに心配されるか。
「大丈夫です。」
『それでは、始め!』
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次の更新も早くできるよう頑張りたい。
その次は分からないが…………




